USBの手がかり

(俺の心臓が・・・動いてない・・・?!)


アオはショックで呆然としていた。


「ね、姉さん・・・とりあえず落ち着いて、話を」


「アオは!」


戸惑う上野の横であかりが叫んだ。


「アオは・・・人間です」


「・・・・・・・・・・・・」


「し、心臓が動いてないなんてありえないし・・・な、何かの聞き間違いだと思います」


「・・・・・・」


沈黙が流れ、曜子は溜息をついて空を見上げた。


「姉さん」

「隆司・・・この世界は、もうすぐ終わる・・・すべて消えて、皆真っ白になる。私は・・そんな世界を観たくないの・・・!」


そう叫び、曜子は屋上から飛び降りた。


「・・・・・!」


全員フェンスへ駆け寄り、下を見た。マットは間に合わなかったようで、血まみれになった曜子が地面に倒れていた。


「・・・・・・下へ!」


その後、すぐに下へ駆け下りた上野が処置したが、曜子はすでに亡くなっていた。

即死だった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・・・・・」


アオ、キイロ、あかりは待合室で呆然としていた。


目の前で人が死んだ。


(助けられなかった・・・こんな能力があるのに・・・・)


アオは救助出来なかった自分を悔いていた。


助けるタイミングはずっと見計らっていた。しかし・・・・


『あなた・・・・〝人間〟じゃないんじゃない?』


曜子の言葉が、アオの体を硬直させた。


(俺は・・・人間じゃないのか?・・・色人だからか?)


(でも、キイロには何も言ってなかった・・・俺だけなのか・・・?)


「・・・・・・・・」


不安が募るアオ達の元へ、姉の処置を終えた上野がやつれた顔で戻ってきた。


「・・・ごめん、お待たせ」


「・・・上野さん・・・」


(何て声かけたらいいんだろう・・・・)


家族が自殺したのはあかりも同様だが、上野の姉は上野の目の前で命を絶ってしまった。そのショックは計り知れないだろう。


気まずそうに見つめるあかりに対し、上野は少し無理して笑って見せた。


「・・・なんか、急に変なことになって、ごめんね」

「い、いえ、そんな・・」

「アオくん。ちょっと、胸元、いいかな?」

「?」

上野は聴診器を取り出し、アオの胸元に当てた。


「・・・うん。ちゃんと動いてる。大丈夫だから、安心して」

「・・・お姉さんは、何であんな事を・・」

「姉さんの言ったことは、本当に気にしなくていいからね。・・・入院前から、言動が支離滅裂な感じだったから。最後も、何かわけわからないこと言ってたし・・」

「・・・・・・・」


「本当は色人の体とか、色々検査したいけど、今日はもう遅いから、後日でもいいかな?」

「・・・・・・・・・はい。ありがとうございます・・・」


「本当はお父さんに色々聞きたいんだけど・・もう亡くなってしまっているから・・・」

「あ、・・・その事なんですけど」

「ん?」


「・・・・USBの事、話していい?」

あかりは、隣のアオに小声で問いかけた。

「・・・・ああ」


「実は、叔父さんが研究所で使ってたUSBがあって。でもパスワードがかかってて、中を見れなかったんです。上野さんなら、何かわかるかなって思って」

「USB?父さんの?」

「はい。研究所で使ってたらしいので、多分色人のデータとか打ち込んであるんだと思います」

「そんなものが・・・」


「黙っててすみません、最初は、あなたのことを疑ってました。・・・でも、これからは、あなたのことを全面的に信用します。とりあえず、色人の謎がわからないと、前には進めないから」


(早く・・・アオ達の事、安心させたい)


曜子からの言葉で、アオは明らかに落胆していた。自分が何者かわからない。こんな恐怖から早くアオ達を解放したかった。


「・・・わかった。パスワード自動解析ソフトでパスワード調べてみよう」

「・・・そんなソフトあるんですね」

「まあ、一般人が使うことはあまりないからね。USBは今持ってるの?」

「あ、家に置いてきちゃって」


「そうか。じゃあ後日持ってきてもらえるかな?今日は遅いし、僕も姉さんのことで色々やらないといけないことあるから・・・」

「・・・そうですよね。また、時間あるときに、連絡下さい」


上野と別れ、三人は病院を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「で、でもよかったね~!これから、色人の謎が解けるかもだし~!」

