決着
ミドリはチャイロの元へ向かった。今逃げ切ったとしてもきっとまたチャイロはあかりを狙いにやってくる。ならば、ここで決着をつけるべきだと考えた。
「ミドリ、待て!」
振り返ると、アオがミドリを追って来ていた。
「何で着いてきたんデスカ?あの娘ハ?」
「キイロに任せた。お前一人だと心配だ」
「気色悪いこと言わないでクダサイ。弱っちいあなたがいても足手まといデス」
「そうゆう心配じゃなくて・・・いた!」
二人は前方にチャイロの後ろ姿を発見した。
「チャイロ!」
アオが呼びかけると、チャイロは振り返り、こちらを見た。
「ア・・・・・アオアオ・・・!」
チャイロは地面に両手をつき、変形した土がアオに向かってきた。その攻撃を寸前で避けて、アオは上空に叫んだ。
「ミドリ、今だ!」
その合図で、チャイロの上に、大量の尖った葉が落ちてきた。
「ちょ・・・この量は・・・」
(さすがに死ぬんじゃ・・・)
大量の葉に埋もれてしまったチャイロを前に、アオは青ざめた。ミドリの攻撃はまだ続いている。
「ミドリ、もういい!これ以上やると・・・・!」
アオの呼びかけで葉の攻撃はなくなり、アオはチャイロの元へ駆けつけた。
「チャ、チャイロ!大丈夫か?」
「バカ!迂闊に近づいてハ・・・」
「バカはテメーだ!こんなにやったら死ぬだろ!」
「ハア!?助太刀に来てやったノニ・・・・!?」
大量の葉の前で揉めている二人の下の地面が大きく揺れた。
「チャ。。。チャイロ・・・!?」
どうやら死んではないようだが、葉に埋もれてるせいで姿が見えない。おそらく、地面に手をつけて変形させているらしい。
そして、大量の葉が吹き飛ばされ、その衝撃で二人の体も吹き飛ばされた。
「うッ・・・・」
受け身を取りながら目を開けると、ミドリの眼前にはチャイロが迫ってきていた。
ミドリは咄嗟にツルを掴もうとするが、手元には何もなかった。先ほどの衝撃で、吹き飛ばされてしまったらしい。チャイロはミドリの首をしめながら持ち上げた。
(やばい・・・こいつに力で来られるト・・・!)
チャイロは、色人としても能力は高いが、そもそも身体能力が高い。武器もないミドリが圧倒的に不利だった。
「チャイロ!」
後ろからアオが塗料で変形させた青い剣を持ってチャイロに切りかかった。
チャイロはその剣を肘で受け止め、そのままアオに肘鉄を食らわせた。
「な・・・・!?」
「アオアオ・・・ミドリントチガッテ、ヤサシイ・・・ホンキデ、コロス気ナイカラ、傷・・・アサイ・・」
チャイロは緑を後ろの大木に押し付け、その木を変形させてミドリを拘束した。
そして両手を地面につけ、倒れているアオの周りの土を変形させた。
「・・・・・・・・・・」
先ほどの攻撃で負傷したアオは意識はあるものの、動けずにいた。
(・・・殺される・・)
「や・・・やああああ!」
チャイロがアオを手にかけようとする寸前で、チャイロの顔面に黄色の花びらが数枚飛んできた。
「・・・・・・!?」
咄嗟に目元を庇ったチャイロは地面から手を離し、アオは難を逃れた。
あかりと逃げたはずのキイロが現れ、背後からチャイロを奇襲した。
「ア、アオ・・大丈夫~?」
「・・お、俺より・・ミドリを・・・ごほッ」
アオに言われてミドリのもとに駆け寄るが、ミドリの体は完全に木の中に取り込まれていた。
「こ、これはどうやって助ければ~・・・うわっ」
キイロの足元の土が変形し、キイロは思わず目の前の木に飛び乗った。しかし、土は木を這ってキイロを追ってきた。
「わ、わ、こんなのあり~!?」
「キイロ!逃げろ!」
アオに呼びかけられ、キイロは木の枝を折りながら素早く木によじ登って避難したが、土に捕らえられ、そのまま地面に引き戻された。
キイロを捕獲したチャイロは再びアオに目を向け、アオも身構えた。
アオは塗料で大きなブーメランを作り、チャイロに投げつけるも、チャイロは寸前で避け、アオに突進し、体を押さえつけ、土に埋もれさせた。
「ぐっ・・・」
「アオアオ・・・・コロス・・!?」
チャイロが手に力をこめたところで、チャイロの肩に、何かが当たった。
振り向くと、そこには、あかりが立っていた。チャイロの肩に当たったのは、あかりが投げた赤の塗料だった。
「わ、私はここよ!ついてきて!」
あかりは森の中へ走って行き、アオを埋もれさせたチャイロはあかりの後を追った。
「ハア・・・ハア・・」
あかりは全速力で走ったが、案の定、チャイロが変形した土に足を捕らわれ、追いつかれた。
「あ・・・あ・・・」
