父の形見

「・・・・うん。僕も、食べたこと、ある・・・・」


あれから。

キイロもあかりの家に呼び出して絵具を見せると、アオと同様の反応をした。


「ど、どうゆうことなんだろう・・・?」

「・・・俺たちもわからん。ただ、この色の名前・・・青が〝BLUESTONE〟で、黄色が〝LEMONYELLOW〟・・・俺たちが一番相性の良い色だ。他の色人たちの色も、そう・・・」


絵具は全部で6色。この全ての色が、色人達の最適の色みだった。


「た、たまたま似たような絵具をどこかで食べたんじゃないかな・・・・?」

「・・・でも、このチューブには見覚えがある・・・匂いも・・」


あかりの父が買ってきた絵具のチューブは、海外製なので少し変わった形状をしていた。


「どこかで同じ絵具食べたのかな~?」

「・・でも、これは私のお父さんがイギリスで買ってきたもので、ハンドメイドって言ってたから、それはないかも・・・」

「ハンドメイド?」

「手作りって意味。職人さんが、一つずつ手作業で配合して作ったものだから、同じ色は他にないって言ってた」


「・・中、見ていいか?」

「うん、いいよ」

アオはチューブのキャップを開けて、中を覗いた。


「・・・〝違う〟。これじゃない」

「え、え?」

「チューブの形と匂いは見覚えあるけど、〝中身〟が違う」


アオの言葉を聞いて、キイロも黄色のチューブの中を覗いた。


「・・・うん、違うね~」

「な、何?どうゆうこと?」

「確かに、俺はこのチューブの絵具を食べた。でも、中身が違う。この色は、〝BLUESTONE〟じゃない」


「え、えええ?何それ、意味わかんない」

「・・・俺たちも混乱してる」

「・・・・・・・・・」


『PIPIPI』


沈黙の中、あかりのスマホが鳴った。スマホを手に取ると、母親からメッセージが入っていた。


「あ、お母さん、もうすぐ帰ってくるって・・・」

「・・・とりあえず帰るか。この絵具、借りることできるか?」

「え?」


アオの提案に、あかりは戸惑いの表情を見せた。


「他の色人達にも見せたい。人間に戻る、何かヒントになるかも」

「で、でも、あかりちゃんのお父さんの大事な形見でしょ~?」

「もちろん、大事に扱うし、絶対壊さない」

「で、でも、もし失くしたりしたら~」


「・・・私は、いい、けど・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・」


「・・・いや、とりあえず今日は解散しよう」

あかりの暗い表情を見て、何かを察したアオは立ち上がり、玄関へ向かった。


「・・・絵具はいいの?」

「時間は幾らでもある。どこかで、色人達で集まる機会を作るから、その時にこの絵具を持ってきてほしい。・・・・・それならいいだろ?」

「う、うん・・・」

「じゃあまた」


アオ達を玄関まで見送り、あかりはその場で立ち尽くした。


(・・・ど、どうゆうことなんだろう・・・)


何故、色人たちが父の絵具を知っていたのか。


この絵具は父が誕生日にくれたものだが、その数日後に父は死に、そのショックで父の絵具はほとんど使えず、かといって捨てることもできず、他の父の遺品と一緒に母の実家に預かってもらっていた。


(ま、まさか・・・お父さんが色人に関わってた・・・なんてこと、ないよね・・?)


あかりはテーブルに置かれた絵具を見つめた。


知りたいけど、知りたくない。


絵具を貸すことを渋ってしまったのは、父の形見だからという事もあるが、〝自分にとって〝不都合な真実〟を知りたくないと思ってしまった。


しかし、アオはこれから絵具についてしっかり調べるつもりだろう。他の色人達に見せる約束もしてしまったし、今更断ることもできない。


(それに・・・叔父さんが働いてた会社も・・・)


もしかしたら何か関係あるのだろうか。しかし、調べても何の情報も出てこない。


(探偵とか、興信所とか使えばもっと詳しい情報出てくるかもしれないけど・・そんなお金ないし・・・)


(まさか・・〝ハカセ〟が、お父さんだったなんてこと、ないよね・・・?)


(いや、でも写真見せたら二人とも、叔父さんがハカセって言ってたし。確かにお父さんと叔父さんは似てたけど、見分けがつかないほど似てたわけじゃないし・・・それは、ないか・・・・・)


(てゆうか・・)


あかりはテーブルの上に置かれた父の写真を見つめた。


(・・・お父さんは何で死んじゃったんだろう・・・)


父の死後、母はふさぎこんでしまったが、あかりも同様に落ち込んでいた。父が死んでしまった理由はわからないが、もしかしたら家庭に嫌気が差していたのではないか・・・など、暗い考えが頭をよぎる。


(叔父さんも、優しかったのに、裏であんな事してたし・・・)


暗い気持ちのまま、あかりは就寝した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日。

「やっほ~あかりんっ♪」

昼休み。教室で昼食をとるあかりの教室へ、クロはいきなり現れた。

私服の人間が急に現れたので、周りの生徒はざわざわしていた。


「えっ・・?あかりの友達?」

「・・・えと。ク、クロさん、とりあえず来て・・・!」

不思議そうに見つめる友人を横目に、あかりはクロの手を引っ張り、教室を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アオ、アオ見て~!」

とある駅前の商店街。いつものように、アオの後ろについて歩いていたキイロが、突然、騒ぎ出した。


「・・・・なんだよ」

「シロとあかりちゃんが、テレビ映ってる~!」

「・・・はあ?」


キイロが指差した先を見ると、商店街の電気屋の大きなモニターに、大破した車と傍で避難するシロとあかりらしき人物が映っていた。


「・・・何だ、これ?」

「・・・ニュース番組みたい~。昨日、いきなり車が爆発したって~」


プライバシー保護のため、二人の顔にはモザイクがかけられているが、知り合いが見たらすぐにシロとあかりだと認識することができる。

事故現場に居合わせた人間が携帯で撮影して、テレビ局に売った映像らしい。


『急にバーンてでかい音して、振り返ったら凄い煙で・・』

撮影した人物が取材に答え、映像はニューススタジオに切り替わった。


『メーカーによると、車には欠陥部分が見当らなく、車底の部分が急に破裂したようだとのことで、今もなお調査中とのことです。尚、運転手は事故当時乗車しておらず、死者やケガ人は報告されていません』


「車って急に爆発することあるんだ~。怖いね~」

「・・・・・・・・・」


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