色人の謎

上野隆司

「え!叔父さんの・・・息子さん?」

『はい・・・』

「ちょっと待ってください、叔父さんに子供はいないはず・・・」


『はい。僕の父と母は未婚でしたが、子を設けていたんです。籍は入れていませんが、認知はされていました。親戚のあなたには話していなかったようですが・・・・』

「・・・・・・・」


『単刀直入にお伺いしますが、父の行方を知っていますか?』


「・・・・え?」

『実は父と連絡がつかなくなりまして・・・』


(そっか・・・叔父さん亡くなったこと、まだ知らないんだ・・・)


(でも言っていいのかな・・・?何で知ってるの、てなるよね?)


(でも嘘つくのも・・・、てゆうかこの人、本当に叔父さんの息子さんなのかな・・・?)


「・・・・・・・・・」


あかりが何も答えずに熟考していると、電話の相手は、何かを察したかのように、深く溜息をついた。


『・・・おそらく父は亡くなってると思っています。連絡が取れなくなったら、死んだと思ってくれ、と言われていたので』

「・・・・・・・え、ええと・・」

『そして、あなたの元に・・・〝色人〟が現れたのではないですか?』

「え・・・・!」


(色人のこと・・・知ってる・・?)


『すいません。僕は父から研究のこと、聞いていました。あなたに色人の薬を打ったこと・・そして色人のことも。今まで黙っていてすみません。そして先日、テレビで白の色人・・と映っているあなたを確認しました』

「!!」

『あの、自動車が爆発したときのニュースです。事故の状況から見て、おそらく黒色の色人の仕業じゃないかと考えたんです。そして、テレビに映っていたのは、おそらくあなたと白色の色人。間違いありませんか?』


「・・・・・・・」

『色人それぞれの能力や画像などは父から送られていたので把握しています。できれば直接会ってお話したいです。良いですか?』

「・・・・えっと」


『すみません。急で混乱していますよね。僕の勤め先・・教えておきます。駅前の上野総合病院です』

「え、病院・・・?」

『はい。そこの循環器科で働いています、上野隆司といいます。今かけているのが僕の番号です。あなたからの連絡を待っています。色々不安で信じられないかと思いますが、僕はあなたの味方で、あなたを助けたいと思っています』


そう言い残し、通話は切られた。


「・・・・・・・・どうした?今の電話は?」

呆然とするあかりにアオが声をかけた。


「・・・・叔父さん、の息子さん・・・だって・・」

「「えっ?」」

あかりの言葉に全員が驚いた。


「・・・ハカセに子供がいるなんて聞いてない」

「・・・公にしてなかったみたい。でも、全部知ってた。私が薬打たれたことも、色人の能力のことも・・・。それで、私のこと、助けたいって」

「・・・・それは本当か?」


「とりあえず、勤務先、調べてみる」


スマホで上野総合病院を検索すると、確かに、心臓外科の勤務医の欄に、上野隆司という人物の顔写真が掲載されていた。


「・・・これ、この人・・」

「ハカセに・・・似てる」


あかりがスマホを見せると、アオは小さく呟いた。


叔父は細身だったが、上野隆司は少し小太りで優しそうな顔立ちをしていた。人相や体格は違えど、顔立ちはよく似ていた。どうやら、この男が〝ハカセの息子〟というのは間違いなさそうだった。


「・・・どうしよう・・・」

「・・・こいつの言ってることは本当なのか?」

「わからない。でも、他に手がかりもないし・・・」


もちろん、何かの罠という可能性もある。しかし、唯一の手がかりだったUSBも開けていない今の状況では、他に手がかりがないことも事実だった。


「このままの状態でも何もわからないままだし・・・。一度、この病院に行って、会ってみる。万が一、敵だったとしても、他の一般患者さんの前で襲ってくることはないだろうし。一応、二人きりにはならないようにはするけど」

「・・・・わかった。俺も行く」

「え・・・いいの?」


「俺も話を聞きたい・・・・万が一、何かあったときのためについてく」

「ぼ、僕も~!アオが行くなら僕も~!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日の夕方。学校終わりのあかりはアオとキイロと上野総合病院へ向かった。


診察時間内に会うために、患者として受付し、待合で待った。


『藤吉あかりさーん』


名前を呼ばれ、あかりとアオとキイロを連れて診察室へ入った。


診察室の中に入ると、上野隆司が椅子に座って待ち構えていた。


「藤吉あかりさん・・・と、アオくん、キイロくんですね。初めまして」


上野隆司はあかりを見て、優しく微笑んだ。


「えっと・・・患者として来られてますけど、どこか悪いんですか?それとも話す為に来てくれたんですか?」

「えっと、どっちも、ていうか・・・」

「どこか悪いんですか?」


「最近、たまに胸が凄く痛くなることがあって・・・」

「わかりました。詳しい症状を聞いて、必要であれば検査します。ただ、精密検査だと予約が必要になるから、後日になりますが・・・」

「お願いします。あと、聞きたいこともたくさんあって・・・」


「ですよね。ここで全部話すと時間かかってしまうので、できれば他の場所がいいんですが・・・」

「あ、はい・・・・」

「・・・わかりますよ。まだ僕のこと信用できないませんよね。診察時間外は基本空いてるから、君たちの指定する時間と場所でいいですよ。他の色人の人達も連れてきていいし」


