第7話

 総司は寿と二人、屋敷の二階の掃除はほっぽり出して、森の中を歩いていた。


「なあ寿さん、色々聞いてもいいか?」


「いいよ!私に分かることならなんでも」


「えっとじゃあ、確認からなんだが、寿さん、あなたも『日本人』なんだよな?」


「そだよ!私も何年か前に召喚されたんだ」


「何年か……そりゃあベテランだな、それでこの地……冬国だったか?は他の国と戦争してるのか?」


 総司はこれまでの周囲の人間の会話から推察したことを寿に尋ねる。


「そだよーー、冬国は四国の中でも最弱だからね!頑張らないと」


「冬が最弱……なんだか生前に聞いた話だ」


「……?」


「いや、こっちの話だ。それで?どうして戦争なんかしてるんだ?平和に仲良くやれなかったのか?他の三国と」


「えっとね、総司君、今の季節は?」


「……冬、だろ?」


「そう!冬!じゃあどうしてだと思う?」


「そりゃあ、地軸の傾きがあってだな……」


「違うよ!」


「いや、違うって、中学の理科で習ったぞ」


「総司君、ここは異世界だよ?そんな常識通じないよ」


 いまいち要領のえない答えに、総司は首を傾げる。寿はその反応を見て少し楽しそうに笑った。


「じゃあ、答え……この世界の季節はね、その地の『神』によって定められているの」


「つまり……?」


「総司君が出会った白姫ちゃん、彼女こそが『冬の神』なんだよ。だから、この領地は冬」


「……まて、なら『夏国』には夏の神がいて、そのおかげでそこは夏なのか?」


「そうそう、そーゆーことだよ」


 そこまで聞いた総司は、一つの解答にたどり着いた。


「なら、戦争するのは、各国が己の領地を広げるため……つまり、己の『季節』を守るため」


「大正解!!」


「ちなみに、その国の季節の神が死んだ……いや、殺されたらどうなる?」


 総司は、神が寿命などで死ぬことはない。ありえるとしたらヤラれた場合だろうと予想して、質問の仕方をかえる。


「恐らく予想通りだよ!その場合、そこの季節は消滅する。この世界から一切ね!事実、ついこの前、『梅雨』の神様が死んで、季節が消滅したんだ!」


「梅雨が消滅!?」


「そう!もうないよ。この世界に、梅雨は」


 当たり前のように寿はそう告げた。


 その様子に違和感を感じた総司は再び問う。


「なんでだよ、別にみんなで仲良くすれば、どの季節も存続できるだろ」


 同盟でもなんでも結んで、戦争を止めれば、全ての季節がこの世界にならんで存続できるはずなのだ。


 しかし、それはあっけなく否定されることになる。


「えっとね、この世界には『最高神』がいて、その神様が言ったんだよ!『この地を収めた季節に永遠の繁栄をもたらそう』って」


「……なんだよそれ、余計なことをする神だな」


「でしょ!?ほんと、それで戦わないといけないなんて、やってられないよ」


 寿は「はぁ」とため息をつきながら、首を横に振った。


「ちなみに、もっと最悪なのが、『季節』がなくなれば、その季節の『行事の加護』をもっている人も生きられなくなるってことかな」


「季節がなくなってるのに、その季節の行事だけが残っているのはおかしいってことか?」


「ま、そういうことだね!だから、私たち日本人は、召喚されたら戦うことが唯一の生きる道ってわけ」


 冬国がなくなることは、冬がなくなることになり、それは同時にその季節の加護持ちの日本人が死ぬことを意味するわけだ。


「ちょっとまて、なら俺もこの国がなくなれば……」


「うん、死ぬよ?」


 寿は、さも当然のように言ってのけた。


「嘘だろ……」


「まっ、私たちが頑張るからさ!総司君はここでゆっくり過ごしてくれたらいいよ!」


 彼女の発言から、寿の加護が戦闘に特化していることが分かる。


「寿さん、あの羽子板で戦えるのか?」


「まあね!見ててよ!丁度いい昼飯が現れたみたいだからさ!」


 寿はそう言うと、羽子板を召喚した。


「昼飯って……」


 そこで、総司は目の前を巨大な影が覆っていることに気がついた。


「上!?」


 空を見上げれば、そこには巨大な怪鳥がいた。


「コゲェェエ!!!!」


 声を聞いただけで身がすくむ。


「なんだ、あいつ!」


「あれが今日のお昼ご飯だよ!総司君」


 瞬間、怪鳥はギョロリとした目をこちらに向けた。口が大きく開かれる。


「おい、なんかヤバそうな……」


 ビームが放たれた。化け物の口から。


「……!?」


 唖然とする総司。


「その攻撃、もーーらいっ!」


 真上からの直撃コース。


 寿はその攻撃に向かい合った。


 そして……


 羽子板を思いっきり振り上げた。


 ビュンッ


「弾いた!?」


 ビームが羽子板に当たった途端、その攻撃はUターンした。


 ドォオオンッ!!


「こ、こげぇ……」


 Uターンした攻撃が、怪鳥に衝突する。


 怪鳥は、己の攻撃に打たれて、そのまま地に叩きつけられた。


 その景色を当たり前に受け止める寿は、話を続ける。


「私の加護『正月』の技の一つ、羽子板ってのはね、災いを『はね』のけるんだ!」


「カウンターか」


「そーゆーこと」


 ドォォン……


 怪鳥が落下し、周りの木々がメキメキと音を立てて折れた。


「すげぇ、こりゃ最強だ」


「ふふんっ!すごいでしょ」


 寿は得意げに、ウインクした。


 その後、家に帰ったら総司は、酸っぱくない真のボルシチを作り、寿にいやといいほど嫉妬されるのだが、それはまた別の話。

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