元同居人達

「シロがさらわれたって、何で~?」

「アイツがそう簡単に捕まるとは思えマセンガ・・・」


「わ、わかんないけどっ、今さっきシロのとこにストーカ・・会いに行ったら、シロのアジトから、中の見えない、大きな黒い車が発進しててっ、家の中見たらシロいなくて、荒らされててっ・・・」

「え、ええ~!!」

「何でその車を止めなかったんデスカ!」

「い、家から出たらもうその車見えなくなっててっ!・・・う、うわああ」


ミドリに詰められ、混乱したクロは泣き出してしまった。


「ク、クロ~、泣かないで~」

「・・・っタク」


大声で泣くクロを慰めるキイロの横で、ミドリは溜息をついた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


シロが目を覚ますと、広い、何もない部屋の中でベッドに横たわっていた。


「・・・・・・ここは、」


『目が覚めましたか、20005番』


声のする方へ顔を向けると、部屋の隅にあるスピーカーから声が流れていた。こちらからは姿は見えず、どうやら監視カメラを通して自分を観察しているらしい。


「20005・・・?」

『あなたの元の名前です。あなたはここで、被験者として生活していました。おそらく、その記憶はもうないと思いますが』


「・・・・・僕は、どうしてここに・・・?」


痛む頭を抱えて、シロは自分の記憶をたどった。


(いつものように広場で石売って・・・そのあと黒色に餌をやるために家に戻って・・)


シロが家に戻ると、そこにはスーツを着た男たちが待っていた。そして、そのうちの一人の男が、黒色を抱えていた。


「黒色・・・!」

「手を挙げて。従わないとこの猫を殺します」

「・・・・・・」


シロは黙って手をあげ、後ろから拘束された。そこからの記憶がない。



(その後・・・どうなった?黒色は・・・)


「く、黒色は?僕の猫はどこですか?」

『猫もこちらで保護しています』

「本当に?」


『はい。あなたと一緒に連れてきましたよ。あなたのひざの上に乗って。思い出してください』


シロの脳裏に車の後部座席に乗ってる自分のひざの上で、くつろぐ黒色の画が浮かんできた。

(そうだ・・・黒色は、俺のひざに乗って・・・・)


「俺は・・・横に座ってる人に、どこに行くのか聞いて・・・」

『そう、着けばわかる、と答えました』

「・・・・・・」


『あなたにも、あなたの猫にも危害を加えるつもりはありません。この実験が終われば、家に戻すので、しばしお付き合いください』

「・・じっけん?」

『まずあなたの能力を詳しく知りたいです。逆に逆らえば猫は殺します』


「・・・・・・」


『ベッドの横に、白色の塗料が置いてあります。それを使って、画面に表示される物体と同じものを作ってください』

「・・・・・・・」


シロはベッドから立ち上がり、目の前の塗料を手に取った。


(・・・何だろう、この違和感)


指示された画面を見ると、丸い物体が映し出された。


「・・・・・・・」


シロは黙って、塗料を変形させ、綺麗な丸が出来上がった。


三角、円柱、花、人の手・・・と、少しずつ指示された形が複雑になっていくが、シロは難なくこなした。


『次はこれです』


そう言われて、画面に映し出されたのは、拳銃だった。


「・・・・・・・」


『・・・どうしました?』


(・・・・何だ、コレ?)


もちろん、拳銃という武器は知ってる。テレビなどで見たことはある。


でも、何故か、もの凄く嫌悪感を感じる。


(・・・俺を連れてく際に、黒色に押し付けられていたからか?)


(・・・・でも、あれは脅しで、黒色は殺されてないし)


コロサレテナイ?


「・・・・いや、違う」


『どうしました?』

「あんた達は・・・黒色を・・・殺した」

『!?何言ってるんですか?』


「そうだ・・・思い出した・・・俺が拘束されて・・・目の前で・・・黒色は…撃たれて・・・そのあと・・・すぐに気絶させられて」


シロの言葉に、職員たちは混乱した。


『・・・おい専門医、どうゆうことだ?マインドコントロールが解けてるぞ』

『前と同じやり方です』

『それはこの施設にいたときのやり方だろう・・・!あいつらは一年以上、逃亡していた。前と同じやり方じゃ・・・・!』


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ここで臨時ニュースです。こちらの山奥の方で、白い発行体のようなものが現れており、警察は近所の住人に避難を呼びかけています』


色人しかいない夜の病院の待合のテレビに、臨時ニュースが流れた。


「・・・白!?」

「上野が言っていた、澤上の研究施設の辺りデスネ」

「もしかして、シロが・・・?」


〝この世界は、もうすぐ終わる・・・すべて消えて、皆真っ白になる〟


(こ、これって、上野さんのお姉さんの予言~!?)


