高校デビュー
西園寺 亜裕太
第1話
「よし、これで高校デビューはバッチリね!」
鏡に映る、中学時代とはまるで別人みたいに輝いている自分に向けて声を発した。
入学式を終えて教室に入る前に、お手洗いの鏡の前でしっかりと自分の身だしなみを確認する。
お日様に当たればうっすらと茶色くなる髪の毛、コンタクトとアイメイクでパッチリとさせた二重まぶた、少し短めの丈のスカート。
しっかりと入学前から高校デビューに向けて勉強してきたのだから、きっと大丈夫!
そうやって自分に言い聞かせながら、教室に向かおうとしたときに声をかけられた。
「あ、あなたも高校デビューするんですね!!」
どうやら先ほどの独り言を聞かれてしまっていたらしい。
鏡ごしに聞こえてきた、震えながらもどこか嬉しそうな声を聞き、わたしはゆっくりと後ろを振り返った。
「あなたもって……」
そこに立っている少女は多分同じ新入生だけど、おさげ髪に重たい前髪で、レンズの厚いメガネをかけた、猫背でとても地味な子だった。
どこをどう見ても、これから高校デビューを画策しているような子の見た目ではない。わたしの中学時代を彷彿とさせるようなパッとしない子である。
別にそれが悪いことだとは思わないけど、せっかく今日から高校デビューをして、地味だった中学生活とはおさらばし、高校からは華やかにクラスの中心で楽しみたいわたしにとっては、この子と仲良くするのは得策ではない。
それでも、目の前の少女は表情の乏しい顔で懸命に笑顔を作って話しかけてくる。
「高校デビューするのって私だけだと思ってたので、お仲間がいて、すっごく嬉しいです! ぜひお友達に……」
「悪いけど、他を当たってよ。わたしはあんたとは違って華やかな高校生活を送るつもりなんだから!」
「そ、そんなこと言わずに……。わたし、高校デビューで上手くやれるのか不安で心細かったんです。そんなときに、わたしと同じ境遇のあなたと出会えて嬉しくて。やっぱり絵とか描くのあなたも好きなんですか? わたしは幼稚園に入る前からずっと描いていて……」
まだまだ話が続けそうだったので、わたしはさっさと彼女を置いてお手洗いを出た。わたしがいなくなっても少しの間何かを喋っているみたいだったけど、何を言っているのかはよく聞こえなかった。
☆☆☆☆☆☆☆
「えっと、それで、わたしの名前はピョンピョンストロベリーって言って……、ってもう居なくなってる……」
せっかく同じように高校デビューをする子がいて、すっかりテンションの上がっていた少女は目の前にいた子がいなくなっていてガックリと肩を落とした。
「プレッシャーとか両立の不安とか、気持ちを分かち合いたかったのにぁ……。でも、まだまだ今日は初日だし、これから仲良くなれるかもしれないし、頑張ろっと」
少女は目の前で両手をぐっと握り締めた。今日から始まる不安と期待いっぱいの高校生活に胸を弾ませながら。
☆☆☆☆☆☆☆
「とりあえず、今日はまずまずだったわね」
家に帰り、わたしは制服のままベッドに体を投げ出した。
入学初日から、クラスの中心にいるような華やかな子たちと一緒に帰ることができたし、連絡先も交換した。なかなか幸先が良い。
「お手洗いであの地味子に声かけられた時はどうなるかと思ったけど、わたしの高校デビューが邪魔されなくてよかったわ……」
安堵のため息をつき、ベッドに寝転がったままお気に入りの漫画アプリを立ち上げると、本日のお気に入り作品としてピックアップされている作品が目に入った。
『新連載! 高校生漫画家ピョンピョンストロベリー先生の衝撃デビュー作!』
「へえ、わたしと同い年なのに、凄い子もいるものね」
そんなことを呟きながら、日間ランキング1位のピョンピョンストロベリー先生の作品に目を通すのだった。
高校デビュー 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji
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