クロの感情

あかりはクロを裏庭まで連れ込んだ。


(・・ここなら誰もいない・・)


走ったせいで息切れしているあかりに比べて、クロは息一つ乱してなかった。


「・・・・ク、クロさんどうしてここに?」

「あかりんがどんな生活してるか気になって見に来たっ」

そう言って、クロは物珍しそうに辺りを見渡した。


「そ・・そう。でも、ここは生徒以外来ちゃダメな場所だから」

「あ~だからアオ達はいつも入ってこないんだねっ」

「・・・・・・・・・」

悪びれないクロの様子に、あかりは頭を抱えるしかなかった。


「クロ、あかりんに聞きたいことあってさっ」


そう言って、クロは真剣な顔で、あかりに近づいてきた。


「・・・・なに?」

「・・・シロのこと、どう思ってるっ?」

「シロさん?」

「好きっ?好きだよねっ?あんな強くて優しいんだもんっ。きっと、」


「・・・いや、好き、じゃないよ」

「えっ、じゃあ嫌いなのっ?」

「えっと、嫌いじゃないし、良い人だと思う。えっと・・・人として好きに近いけど、その・・クロさんの好きとは違う種類っていうか」

「え、え、どうゆうことっ?」


「・・・クロさんの好きは、多分、ずっと一緒にいたい、みたいな好きでしょ?私は、シロさんの性格は好きだけど、ずっと一緒にいたいとか思わないし」

「じゃあ、あかりんは誰とずっと一緒にいたいのっ?」

「・・・え」


(・・・ずっと、一緒にいたい人・・・?)


「ねえ、あかりんっ・・・」

「て!ゆうか!」

「ん?」

「私も、クロさんに聞きたいことあるんだけど・・・」

「ん!なにっ?」


「・・・どうしてクロさんは・・・学校にアオ達がいつも入ってこないこと、知ってるの?」


「・・・えっ・・・」

あかりの言葉に、それまで表情豊かだったクロが真顔になった。


「私、アオ達の話はアオさんにしてないし・・・シロさんから聞いたのかもしれないけど、、クロさんは、いつも見ていたかのように話してたし・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「あと、」



「・・・シロさんが人間になるつもりないって、何で知ってたの?」

「・・・・・」


「確かに、シロさんは人間になるつもりがないって言ってたけど、研究所にいたときは人間になりたかったって言ってた。森を出てから考えが変わったって」


「でもその話は、あの時クロさんの前ではまだしてないはず。でも、クロさんは何故か知ってた」


「もしかして、クロさんは、前からシロさんを見つけて追ってたんじゃないの・・・?」


そう問いかけた直後、あかりの記憶は途絶えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・・ん・・・?」

あかりが目を覚ますと、そこは薄暗くてあたりがよく見えなかった。

「・・・ここは?」


「あ、目覚ましちゃったっ」

奥の方からクロの声が聞こえた。周りを見渡すと、そこは廃墟ビルの一室のようだった。手足をヒモで縛られていて、身動きが取れない。


「・・・・・!」


クロが電気をつけ、部屋が明るくなった。そこで、あかりは驚愕した。


部屋中には、シロの写真が壁一面に貼られていた。

おそらく盗撮写真だろうが、あかりやアオがシロと話している写真もあった。


「写真て凄いよねっ・・・いつもこうして、シロを見つめることができるっ・・」


(何これ・・ストーカー?)


どうやらあかりの予想通り、クロは以前からシロをつけていたらしい。そして、昨日の様子だと、おそらくシロは気づいていなかった。


(でも・・・何で?)


「あかりんとは、折角友達になれそうだったのになっ・・・」

「ニャー」

「・・・・!?」

猫の声がした。その方向へ目を向けると、黒色の猫がケージの中に捕らわれていた。猫の首には、シロのお手製の首輪が巻かれている。


「黒色ちゃん!?何でここに?入院中じゃ・・・」

「さらってきたっ」

「はあ!?」

平然と答えるクロに、あかりは困惑した。


「あかりんさっ、おかしいと思わないっ?」

「何が・・・・?」

「研究所にいたとき、クロがシロと一番仲良かったはずっ。なのにっ、人間の世界に行ってから、こいつが一番大事とか言い出してっ」


「・・・・・」

「しかも、黒色なんて名前つけてさっ。きっとクロがいなかったら・・・さみしくてこいつを代わりにしてたんだっ、だからきっとっ・・・」

「・・・・・・」


クロは涙を滲ませながら、話を続けた。


「前に言ったように、クロ人間になる気はないっ。でもさあ、あかりんがこいつを助ける手助けなんかするからっ・・・」

「じゃあ何で、すぐにシロさんの元へ行かなかったの?」

「・・・・えっ・・・」


「ずっと、シロさんをつけてたんでしょ?自分が一番だって自信があるなら、すぐに会いに行けばよかったのに」

「・・・・・・・・」

「クロさん、実はわかってたでしょ?自分は黒色ちゃんにはかなわ「うるさいつ!!」


クロはあかりに黒い鞭を打ち付けた。


「・・・熱っ!?」


(そうだ・・・黒の色人の能力・・・)


あかりはアオの言葉を思い出した。


『俺がスピード、シロが具現化、ミドリが硬質、チャイロが粘度というように、色人にはそれぞれ特徴がある。そして、クロは・・・・物体の温度を上げることができる』


クロはそのまま黒色の方へ向かった。


「やめてーーーー!」

あかりは精一杯もがくが、手足を縛られていてはどうしようもない。


(アオ・・・早く・・・)


そう願いながら、あかりは自分の首元を見た。すると、いつも首につけている飾りが、なかった。


(え・・・!ない・・・!今日の朝は確かにつけてたのに・・!落とした?壊された?)


あかりは一気に青ざめた。

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