「し、シロだっ!・・・・」

クロは泣きながら踵を返し、病院の出口へ向かった。


「ちょ・・・クロ、どこ行くの~?」

「シロを助けに行くっ」


キイロは思わずクロを引き留めたが、クロは意を決していた。


「え・・・ひ、一人で~?」

「私たちはまだ敵のこと何も知りマセン。もっと情報を集めてカラ・・・」

「そんなこと言ってる間に、シロが殺されちゃうかもしれないっ!そんなの待てないっ」

「お、落ち着いて~、とりあえず~・・・」


「落ち着けないよっ!一番大事な人がここにいないのにっ!」


クロの言葉に、全員が黙ってしまった。


「・・・・・・・・」

「そ、それにっ・・澤上にシロやあかりん達が見つかったのは、クロが車を爆発させたことが原因でしょっ!?〝セキニン〟取らなきゃっ・・・!」


「ク、クロ、人間だもんっ!人間だから、人間らしくっ・・・責任、とるのっ!」


「み、みんなっ・・・巻き込んで、ごめんねっ・・・」


クロは泣きながら、その場にいる全員に頭を下げた。


「・・・クロ~」

「キイロっ!アオのこと、よろしくねっ。助かったら、ごめんなさいって伝えておいてっ・・」

クロは涙を拭い、キイロ達に背を向けて、歩き出した。


・・・・しかし、その足は、震えていた。


「・・・・ぼ、僕も行く・・・!」


「ハア!??」

「馬鹿デスカ、あなたマデ!アオが治療中デショウ!しかもあなたがついてても何の戦力にもなりマセンヨ!」


「・・・・いつ手術終わるかわからないし・・・もしこうしてる間にシロとクロが死んだりしたら・・・きっと、一生、後悔するし・・・た、確かに、力にはなれないと思うけど~・・」

「・・・キイロ、いいのっ?」

「・・・クロは僕よりはるかに強いけど・・・でも、・・・女の子を一人で、行かせられないよ~・・」

「・・・・・・・・」


「・・・それに~、」

「ソレニ?」


キイロはアオの手術室の前まで歩み寄り、扉に手を触れた。


「・・・もし、アオが・・・・仮に、アオが死んだとしても・・・僕は僕で・・アオがいなくても、自分で考えて、自分の力で、やってかないといけないから・・・」


「・・・・・・・・」


「それにきっと、ここにアオがいても・・こうしろって言うと思うんだよね~」


そう言って、キイロはへへっと笑った。


「だから、僕とクロで行ってくる~。ミドリ、チャイロ、・・・アオの事、よろしくね~。意識戻ったら、今まで仲良くしてくれてありがとう~て伝えといて~」


キイロはクロの横に並び、ミドリとチャイロに頭を下げた。


「馬鹿」

「・・・え・?」

ミドリは吐き捨てるように呟き、キイロは驚いて顔を上げた。


「・・・本当にあなただけでは大した戦力にはなりマセン。私も行きマス」


ミドリも一歩踏み出し、キイロの横に並んだ。


「・・・ミドリ」


「オ・・・オレモ・・・シロ・・・タスケル」


ミドリに続き、チャイロもキイロの横に並んだ。


「チャイロ・・・・」


「言っときマスガ、〝ナカマ~〟とか、気味の悪い言葉は使わないでくだサイヨ。都合が悪くなったら私はすぐに逃げマス」

「・・・わかってる~。元、同居人だよね~」

「フン」


ミドリは腕を組んで口を尖らせた。


「でもね~。ミドリ・・・」

「?」

「僕ね~、このメンバーが同居人でよかったな~って思ってるよ~」


「・・・・・・キイロっ」


キイロがみんなに笑いかけると、クロはまた涙を流した。


そして、四人並んで歩き出した。


「無事に帰って来れたらさ、ハカセのお墓作ろうよ~!皆、実はハカセ嫌いじゃないでしょ~?なんやかんやで、最期は命がけで守ってくれたし~」


「・・・・・・・・・・・」


「それで人間みたいに、皆で毎年お参りしてさ~」

「楽しそうっ!!」

「・・・あなたのお墓参りにならないといいデスネ」

「ちょっと~!!」

「はははっ・・・・」


こうして、元同居人の色人四人は、病院を後にした。

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