第2話 速く、もっとはやく

「速く、もっと速く!」


「哲樹、走る練習しろと言ったよな。帰ってから走ってきた?」


哲樹はバッティングのセンスはなかなか良いが、足が遅いからせっかく打ってもアウトになってしまう。

だからいつも「速く、速く!」と言ってきた。


チームは勝ち進み、勝てば全国大会出場という試合。


終盤、1点をリードされた場面、哲樹がヒットを放った。

そのあと3塁までは進んだ。


まだ1アウト。

打者がレフト方向に打ち上げた。

ボールは高く上がり、少しずつ落ち始めた。


その時、哲樹がホームを目がけて猛然と走り始めた。

当然、審判もそれを見逃さなかった。


哲樹がベンチに帰ってきたとき、半ば仕方なく言った。


「お前、今日は本当に早かった」

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