最後の色人

「・・・あ、あかりさん」


校門であかりを待っていたのはシロだった。そして、彼の腕の中には黒色がいた。


「ど、どうしたの?」

「実は・・昨日から黒色の様子がおかしいんです。ご飯食べないし、元気なくて・・・」


あかりはシロの腕の中でうずくまる黒色を見た。手を伸ばして撫でてみたが、確かに元気がないようだった。


「よく僕のとこに来るお客さんに聞いたんです。動物には、動物専用の病院があるって。病院の場所も教えてもらったけど、なんか、その・・・」


どうやら、シロは一人で動物病院に行くのが不安らしい。


(・・・そうか。今まで病院とか行ったことないから、わからないのか・・・)


「・・・病院、どこ?私も一緒に行く」

「いいんですか?」

「今日は、バイトまで時間あるし。私も黒色ちゃんに元気になってほしいもん」

「ありがとうございます!!」


こうして、あかりとシロは近くの動物病院へ足を向けた。


「ところで、アオ達は?」

「あー・・・最近は、あまり会ってなくて」

「え!?大丈夫なんですか?」


「あ、ミドリ・・さんとは和解して、チャイロ・・さんも一応・・仲間になったから」

「そうなんですか!?」

「だから、もうそんなに危険はないだろうって。一応、発信器はつけてるし、学校とかバイトの行き帰りは人通りの多い道通ってるけど。あ、今日はバイト帰りに少し会う予定だけど」


「え~・・すごいなあ」


(この様子だと、USBのことも多分、知らないよね?話していいのかな?)


あれから色々試したものの、USBのパスワードがわからず、まだ中を見れていない。


「じゃあ、あと見つかってないのはクロだけかあ」

「・・・そう、でもクロさんはシロさんによくついて回ってたから、現れるならシロさんのとこにいくと思うって言ってた。でも、シロさんのとこにもきてないよね?」

「っそ、そうですね。僕を探してるかはわからないけど・・・あ、あれですか?動物病院」

「あ、そうそう」


話してる間に、二人は動物病院に到着した。あかりが受付を済ませ、診察室へ通された。


「急性膵炎ですね。」

「スイ・・・?」

獣医師の言葉に、シロは首を傾げた。


「命に別状はないですよ。入院が必要ですが」

「にゅういん・・・?」

「治療でしばらく預かるけど、命は大丈夫だって」

「・・・・・・良かった・・」


あかりが獣医の説明を解説し、シロは安堵の溜息をついた。


黒色の入院手続きを終えた二人は病院を後にして、並んで歩道を歩いた。


「良かったね、黒色ちゃんが無事で」

「はい、あかりさんのおかげです!ありがとう!」


シロは立ち止まり、あかりの手を強く握った。


「い、いや、それほどでも・・・」

週末の夕暮れで、人通りも多い。そんな人込みの中で立ち止まり、手をいきなり握られて、あかりは動揺し、顔を赤くした。


「?あれ、顔、赤いですよ?」

「あ、いや、これは、その」

「あ、あれは何ですか?」


赤くなったあかりを横目に、シロは目の前の車道脇に停車している無人の赤いオープンカーを指さし、不思議そうに近づいた。


「この車、屋根がありませんよ!?故障ですか?」

「あ、ああ、これは・・そうゆう車で」

「雨が降ったとき、どうするんですか!?濡れちゃいますよ?」

「必要なときは屋根が出る仕組みになってるから」

「へえ~!そうなんですね、凄い!!」


シロは感心したように車を覗き込んだ。


(・・・アオ達もそうだけど、研究所以前の記憶が本当に全くないんだな・・・)


「あ、私そろそろバイトだから・・」

「あ、送りますよ」

「え、いいのに」

「これくらいさせて下さい。あかりさんが何か困ったことがあったら、僕を呼んで下さい」

「ありが・・・!?」

お礼を言おうとしたあかりの胸に急な痛みが走り、あかりはその場に蹲った。


「あかりさん!?」


「はあ・・・はあ・・・」

(なにこれ・・・また、胸の痛みが・・・)


