予言

「・・・・よ、予言~?」


「僕の姉さんが屋上で亡くなったとき、アオくんの心臓の音だけが聞こえない、と言っただろ。実は、前にも同じことがあったんだ」

「同じコト?」


「・・・それはまだ子供のときだけど。姉さんが目が見えなくなって、しばらくしてから。ある日、僕が近所の犬と遊んでいたら、姉さんが通りかかって言ったんだ。〝一人で何してるの?〟って」

「ど、どうゆうこと~?」


「・・・どうやら、その時、姉さんには犬の泣き声も、足音も何も聞こえてなかったらしい」


「姉さんは凄く耳が良いはずなのに。でも、その時は、たまたまかと思って、気にしなかった。でも・・・」


「・・・数日後に、その犬は亡くなったんだ。突然死で」


「「!!」」


「もちろん、偶然かもしれないけど、でも、姉さんは未来に無くなる〝音〟がわかるんじゃないかって、思って、怖くなった・・・・」

「・・・・じゃあアオの心臓の音が聞こえなかったのも・・予言デ?」

「・・・・そう」


「な、何で教えてくれなかったんですか~!前もって教えてくれてたら~」

「こ、この話には続きがあるんだ・・・その、何年後かに、僕の友達が家に遊びに来た。僕が、十歳の時だ。姉さんが、僕の友達の、左の足音だけ聞こえないって、言ったんだ。声とか、他の音は聞こえるのに・・・」


「前の犬のことがあったから、僕は友達にそのことを伝えた。左足に気をつけるようにって。友達はひどく怯えてて・・・それで・・」

「それデ?」


「・・・その帰りに、その友達は死んだ」


「死んダ!?」

「車に轢かれて・・・。周りの人の証言によると、車が歩道に突っ込んできて、すぐ逃げればケガ程度で済んだはずなのに、何故か、左足を庇って逃げ遅れて、そのまま轢かれたって・・・そして、それを助けようとして、巻き添えになった人もいて・・・」


「・・・・・・・・」


まさかの真実に、キイロとミドリは絶句した。


「それを知って、ものすごく怖くなって。もちろん、どちらも偶然かもしれない。けれど、僕が余計な忠告をしたせいで、友達や通行人の人は死んだんじゃないかって、思うこともあって・・・」


「もしくは、未来を変えようとした僕に対して、天から下った罰なのか、とか・・・・・考えたり」


「と、とにかく、今後姉さんが何かを予言しても、絶対誰にも何も言わないでおこうって決めたんだ・・・」


「そ、それに、姉さんはアオくんの声や手を動かす音とか、心臓以外の音は聞こえていた。おそらく、心臓に痛手を負うけど、死ぬことはないだろうって」


「でも、万が一のことを考えて、アオくんに何かあってもすぐ助けられるように、青の塗料を用意しておいたんだ。あと、色人もなるべく近くにいた方がアオくんを守ってくれるだろうから・・」


「・・・そういうことだったんだ~」

「・・・他に隠し事はないデスカ?」

「・・・ないよ。さっきの電話も、別の科の担当医と新規の患者について話してただけで・・・」


「ご、ごめんなさい、上野さん~」

「い、いいよ。僕も黙ってたし。不安にさせて、ごめんね」

「ほら、ミドリも謝って~」

「私モ!?」

「これからサワガミとやっていくには、みんなで協力しなきゃ~」

「そうだね。僕としても、何とかみんなを人間に戻したいと思ってるんだけど、今、あかりちゃんはあんな状態だし・・・」


「・・・・まあしばらくは無理デスネ」

「あと、人間に戻ったら、君たちは色を操る能力が失われるということだ。今、サワガミに対抗するためにもこの力は・・まだ、持っていた方がいいかもしれない。実際、アオくんが色人じゃなければ、あかりちゃんはサワガミにさらわれていた」


「・・・わかりマシタ。とりあえず、あなたを信用シマス」

「良かった~!」

「あ、あと、佐久間さんから聞いて、サワガミの研究施設の場所がわかったよ」

「え!?」


上野のパソコンで表示された画像には、山奥の研究施設らしき建物が映っていた。


「君たちがいた研究施設は潰して、場所を変えて新しい施設を作ったらしい。澤上はもうないけど、そこの幹部の人たちで何か研究すすめてるみたいだ」

「・・・どういった研究ヲ?」

「そこまではわからないって。佐久間さんは今まで幹部の父親のパソコンをハッキングすることで情報を得ていたけど、お父さんが病気で入院中で、今は情報を追えてないらしい」


「じゃ、じゃあ、ここに行けば、アオが助かる方法とか、人間に戻る方法がわかるかも~」

「可能性はゼロではないけど、何の情報もなしに近づくのは危険すぎる。海外の軍事企業と手を組んでるくらいだから、きっと頑丈な警備がついてるはずだし・・」

「で、でもこうしてる間にもアオが~」

「と、とにかく落ち着いて。僕も急いで澤上の施設を調べるから」

「私も賛成デスネ。いくらこの能力があっても、銃火器には敵いマセン」


とりあえず今は動かない。そのことで話はまとまり、キイロは安堵の溜息をついた。


「ったく、ミドリが変なこと言うから~」

「だって、怪しかったんデスヨ。今してた電話の相手だって、誰だかわからないシ」

「そりゃ電話だと姿見えないんだもん、当たり前だよ~」


「・・・・・・・・あ!」


キイロの言葉に、上野は目を見開いた。


「う、上野さん、どうしたんですか~?」

「・・・・もしかしたら・・・」

「何デスカ?」


「・・・佐久間さん、呼んできてもらえるかな?聞きたいことがあって。休憩室にいつはずだから」

「?は~い」


しぶしぶ納得したキイロは、ミドリと共に上野の部屋を後にした。


『PIPIPIPIPIPI』


二人が出た後に、上野のスマホが鳴った。


「・・・さっきはすみません。急な〝邪魔〟が入って・・」


「はい、予定通りお願いします。四十代の女性です。精神疾患があったようですが、肉体はおそらく健康です・・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・は、話って・・・?」


ミドリとキイロに呼びだされた佐久間は、かしこまって上野の個室に入ってきた。


「あかりちゃんのお父さんのことについてです」

「?そ、それは、車で話したとおり・・・」


「わかってます。嘘じゃないと思うけど、一つ、懸念があって・・僕もさっき、気づいたんだけど」

「え、なになに~?」


「あかりちゃんのお父さんが関わっていたことを、父に電話で伝えたんですよね?そしてその後は、口止めされて、父の前で、話題にすることもなかった」

「は、はい・・・」

「でも父は、動画でそんな事話してなかった」

「そ、それはショックだったからじゃないの~?」


「僕も最初はそう思ってた。プライドが邪魔しただけだったかもしれないけれど、父は記録用としてあの動画を残していた。つまり、真実を正確に話さなければ記録の意味がない」

「つ、つまり、どうゆうこと~?」


「父は、自分の兄が開発者だと・・・最期まで知らなかったんじゃないかなって」

「え、えええ~!!??」

「お、俺はちゃんと伝えた!電話で!藤吉さんの声だった!!」


「・・・それが、〝藤吉秋彦〟じゃなかったとしたら?」


「ど、どうゆうこと~?ハカセじゃなかったら、誰が~?」


「電話に出たのは・・・あかりちゃんの父・・・」


「藤吉夏樹だったんじゃないかな・・・?」

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