霊~ポルターガイスト~ 其の参
「最近どんな感じですか?」
章臣を担当するケースワーカーは
「いや、まあ、普通です……」
章臣にはそう答えるしかなかった。全て狭い部屋の中で完結する毎日だ。
「具合の方はどうですか? お医者さんと話されました?」
「まあ……、まだ動くのも億劫なんで……」
医者と話したのはもうずいぶん前だ。だが、深く詮索されないので、章臣は病院に行くのもやめてしまった。
「そうですかぁ。大変ですもんね。もうちょっとゆっくり休んでね、また何かできればいいですけどねえ」
章臣は答えなかった。
「何か」とは何だ? 何かをしていなければならないのか? そんな疑問が章臣の頭の中を駆け巡る。
ばたん!
部屋の中で何かが倒れる音がした。中西が部屋の中を覗き込む。
「あれ、ご家族の方ですか?」
──友人とか恋人だとかがいるとは思わないんだな。
章臣はぼんやりとそう考えながら、
「いや、誰もいないです。物が倒れただけ」
がりがりがりがり……。
ばたばた!
ばさばさばさばさ……。
中西は眉間に皺を寄せた。
「ずいぶん賑やかですけど」
章臣は部屋の中を青ざめた目で見ていた。彼には音で分かった。きっとまた本棚の本がばら撒かれているのだ。彼の表情を見た中西は、声を潜める。
「何かありました? 顔色が……」
「いや、何でもないです」
話を聞き出せなくて残念がっているのか、中西は悲しそうな表情を浮かべた。
「ちょっとでも話したら、気が楽になると思いますよ。もちろん、無理にとは言わないけど……」
章臣はじっと見つめてくる中西と目を合わせることができなかった。というより、章臣は彼女の顔をまじまじと見たことはない。だから、どういう顔なのか、未だにいまいちよく分かっていないところがある。
章臣は震える口を開いた。
「誰もいないのに、物が……」
「物が?」
顔を覗き込んでくる中西から目を背けて、
「やっぱり、なんでもないです……」
と、章臣は拒んでしまった。
「もしアレだったら……」
章臣の前に黒いカードが差し出される。恐る恐る手を伸ばしてそれを受け取る。
<霊媒師・
「知り合いにね、そういう相談に乗ってくれる人がいるの。もしよかったら……」
「いや、そういうんじゃないんで……」
ほんの少しでも会話ができたことが嬉しいのか、中西は優しい笑顔を向けて帰って行った。
章臣はデスクの上に黒いカードを投げ置いて、大きな溜息をついた。
その日の夜に、洋介からの連絡があったのだ。
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