彼のセカイ

数分前。

安藤が解除キーを入力したものの、爆破は解除できなかった。


「おい、解除できてない!何でだ!?」

「・・・・あいつらの暴走で中の磁場が狂ったのかも・・・」

「じゃあ、止める方法ないのかよ!?」

「・・・・・ああ・・」

「外に持ち出すのはだめなのか!?」

「この中にはGPSが仕込まれている・・・この部屋から持ち出せば、その瞬間に爆発する・・」

「・・・・・・・・」


しばし考えた後、アオは意を決したように口を開いた。


「わかった。・・お前は、逃げろ」

「え?お前は?」

「俺は・・・ここに、残る」

「は?死ぬんだぞ!?」


「ここに、できるだけ深く穴を掘って・・・爆弾を埋める。そうすれば、俺は無理でも、二階のあいつらは助かるかも・・・・他の色人たちには、何も言わないで、すぐ駆けつけるって伝えてくれ・・・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ア、アオ~」


キイロは泣きながら施設に駆け込もうとしたが、ミドリに引き留められた。


「バカ、何しに行くんデスカ!」

「ア、アオを助けないと~」

「もう時間がありマセンヨ!今から駆けつけて、アオもあの被験者達も救うなんて不可能デス」

「そ、そんな~」


キイロはまた大泣きし、ミドリも途方に暮れた。


「しかし、アオも何てバカな事を・・・。被験者を見捨てたら助かったノニ・・」

「せっかく、あかりんに生かしてもらったのにねっ」


「・・・・・・・・」


「・・・だから、かも~・・・・」

「えっ?どうゆうことっ?」


「・・・前にクロが言ってたでしょ、シロのいない世界なんてって・・・」

「アオにとっては、あかりちゃんが、〝世界〟だったのかも~・・・」


「ア、アオアオ・・・・」

「しかし、この後はどうするんデス?被験者達を救い出さなければ、アオの徒労に終わります。水に絵を描くって奴デスネ」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「え?ミドリ、今何て~?」


「だから、被験者を助けなけレバ・・・」

「違う、違う。その後~!」

「水に絵を描く・・・デスカ?これは人間の諺デ」

「絵を・・・描く・・・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一方アオは。

「ハア・・・ハア・・ここまで掘れば、安全か・・・」


自分の能力を最大限使って十メートル程地面に穴を堀り、塗料を手のように引き伸ばして、穴の中に爆弾をそっと置いた。


「これを更に埋めないと・・・・っ」


急に胸に痛みが走り、アオは蹲った。


(移植の拒絶反応か・・・・)


そもそも手術終えたばかりなのにここまで走ってきた。体には大きな負担がかかっていた。


(うめ・・・埋めないと・・・)


目の前に積まれた土に手をかざすと、違う手が、そっと重ねられた。


「・・・・・・?」


その手の先を見ると、そこにはあかりが立っていた。


「・・・・・・!?」


どうゆうことだ。アオは混乱した。


しかし、あかりは無言でアオの手に手を添えていた。


(・・・・幻覚か?それとも・・・・)


混乱しながらも、アオは立ち上がり、土を穴に落としていった。


あかりも手を添えてくれている。


(そうか・・・この姿は、きっと・・・)


「・・・・俺が人間に戻りたかったのは、他の色人の為・・・や」


「命を狙われたくなかった・・・てのも確かに、あるけど・・・」


「俺は・・・・・」


「俺は・・・あんたの作った蕎麦が食べたかった・・・」


そう呟いて、アオはあかりを見つめた。


「また・・・ケンカしような」


そう伝えると、あかりは笑って頷いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数年後。

日本から遠く離れた、どこかの国。


アジア系の移民が多く住む町。治安が決して良いとは言えないが、その町は活気に溢れていた。


【おい、市場の角に出来た店知ってるか?】


【ああ、行ったことあるぜ、ジャパニーズがやってる・・・〝蕎麦屋〟だろ?】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る