霊~ポルターガイスト~ 其の肆

 寝ている間に物音がするのが毎日のことのように続いた。

 本棚の本はほとんど全部床にばら撒かれたままにしてある。元に戻しても、またひとりでに落ちてしまうからだ。キーホルダーを投げ込んだクローゼットも、その前をゴミで塞いでもいつの間にかそのゴミがどかされて、扉が開いている。

 章臣には、外に逃げ場もない。じっと布団を被って耐えるしかない。


 がりがりがりがりがりがり……。


 布団から顔を出して、驚いた。部屋の電気が点いていた。すぐにリモコンで消そうとすると、フッと消えて真っ暗闇になる。今度はパソコンの電源がついて、部屋をぼんやりと照らし出す。そして、すぐに電源が落ちる。クローゼットの中を何かが動き回るように、


 ごそごそごそ……。

 がさがさがさ……。


 章臣の心を弄ぶように、物音が続いた。章臣は逃げ込むようにイヤホンを装着して、スマホに接続し直し、適当な音楽を流し始めた。外の世界と遮断されて、章臣は思いを巡らす。

 あの洋介があれほどまでに怯えていた理由はひとつしかない。そして、その理由に章臣も心当たりがある。


 じゃりん。


 すぐそばの床の上に何かが落ちた。目をやると、あのキーホルダーが落ちていた。

「もうやめてくれよ……」

 かすれた声でそう呟いた。その時、


 ばぁん!


 大きな音を立ててパソコンのモニターが割れた。


 ばさばさばさ!


 本棚に残っていた本が残らず床にぶちまけられる。そして、本棚がゆっくりと倒れて、大きな音を立てて床に横倒しになる。天井の照明が一瞬点いたかと思うと、照明のカバーの中で、


 ぱぁん!


 と音がして再び真っ暗闇になる。

「うるせえぞ!」

 隣の部屋から怒号がした。

 章臣は布団の中に潜り込んで身を震わせた。逃げ出したいが、部屋から出てどうすればいいのかも分からない。助けを求めるあてもない。

 そして、じっと孤独を噛み締めた。


 ぼとっ。


 章臣が被る毛布の上に、何か固いものが落ちる。毛布越しにあのキーホルダーがぶつかるのを感じた章臣は、そのまま動くことができなくなってしまった。

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