電話の相手

「え、ええ~!?あかりちゃんのお父さんが!!??」

「佐久間さん、父に電話した時の状況、詳しく教えてほしい」


「・・・・・・あ、あの時、何回コールしても電話に出なくて・・・あ、録音、ある」

「ろ、録音してたの~?」

「な、何かあったときの証拠に・・。も、も一つのスマホに・・・」

「聞かせてもらえますか?」


佐久間はもう一台のスマホを取り出し、再生ボタンを押した。


『・・・ふ、藤吉さん!やっと通じた!い、今どこですか!?』

『西町のGSだけど、あの・・・』

『い、いいですか!落ち着いて聞いてください!父のパソコンに新情報がのってて、あ、あなたの兄が、ウイルスの開発者だったんですよ!!』

『・・・・・・?なに・・?』


『す、数十年前から、こ、このウイルスの研究はされていたんです。で、でも、開発者が辞職したことで、中断されたようですが、わ、私たちが今研究しているこのウイルスは、あなたの兄の作品なんです!!』

『わ・・・わたしたち・・・?』

『そ、そうですよ。わ、私と藤吉さんで研究している被験者たちです。だから、あなたのお兄さんに話聞いてみて』

『・・・絶対言うな!!』

『・・・・え?何で』

『だ、誰にも、この話はするな!二度と!・・・もう・・聞きたくもない!』

『?はい・・・』


「・・・そ、そう言われて、で、電話は切られた」

「これ、ハカセじゃない~・・・」

「違いマスネ」

「わ、わかるのか?」


「声は似てるけど、話し方がハカセじゃない~。ハカセは、自分の事、〝俺〟とか言わなかったし~」

「佐久間さんは気づかなかったんですか?」

「・・・こ、この時は、興奮してたから・・・それに、藤吉さんのスマホにかけたのに、何で兄が・・」

「この状況はわからないけど、多分父がその場に不在だったんじゃないかな。しつこく鳴るから、緊急かと思って出たのかも。後で取り次ぐつもりで・・」

「そ、それで、自分のウイルスがまた研究されてることを知って、ショック受けちゃったのかな~」

「この電話をしたのはいつですか?」

「は、八月十五日・・・」


「・・・このことも、もっと詳しく調べる必要があるね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日。佐久間、キイロ、そしてあかりは上野の個室へ呼び出された。


「父たちがいたガソリンスタンドの映像、入手できたよ」

「え、ええ~!上野さん、す、凄い!!」

「警察の知人の名前は借りたけどね。佐久間さんと電話で話していた日時を調べたら、監視カメラに父とあかりちゃんのお父さんが映っていた」


上野のパソコンのモニターに、ガソリンスタンドの映像が映し出された。


ハカセの車で、運転席にハカセ、助手席にあかりの父が乗っていた。


「・・・あかりちゃんのお父さんで間違いない?」

「・・・・はい・・・この日は、おじいちゃんの墓参りで・・・私と母は、行けなかったんですけど・・・」

上野に問いかけられ、あかりは震える声で応えた。


スタンド内に車を停車し、ハカセはお腹を抱えて、スタンドのトイレへ入って行った。あかりの父は車内で待機していた。


しばらく経ってもハカセは戻らず、車の中であかりの父はキョロキョロしていた。どうやらハカセのスマホがずっと鳴っているらしい。


しばらく迷ったようだが、窓の外を見ながら、あかりの父はスマホを取った。


そして、会話し、青ざめて、最期に激高し、勢いでスマホを切り、そのまま車内でうなだれていた。


「・・・・これが、あかりちゃんのお父さんが亡くなった日の朝だね。佐久間さんに口止めして、僕の父にも話さなかった。だから、父はこの事を知らなかった・・」

「じゃ、じゃあ、この事がショックで自殺を~?」

「お、お父さん・・・・」


映像に映る父の姿に、あかりは涙を滲ませた。


「最期に、家族を守りたかったのかも」

「え?」

「もしこのウイルスや研究の存在が世間にバレれば、開発者の自分が糾弾される。そしてその家族も。何も知らなかったと言っても通用しない。もし、開発者が責任を取って自死したとなれば、世間にバレても、家族には多少の同情の目が向けられる・・」

「お父さん・・・・・」


父の自殺の真相を知り、あかりはまた涙を流した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数日経ってもアオの意識は戻らず、アオの病室であかりは悲しみに暮れていた。


母の死、アオの負傷、父の死の原因・・・立て続けに起こった不幸に、あかりの精神は疲弊していた。


「・・・・・・・」


「あかりちゃん~・・・・」


寝不足で目を赤くしてるあかりを、キイロは心配そうに見つめた。


「・・・キイロくん・・・私、なんて酷いことを・・」

「本心から言ったんじゃないってわかってるから~、アオも僕も気にしてないし、アオはあかりちゃんに謝りたがってたよ~」

「謝る・・・・」

「あかりちゃんが人間に戻る方法はないかって、ずっと気にかけてたよ~」

「・・・・・・・・」


キイロの言葉であかりは再び涙を滲ませ、キイロはあかりの背中をさすった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「僕ちょっと、トイレ行ってくるね~」


あれからしばらくして、落ち着いたあかりを見て安心したキイロは病室を後にした。


病室でアオと二人きりになったあかりは、アオの手を握りしめた。すると、アオの手が少し反応を示し、手に握らせていた青色の花びらが落ちた。


「え・・・アオ・・!?」


指はかすかに動くものの、目を覚ます気配はない。


「アオ・・・起きて、起きてよ・・・!


「私、言いたいことが、たくさんあるの・・・」


「早く、仲直り・・・させてよ・・・!」


ふいに、あかりの胸が急激に痛みだした。


「・・・痛ッ・・苦し・・・・」

息を切らせながらうずくまると、いきなり病室のドアが開いた。


振り返ると、スーツ姿の男が数人、立っていた。


「サ、サワガミ・・・・」

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