「アオアオ・・・キイキイ・・・ミドリン・・・全員、助ケニ来ナイ・・」
「・・・・」
「アキラメテ、オトナシク・・・!?」
あかりに近づこうとしたチャイロの前で、異変が起きた。
あかりが咄嗟に、地面に落ちていた赤い紅葉を変形させてチャイロに投げつけたのだ。
「・・・・クッ・・・コイツ」
「さすが、私の養い主デスネ」
予想外のあかりの反撃に慌てたチャイロを、背後から葉を持ったミドリが奇襲し、葉を変形させて両腕をきつくしばりあげた。
「ミ・・・ミドリン!?ナゼ!?」
木に埋めたはずのミドリが現れたことでチャイロは困惑した。
「さっき、アオがあなたにブーメランを投げたデショウ。あなたは避けたことで満足していましたが、あれの目的は、あなたの後ろで捕らわれていた私を解放するためデス」
アオの目的はそこだった。自らが囮となり、ミドリの木を斬って、ミドリを解放する。
「私の手持ちの武器は全て吹き飛ばされましたから、キイロが切り落とした枝に生えていた葉を拾ってあなたを追ったのデス」
「クソッ・・・・」
ただ単に木に登りやすくするために木の枝を折っていたのかと思っていたが、そんな狙いだったとは。
「葉の硬質が解けたら、あなたはまた暴れるデショウ。その前に、その腕を、切り落としマス」
「・・・・・・・!!」
「ミ、ミドリさん、さすがにやりすぎ・・」
「では殺されたいのデスカ?他にコイツを止める方法ハ?」
「そ、それは」
「あなたはとりあえず逃げなサイ」
あかりを逃したミドリは葉を硬質させて、振りかぶり、チャイロは目を閉じた。
「・・・・・・・!」
チャイロが目を開けると、両腕はまだ切り落とされていなかった。
「・・・・・・?」
ミドリの攻撃を阻止したのはアオだった。
「アオアオ・・・?」
「アオ!何で庇ったのデスカ!こんな奴ヲ!」
とっさの出来事に驚いた様子のチャイロ以上に、ミドリが声を荒げた。
「いや・・・、切り落とすのはさすがに・・」
「それの何がイケナイ?お前のことも殺そうとしたんデスヨ!?」
「・・・でも」
「・・・・アオアオ・・・!」
アオに情けをかけられたと感じたチャイロは、アオを激しく睨んだ。
「・・・・オマエ、ドウイウツモリダ・・」
「・・・・・・別に」
「ベツニトハナンダ!?」
「・・・ミドリには前も言ったけど、俺はお前たちにヒトゴロㇱになってほしくないし、争いもしてほしくない」
「・・・・・・」
「・・・・・人として」
アオの言葉に、ミドリはあきれたように空を見た。
「・・・こいつは人間じゃありマセン」
「オマエモダロ」
「・・・・・・・・」
三人の間に沈黙が流れた。
アオは溜息をついて、口を開いた。
「・・・・・何言ってんだ馬鹿二人」
「「?」」
「人間だろ、俺らは。ずっと」
「・・・・・・・・・・・・・」
そう言って、アオは交互に二人に目くばせした。
「ミドリがチャイロの腕を本気で切り落とそうとしてたなら、俺の能力では防げなかったはずだ。それだけミドリの硬化能力は高い」
「・・・・・・・・」
「それにチャイロも」
「俺達にとどめを刺すタイミングはいくらでもあったはずだ。でも、お前はそれをしなかった」
「こんだけ派手に争ったけど・・・でも、お前らにも、まだ人の心があると俺は信じたい」
「それに・・・」
「二人にも協力してほしい。人間になる方法を見つけたい」
「・・・・どうヤッテ?」
「・・・ハカセの遺品を見つけた」
「「!?」」
「・・・今日、ハカセが死んだ場所に行ってみたら、これが落ちてた」
「・・・・何ダ?」
アオはポケットを探り、USBを取り出して二人に見せた。
「これをパソコンに差し込むと、データが読めるらしい・・・」
「・・・それは本当にハカセの遺品ナノカ・・・?」
「ハカセが研究所のパソコンで使っているのを見たことがある。・・・その時は、何に使ってんのかわからなかったけど。多分ハカセはずっと持ち歩いてて、撃たれたときに衝撃で落としたんだと思う」
「・・・・・・・・」
「もちろんどんな内容かはわからないし、ちゃんとデータが読めるかわからない・・・でも、おそらくこのUSBってやつの中に、何かヒントがあるはずだ。・・・協力してほしい」
「・・・・・・」
「それに、俺たちは、まだ人間について知らないことが多すぎる。パソコンってやつも持ってないし、コレの使いかたもよくわからない。だから。俺たちが人間に戻るには藤吉あかりの協力が必要だ」
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