アオの本心

「うん。あかりちゃんのとこへ行こう」

「ちょ、ちょっと待って・・・」

「なに?」

急いで家を出ようとする三人に、佐久間は縋ってきた。


「お、俺は・・・どうしたらいい?ひ、一人は・・・ふ、不安で」

「・・・・とりあえず、ついてきてもらおうか。まだ聞きたいこともあるし・・・・」

「そうだな」


四人は上野の車に乗り込み、上野はスマホを取り出した。


「あれ、あかりちゃんから着信きてた」

上野のスマホには、すでにあかりから着信が入っており、上野は運転しながらスピーカーにしてあかりにかけなおした。


「・・・もしもし、あかりちゃん?」

『あ・・・上野さん』

「電話出れなくてごめん、今どこ?」


『・・・上野病院に向かってます』

「え、何で?」

『あの・・・お母さん、亡くなって・・今、色々手続きしてるんですけど、家に印鑑なくて・・・いつも、ポーチにいれて持ち歩いてるんですけど。たぶん前に上野さんの車でバイト先に送ってもらったときに、車の中に忘れたんじゃないかって。あの・・・小さい白色の紙袋なんですけど。多分、足元に落ちてないかな・・』


「ちょっと待って。キイロくん、足元に白の紙袋ない?」

上野は助手席のキイロに声をかけ、キイロは足元を探った。


「あった~。座席の下に落ちてた~」

キイロは長方形サイズの小さな紙袋を手に取って見せた。


「あったから届けるよ。今、どの辺?」

『・・・もう病院着きます。電話出なかったんで、とりあえず病院行けば会えると思って』

「わかった。あかりちゃん、これから大事な話するから、落ち着いて聞いてほしいんだけど」

プッ・・・・

上野が話を切り出すタイミングで、電話は途切れた。


「え、切れた~?何で~?」

「・・・・充電切れだ」

上野のスマホの充電が切れていたため、通話が途切れてしまった。


「とりあえず、あかりちゃんは上野病院にいるから、そこで落ち合おう」


「ねえ~上野さん、これ何かな~?」

あかりの白い紙袋の中には、青と黄色の麺が入っていた。


「・・・色付きの麺だね」

「麺?色がついてる麺があるのか?」

「そうゆうのもあるんだよ。そうめんにしたり、蕎麦にしたり・・・。友達とかお母さんと食べるつもりだったのかな?」


「・・・・俺かも・・・」

「「え?」」


後部座席でアオが呟き、上野とキイロは振り返った。


「・・・・俺が、食べたいって言った・・・」

「え?」

「・・・ハカセが、研究所で蕎麦食べてるのが美味しそうだった、て話したら・・・人間になったときに作るって」

「あ、僕たちの色~・・・!じゃあ、僕たちのために~・・?」

「・・・わかんないけど」


「きっとそうだよ~!あの日、あかりちゃん家から直接来てたし。元々バイトもない日だったから、USB見た後に僕たちに食べさせようと思って来てたんだよ~!」


色人達は物を呑み込むことはできない。けれど、自分と同じ色のものなら、口に含んで味わうことができる。これは、あかりなりの配慮だったのかもしれない。


「・・・アオくん、あかりちゃんと、ちょっとぶつかっちゃったんだよね?」

「・・・・・・・」

「この荷物渡して、仲直りしたらいいよ」

「・・・・わかった」


「・・・ふ、藤吉、あかり・・・?」

ずっと黙っていた佐久間が、急にしゃべりだした。


「あいつのこと何か知ってるのか!?」

「は、初めて聞いたなまえ・・・だけど、」

「藤吉ハカセの姪だよ、ハカセのお兄さんの娘。・・・・彼女のお父さんも前に澤上勤めてたらしいけど・・」


「し、知ってる。藤吉の兄・・・」

「?知り合いなのか?」


「・・・そ、そいつが・・・ウ、ウイルスの開発者・・」

「「「!!!??」」」


「はあ!?何言ってんだ、てめえ!!」

アオは、突拍子もないことを言い出した佐久間の胸倉を掴んだ。

「ア、アオ、落ち着いて~」


「・・ちょ、ちょっと待って。あかりちゃんのお父さんが澤上にいたのは、数十年前でしょ?ウイルスの開発がされたのは澤上が買収された数年前からじゃ・・」

「そ、そうだけど。ウイルスの開発は、実はもっと前から行われていた・・・・・本当に一部の人間しか、知らない・・・」

「え、ええ~?頭混乱してきた~!!」


「しょ、初期のウイルス開発がされていたのは、お、俺の父親が入社する前のこと・・・だから、最初に澤上について調べたときは、父が入社してからの情報しかなかった・・・で、でも、父も、澤上のこと独自に色々調べていたらしい・・・お、お前たちを保護してから半年後に、そのじ、事実が父を通して判った・・」


「・・・つまり、ウイルスの開発はずっとされていたということか?」

「・・・ち、違う。ウイルスの開発者が辞職したことで、一度は開発を断念したらしい。し、しかし、数年後に、また、再開された」

「そのことハカセには伝えなかったのか?」

「ちゃ、ちゃんと伝えた」

「いつ伝えた?」

「ふ、藤吉さんが家の用事で出払ってる時。お、俺がお前たちの監視命じられて、研究所のパソコンで父のパソコンにアクセスして調べたら・・こ、この情報が判って。い、急いで藤吉さんに電話して・・・。お、俺が電話で伝えると、ショ、ショック受けてて、このことにはもう絶対に触れるなって言われて・・・。そ、そのまま、この話は終わって、も、もう話すことはなかった・・」