そうしてあかり達は上野の勤務時間が終わるまで、近くのカフェで上野を待つことにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・どう思った?上野さん・・」

「ん~僕は良い人そうだなって思ったけど~」

「・・・まだわかんねーけど、ハカセは何で子供の存在を話さなかったのか・・そこが気になる。俺たちはともかく、親戚のあんたにまで隠すのは変じゃないか?」

「確かに・・・・」


そうこう話しているうちに、仕事終わりの上野がカフェに到着し、あかり達の向かい側に座った。


「・・・で、聞きたいことは?僕が知ってることは、何でも答えますよ」

「まず、ハカセとの関係について詳しく聞きたい。ハカセが何であんたの存在を隠していたのか・・」

「・・・うん。僕の母と父は学生時代の友人で、所謂恋仲ではなかったそうなんだけど、優秀な遺伝子が欲しかった母が父に頼んで、体外受精で僕を産んだんです」


「え、体外受精・・・」

「僕の母も医者で、祖父の代から上野総合病院の院長を継いでいます。父も母も結婚とか家庭に興味はないみたいで、あくまで跡継ぎが欲しくて僕を産んだと母に言われました」

「え、嫌じゃなかったんですか?そんな事はっきり言われて」

「んー。それでも母は親として僕のこと大事に育ててくれたし、僕自身も勉強は好きで小さい頃から医者になりたいって思ってたから。特に不満はなかったかな。・・・ただ、僕を産んだ当時はまだ、未婚の親とか、体外受精に対する偏見も多かったみたいだから、母も周りに本当の事は話さずに、夫とは死別した事にしていたそうです。父が僕の事を話さなかったのも、多分あれこれ聞かれるのが面倒だったからだと思います」


「・・・でも、叔父さんと連絡は取ってたんですよね??」

「昔は全く取ってなかったし、会ったこともなかった。でも、数週間前に、急に父から母を経由して連絡があって・・・最初は世間話とかだったんだけど、話してるうちに、父から色人の事と、君のことを聞きました」

「えっと・・・どこまで知ってるんですか?」


「勤めていた製薬会社を辞めて色人の研究をしていること。色人の薬を君に黙って打ったけど、君が色人にならなかったこと・・・もちろん、すごく驚いたし、父が君を利用したことはすごくショックでした。でも、君に色人の特徴も現れてないし、特に体に変化がないと聞いて、それならわざわざ君に話してショック与える必要もないのかな・・・と思ってしまって・・・本当に申し訳ない・・・」

上野はあかりに向かって深く頭を下げた。


「い、いえいえ、大丈夫です。上野さんは悪くないです」

「・・・色人のことについては何て言ってた?」

「それぞれ特定の色を吸収し、その色の物体を操ることができる・・あと、それぞれ特性があると聞いてる。色人全員の画像もメールで送ってくれたから、顔も知ってます」


「・・・・・・」

「何で、お父さんがそんなことしてるのか、非人道的な行為なら警察に通報する、と問い詰めたら、父もある組織に脅されて研究している、世間にバレたら全員殺されるから誰にも言わないで欲しいと懇願されて・・・」


「・・・それはハカセの嘘だ」

「え?」

「死に際に教えられた。誰かに言われたのではなくて、ハカセの独断で俺たちを研究していた。俺たちに恨まれるのが怖くて言えなかった、と」


「・・・・じゃあ、父はどういう経緯で君たちを?」

「判らない。その質問に答える前に、ハカセは撃たれて死んでしまった」

「・・・・それは、誰に?」

「判らない。急に、俺たちのもとに、銃を持った人間達が現れて・・」


『pipipipipi』

会話の途中で、上野のスマホが鳴った。

「ごめん、病院からだ・・・・ちょっと待ってね・・はい、どうしました?」


(・・・この人は、信用できるのかな・・・?)


今のところ、特に敵意は感じないし、あかり同様、よく知らずに巻き込まれただけのようだった。


そう思いながら上野を見つめていると、当初、落ち着いて話していた上野の表情が急に険しくなった。

「え・・・姉さんが?!・・・判った、すぐ向かう」


上野は電話を切り、深刻な表情であかり達を見つめた。


「ごめんなさい、話の途中なんですけど、急用が入って・・・病院に戻ります。話はまた今度でいいですか?」

「それは大丈夫ですけど・・どうしたんですか?」

「俺の姉さんが、うちの病院に入院してるんだけど、病室からいなくなったみたいで・・」

「お姉さん?」


「はい、本当に申し訳ないけど、とりあえず話はまた今度・・・」

「おい、待て」

その場から立ち去ろうとする上野をアオは引き留めた。


「俺たちも一緒に探す。色人の能力が、何か助けになるかもしれないし」

「・・・・いいんですか?」

不安そうに問いかけた上野にアオは黙って頷いた。


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