最愛

「藤吉あかりさん、ご同行願います」


この前と同じように、銃を突きつけて、こちらへ向かってくる。


(どうしよう・・・キイロくんいないのに・・)


トイレに行ったスキを狙ったのだろうか。そう考えてる間に、後ろから別の男に取り押さえられた。


「や、やだッ・・・んぐ」

叫ぼうとすると、手で口を塞がれた。


「おい、ソイツもだ」


あかりをおさえた男がもう一人に指示すると、男はアオの呼吸器を外そうとした。おそらくアオも連れていく気だろう。


「ん・・・・!んぐう・・・!」


その様子を見てあかりは抵抗しようとするが、体が自由に動かない。声も出せない。


(だめ、あんな状態のアオを連れ出したら・・・・)


混乱するあかりの胸が、また痛みだした。


(痛い・・・ヤダ・・・イタイ・・・・!)


あかりは自分の口を塞ぐ手に思いっきり嚙みついた。


「・・・・・・・・!!」


次の瞬間、男の手から血が吹き出し、アオに手をかけようとした男が吹き飛ばされた。


「・・・な・・・!?」


いきなりの出来事に、男達は硬直していた。あかりが、嚙みついた手から流れた男の〝赤い〟血で、男たちを吹き飛ばしたのだ。


「・・・・・・・・・」


あかりは立ち上がり、口から流れる血を拭った。


「お・・お前・・・・赤の色人!?」

「アオに・・・触らないで・・・」

「・・・コイツ!」

アオの傍に立っていた男は震えながらも、あかりに拳銃を向けた。次の瞬間、拳銃は跳ね返された。


「・・・!?」


アオが意識を取り戻し、手に握られていた青の花びらで拳銃を跳ねのけたのだった。


「アオ!」


「あかりちゃん~何か凄い音が・・・て、ええ!?」

トイレから走ってきたキイロが病室の惨状を見て驚いた。


病室には白くなった血液が飛び散り、アオは意識を取り戻していた。


「何、どうした!?」

「う、上野先生~」


キイロの声を聞いて上野が駆けつけ、男たちは去っていった。


「アオくん!意識が戻って・・・」

「ここは・・・ごほっ」


意識を取り戻したが、まだ調子の戻らないアオは青い血を吐いてベッドに突っ伏した。


「ア、アオくん大丈夫!?」

「胸が・・・痛い・・・」

「う、上野先生~、あかりちゃんが~」

「えッ!?」


アオに取り掛かろうとした上野が振り向くと、あかりは床にうずくまっていた。


「あ、あかりちゃん、大丈夫!?すぐに処置を・・・」

「う・・・うえの、さん」

「何?どうした?」


上野はあかりに駆け寄り、抱き起こすと、あかりはもうすでに虫の息だった。


「わ・・・たし・・・もう、死ぬ・・・」

「!?何言っ・・・!?」


「なんか・・わかるの・・・もうすぐ・・・わたしの、心臓・・止まる・・・」


目がかすみ、息が苦しい。今まで経験したことない胸の痛みに、あかりは本能的に死を感じていた。


「あ、あかりちゃん・・・!!」

「あかりちゃん~何言ってるの~!?」


「・・・・だから、私が死んだら・・・私の、心臓・・・アオに、移植、して・・・」

「ええ!?」

「このままだと、アオも、私も死ぬ・・。私の血なら・・・大丈夫、でしょ」


「アオ・・・・」

あかりは涙の滲んだまっすぐな目で、アオを見つめた。


「私の心臓・・・あげる・・・・」

「お前・・・・」

「・・・アオ・・・・お願い・・」


あかりはアオに手を伸ばし、アオは震えながらあかりに歩み寄り、その手を取った。


「・・・・・わかった」


アオの言葉を聞いて、あかりは笑って目を閉じた。


「ア、アオ~!?」

「上野、まずコイツを・・・うッ」

「ア、アオ~!!」

アオは再び血を吐いて、うずくまった。


「・・・キイロくん、佐久間くんと母さん呼んで!二人とも手術室へ運ぶ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・デ?結局どうなるんデスカ?二人ハ?」


緊急で呼び出されたミドリとチャイロは不安そうなキイロを見た。


「・・・わかんない~。上野先生は、サイゼン?を尽くすって~・・・」

「最善と言っても、どっちも助けることは不可能デショウ。特に藤吉あかりの方ハ」

「・・・キイロっ!」


後ろから声をかけられ、振り向くと息を切らせたクロが立っていた。


「・・・あ、クロ~・・・あれ、シロは~?」

「シロが・・・」

「?」


「・・・・・サワガミに、さらわれた・・・・」


「ハア!!??」

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