「自分のお兄さんが開発者だったことがショックだったのかな~?」

「・・・父のことだから、兄に開発の先を越されていたことでプライドが傷ついたのかも。コンプレックス強そうだったし・・」

「そ、その時に使ってたワクチンも、今とべ、別物だし・・あまり、関係ない情報だったのかも・・」

「ワクチン?」


「そ、そう。か、開発中のウイルスだから、空気感染はないけど、か、開発者達は念のために、わ、ワクチンを接種、していた・・」

「・・・・それは、当然、あかりちゃんのお父さんもだよね?」

「そ、そう・・・・」


「・・・・・・・そうゆうことか、」

「え、上野さん、どうゆう事~?」

「あかりちゃんが色人化しない理由がわかったかも」

「え、ええ~~!!な、なに~?」


「つまりこうだ。あかりちゃんのお父さんはウイルスの開発に携わっていた。そこで、ワクチン接種していた。そのあと、あかりちゃんが産まれた。つまり、あかりちゃんに、お父さんがもつ抗体が遺伝したのかも」

「・・・・・・・!」

「でも、そのワクチンは数十年も前のものだ。今のウイルスに完全に有効なわけじゃない。だから中途半端に発症してしまったのかも・・・」

「え、ええ~!!」


「で、それで、その抗体が体の中で暴走して、心臓が痛んでるのかも・・・あくまで仮説だけど・・」

「あかりちゃんのお父さんは何で会社辞めちゃったんだろ~?」


「く、詳しいことは判らないが、最初は知らずに開発チームに入れられたらしい。医者の父が優秀だったから、息子も優秀だろうと、み、見込まれて・・・。で、でも、あまり期待通りの社員ではなかったらしい・・・」

「・・・ウイルスの開発をすることに嫌気がさしたのかも。もう亡くなってるから、わからないけど。あ、もう着くよ」


上野の車は病院へ到着し、四人は車を降りて、正面玄関へ向かった。


「あれ・・・いない・・・?」


今は営業時間外のため、病院の正面入口は閉まっている。


「もしかして、裏口かな・・・?手分けして、探そう」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「遅いな・・・・上野さん。電話出ないし・・・」

病院の裏口に着いたあかりは、上野を待っていた。


「・・・藤崎あかりさんですか?」


後ろから声がして、振り返るとスーツ姿の男が三人立っていた。


「あ、はい・・・」

(上野さんの知り合いかな・・・?)


「失礼ですが、ご同行願えますか?」

男はそう言い放つと、そのまま拳銃を突きつけてきた。


「え・・・・?」


次の瞬間、後ろから青の塗料が飛んできて、三人の男を撃退した。


「ぐはッ」


振り返ると、そこにはアオが立っていた。

「逃げるぞ!」


駆けつけたアオはそのままあかりの手を引っ張り、走り出した。


「え?え?なにこれ?」

「サワガミの奴らだ」

「サワガミ?」


アオが後ろを振り返ると、倒れた男が震える手でこちらに拳銃を向けていた。


「伏せろ・・・!」

そう叫ぶと、そのまま間髪いれずにあかりに覆いかぶさり、あかりの視界は真っ青になった。


「・・・・・?」


すぐに、理解ができなかった。


あかりの上に、青色の血にまみれたアオが倒れていた。


「アオ・・・・?」


「アオくんー」

「アオ~?」


「チツ・・・引き上げるぞ!」

遠くからキイロと上野の声が聞こえ、周りを警戒した男たちは車に乗り込み、去っていった。


「アオ、アオ」

あかりはアオを抱きこみ、頬を叩いた。


「・・・・・・・」


アオはうっすら目を開けた。


「アオ・・・アオ・・・」

「あ・・・」

「なに・・?なに・・・?」


「あ・・・か・・・・」


あかりを見つめてそう呟き、アオは真っ青は血を吐いた。


意識を失う寸前のアオの視界に入ったのは、ハカセが最後に渡したボールペンだった。


転んだ衝撃で、アオのポケットから床に落ちたらしい。


(・・・・・・・・・)


ふと、アオの脳裏に、あかりから言われた言葉が浮かんだ。


〝・・・あなたには、私の他に、私以上に、守りたい存在がいるんじゃない?〟


自分がずっと本当に守りたかったもの。


それは。


(ハカ・・・セ・・・・)


そもそも、何で俺がずっと藤吉あかりを助けたかったのか?


もちろん、こんな事に巻き込まれて気の毒だとか、ほおって置けない気持ちは確かにあった。


でも、その気持ちと同じくらいに、


俺は・・・ハカセを、


ハカセを、これ以上、〝酷い人間〟にしたくなかった。


ハカセのせいでこんなことになって、藤吉あかりはきっとハカセを一生恨むだろう。


でも、


俺は、ハカセを憎むことはできなかった。


それは何故か?


別に、ハカセを慕ってたわけじゃない。


ハカセは俺達の親じゃないし、そもそも俺達は親というものも全くわからない。


それでも、心のどこかで、


ハカセに、




愛して欲しかったんだ。




そして、



俺も、




俺も、彼を・・・・





愛したかったのにー・・・・・

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