この痛みには見覚えがある。前にチャイロに連れ去られたとき。バイト先のゴミ捨て場でも、強烈な痛みに襲われた。

シロが心配して肩を抱いて声をかけてくれているが、答える余裕がない。


「はあ・・・はあ・・・」

「あかりさん、大丈夫ですか?」

「シロ・・・さん」


少し痛みがマシになり、あかりはシロを見つめた。シロは心配そうにあかりを見つめて、あかりは震える手でシロの頬に触れた。


次の瞬間。


二人の横に停車していたオープンカーが突然、爆発した。


「・・・・・!?」

いきなりの衝撃に、反射的に目を閉じたあかりが目を開けると、あたりは煙で覆われていた。そして、シロがあかりを庇うように覆いかぶさっていた。


「シロ・・・シロさん!?」

「ごほ、ごほ・・・」


シロはなんとか息をしていた。しかし、あかりを庇い、背中に傷を負っていた。


「や、やだ・・・どうしよう」


「シロ」


ふと、頭上から女性の声が聞こえた。


あかりが顔を上げると、黒髪の女性が立っていた。


黒髪のショートカットに、褐色の肌。黒色のタンクトップに、ショートパンツ。一見すると、アクティブな印象の小柄な女性だった。


「あなたは・・・・」


黒髪の女性はパンツのポケットから黒い羽を数枚取り出し、口つけた。すると、羽は白くなり、女性はシロの背中に充てた。


「・・・・・クロ?」

背中の傷がふさがったシロが女性を見つめると、女性は泣き出し、勢いよくシロに飛びついた。


「よ、良かったっ~!シロに何かあったらっ・・・!」

「ク、クロ・・生きていたのか」

「そうだよっ!シロのこと、ずっと探してたんだからっ!」


二人の会話から、シロを助けた女性が最後の色人・クロだとわかった。アオ達から聞いていたクロの特徴とも合致する。

そんなあかりを横目に、クロは大泣きしてシロに抱きついていた。


「な・・・何だ?事故か?」

「何か、あの車が爆発?したみたいで・・」


爆発の煙が薄くなり、周りを見渡すと、あかりたちの周りに人が集まり始めていた。スマホで事故現場を撮影している人もいる。


爆発の衝撃か、胸の痛みが引いたあかりは立ち上がり、シロに手を差し述べた。

「し、シロさん、立てる?二人ともとりあえず、場所、移動しよう!」


三人は人気のない裏路地に移動し、あかりはシロのケガを見た。


「傷・・・ちゃんとふさがってるね。良かった・・・」

「気にしないでください、あかりさん。ありがとう・・・クロ」

「えへへぇ~」

シロに褒められ、クロは顔を赤くして、照れたように頬を掻いた。


「・・私からもお礼言うね。ありがとう、クロ・・さん」

「どういたしましてっ!この子がハカセの・・・?」

「あー・・・えっと」

「うん。そう。私が、博士の姪の藤吉あかり、です」

クロの質問に答えていいか戸惑うシロだったが、あかりは正直に答えた。


「・・・言っていいんですか?」

「・・・どっちみちいつかバレると思うから」

「ああ、安心してっ!クロは人間になるつもりないからっ!」

「・・・・そうなの?」


「昔はなりたかったけど、シロは人間目指さないんでしょっ?じゃあクロもしないっ」

そう言ってクロはシロの腕に巻きついた。相当シロが好きらしい。


「・・・とりあえず今日はありがとう。あっと・・」

あかりが時計を確認すると、バイトの時間が迫っていた。


「わ、私、とりあえずバイト行くね!クロさん、シロくん、ありがとう」

「あ、送りますよ」

「急ぐから大丈夫~!」

あかりは二人に別れを告げて、急いでバイト先へ向かった。


「・・・・ねえっ、シロっ」

「なに?」

「シロはあの人のこと・・・好きっ?」

「・・・・人として良い人だと思うよ。今日も黒色を一緒に病院に連れてってくれて」

「・・・クロイロっ?」

「・・・ああ、こっちにきて、僕が飼ってる猫。可愛いよ。ちょっと病気になっちゃって、今入院してるけど」

「・・・ふぅんっ。クロも会ってみたいっ。それでシロとまた一緒に暮らしたいなっ」


ニコニコしながら見つめてくるクロに微笑み返すも、シロは気まずそうに下を向いた。


「・・・クロ」

「なにっ?」

「・・・君のことは好きだよ。でも、その・・・ずっと一緒にいることはできないっていうか・・」

「・・・・・・・」


「僕の考えすぎなら、ごめん。大切な仲間だとは思ってるよ」

「〝クロイロ〟とはずっと一緒にいるんでしょっ?クロはダメなのっ・・・?」

「・・・ごめん」


シロはクロに背を向け、歩き出した。

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