「そ、そうね。・・・他の色人達には・・・・話すの?」

「・・・いや、とりあえず、俺たちだけにしとこうと思う。上野と会ったことも」

「教えてあげないの~?」

「とりあえず、だ。USBで何がわかるかわかんねーし。結局空だったりしたらミドリとかキレてきそうだし」

「そ、そうか~。チャイロも暴走しそうだもんね~」


(でも、これでやっと・・・色人の謎がわかるかもしれないんだ・・・・)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数日後の日曜日。

上野から連絡をもらい、あかり達は上野のマンションに招かれた。


「すご~い、ひろ~い!!」


あかりの家とは違い、広くてセンスの良い部屋で、キイロはしゃいでいた。


「奥の部屋にパソコンあるから」


案内された部屋に入ると、そこにはデスクとパソコン一台だけが置かれていた。


上野はあかりからUSBを受け取り、パソコンを起動してUSBを差し込み、解析ソフトを起動した。


「・・・ヒットした」

ソフトがパスワードを解析し、USBを開くことに成功した。


USBには、いくつかの無題フォルダが入っていた。


「動画みたいだね・・・覚悟はいい?」

三人は頷いた。


動画をクリックすると、暗い部屋の中で、一人の男性が映っている映像が映し出された。


「・・・・叔父さん・・・」


それは、あかりの叔父・藤吉秋彦だった。


『・・・私は藤秋彦だ。この動画は、私の研究の記録用として撮影している』


『今、私は色人という、自分と同じ色の物体を自在に操る者たちの研究をしている』


『彼らはそれぞれ決まった色から養分を吸収し、そしてその色の物体にエネルギーを送り込むことで色の形、硬度を変えることができる。とても興味深い生態だ』


画面が切り替わり、次の動画が自動で再生された。


森の中で、嬉しそうに駆け寄ってくるキイロが映った。

『ハカセ~!アオと二人でここまでできたよ~』


そう言って、キイロはたくさんの割れた薪を見せてきた。どうやらアオとキイロが薪割りの当番だったらしい。


『・・・ほとんど俺がやった』

『あ~アオ!言わないでよ~』

『・・・お前たち、ちゃんと協力しろ』


また次の動画に切り替わった。


『ハカセっ!次のグループもシロと組ませてっ』

『・・・それを決めるのは私だ。お前たちではない』

『ケチっ!』


『ハカセ、私はいつもチャイロとばかり組まされる気がするのですが』

『・・・ミドリン・・・フマン』

『・・・そんなことはない、たまたまだ』


『ハカセ、いつになったら町に出れますか?猫っていう生き物を見てみたいです』

『・・・・そのうちな』


次々と映し出されたのは、ハカセと色人達の日常の動画だった。


(・・・・なんか、意外と雰囲気悪くない・・・?)


アオ達はハカセに騙されて利用されていたと言っていたし、ハカセも色人を警戒していた、と言っていたが・・・・。


(確かに、仲良しな感じではないけど・・・・なんてゆうか、不愛想なお父さんと子供達って感じで・・・・)


あかりと話していたときのような優しい笑顔はない、しかし、色人達と話しているときの方が、よっぽど自然体に見えた。


「・・・・・次の動画を開くね」


上野が次のフォルダをクリックした。


『協力者の佐久間と、急に連絡がつかなくなった。逃げたのか、何かのアクシデントか・・・』


『探しに行きたいが、色人の元を離れることはできない・・・このまま佐久間が戻らなければ・・・どうしようもなくなる・・・』


『もしあいつが故意に逃げてリークしていたなら、私はきっと消されるだろう・・・』


『・・・私がいなくなっても、どこかの誰かが、私の意志を引き継いで研究を進めてくれるかもしれない。可能性は低いが、その希望を捨てずに、この記録を残したいと思う』


『今までの記録を見直して、私が色人の研究を始めた発端を話すことを失念していた。私が何故、この研究を始めることになったか・・・その経緯を・・これから、話すことにする』


「・・・・・・・!」


(やっと・・・アオ達の正体が・・・!)


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