ミドリの野望

「ハア・・・ハア・・・」


暗い森のなか、アオはチャイロと格闘していた。


地面に足をつけると土に捕らわれるので、素早く木の枝をつたって一定の距離をとりながら応戦していた。しかし、アオからは何も仕掛けられず、ただ自分に伸びてくる変形した枝を振り払う事で精一杯だった。

ポーチに残された塗料や花びらは残りわずかだった。変形した花びらや塗料はもう使えない。絶望的状況だ。


キイロがミドリを連れてこられるかは正直わからない。でも、信じて耐えるしかない。


「・・・・・」

木陰に隠れてポーチの中を探る。花びらはあと数枚しかなかった。


(補給に使うと、攻撃に使える枚数が減る。しかし、エネルギーがないとそもそも動けない・・・・)


「・・・・っ!」


考え事をしているスキに、木の隙間から枝が伸びてアオの左手首に巻きついた。凄いスピードで引きずられる。

急な出来事で、足を踏ん張るスキも与えられず、アオの体は宙を舞った。


目の前がすさまじいスピードで回る。どちらが上か下か、右か左かもわからない。おそらくどこかに叩きつけるつもりだろう。アオは決死で空いてる右手でポーチから花びらを取り出し、変形して手首の枝を切った。


しかし。アオの体は既に宙に浮いてしまっている。着地しようにも、どこか地面か把握できてない。


(まずい・・・・・!)


地面に叩きつけられる寸前で、アオの体が何かに包み込まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(・・・まだかな・・?)


あかりが木のふもとに隠れてどれくらい時間が経ったかわからない。隠れたとき遠くの方からチャイロとアオが戦ってるらしい物音が聞こえていたが、今はそれも聞こえない。

決着はついたのだろうか。


(・・・アオが勝ってたら私の事迎えにくるよね・・・?まさか忘れてるわけないし・・・)


音が聞こえていても不安だが、何の音もしないとまた別の不安がこみ上げてくる。


(どうしよう・・・やられちゃったのかな・・・)


(でも、それなら、あの茶色の色人が私の事探しにくるよね・・・?)


(もし、アオが負けてたら・・・・)


あかりの場所はまだバレていないが、万が一、アオが負けてキイロがミドリの説得に失敗していた場合。


(ミドリって人も結構攻撃的だったし、キイロくんが殺されてる可能性も・・・・)


そうなったら、最悪の事態だ。いくらこの場所が割れてなくても、こんな所に警察が来るわけもないし、見つかるのも時間の問題だ。


アオは自分が迎えにくるまで出るなと言っていたが、アオが殺されてしまっていたら、永遠に出ることは出来ない。


「・・・・・・・・・」


あかりは手に持っていた赤の塗料を握りしめ、外へ出る決意をした。

物音をなるべく立てないように、慎重にふもとから顔を出した。すると。


「・・・・ミツケタ」


振り向くと、あかりが隠れていた大木の裏にチャイロ立っていた。

あかりは青ざめた。


(まずい・・・見つかった・・・!)


とっさに赤の塗料を手に出した。しかし。赤の塗料は何も反応しない。


(ど、どうしよう・・・・)


チャイロは笑いながら近づいてくる。あかりは震えた。ここから走って逃げてもどうせ逃げ切れない。

アオは殺されてしまったのだろうか。

チャイロはあかりの隠れている大木に手を触れると、大木は動き出し、あかりの上に覆いかぶさってきた。


(ど、どうしよう・・身動きが・・・)


変形が終わっても形状が元に戻るわけではない。硬質は戻るが、木は元々固い。


「・・・コレデウゴケナイ」


チャイロは手に持っていた木の枝を振りかぶった。その時。


あかりの前に緑の葉が舞い、チャイロの持っていた木の枝は切り落とされた。


あかりの目の前には、ミドリが立っていた。


「ミ・・・ミドリン」

「・・・その変な呼び方ヤメロって言ってたデショウガ」


「ミ・・・ミドリンモ・・・アオアオノミカタカ」

「違いマス」

「ジャア・・・コノ女ヲネラッテ」

「それも違いマス」


「「・・・・・?」」


チャイロとあかりは首を傾げた。アオ達の味方でもなく、あかりを狙ってもいないなら、何故あかりを助けたのか。


「・・・ジャア何ダ?オマエノ目的ハ・・・・?」


「私は、将来・・・・」


「この子の・・・・・ヒモになるからデス」


ミドリの発言に、しばらく沈黙が流れた。


「・・・・・・・は?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アオ、アオ~~!」

アオが目を開けると目の前にはキイロが心配そうに顔を覗き込んでいた。地面に叩きつけられる直前にキイロが塗料を敷いてアオを助けてくれたが、その衝撃で気を失っていたらしい。


「・・・・・チャイロは!?」

「そ、それが姿見失っちゃって~!アオ~生きてて良かった~」

「ちょ・・抱きつくな!ミドリは?」

「一緒に来たんだけど、僕の足が遅いから途中ではぐれちゃって~森の中にはいると思うんだけど~。あと、入口に青い花たくさん咲いてたから摘んできたよ~」

そう言ってキイロはアオに青の花を差し出した。


「・・・・アイツが危ない」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


〝人間にはなりたいが、働きたくない〟


それがミドリの願望だった。


アオ達同様、ハカセの目を盗んで見ていたテレビや雑誌などから人間の基本的な生活の知識は得ていた。

どうやら人間というのは一定の年齢に達すると、親の元を離れて自分でお金を稼いでいかなければいけないらしい。

ミドリも他の色人達も今の年齢はわからないが、体の大きさや知能からして、おそらく人間になったら社会にでる年齢であろうと想定していた。そして、養ってくれる家族がいるかもわからない。


しかし、ミドリは働きたくなかった。


色人の能力があれば食べ物には困らないが、人間になると色人の能力は失われてしまう。ということは働かなければならないのだ。

色人のままでいても、謎の組織に追われるから人間にはなりたい。だが、、、、


働くのだけは、どうしても嫌だった。


そこで、ハカセから離れて人間の生活を観察していると、自分たちの知識以上に多様な生活、価値観が存在していることを知った。


病気や家の事情などで働けない人間には国から手当というものが出るらしい。随分と親切なものだと思ったが、そういう制度がないと自殺や犯罪が増えるらしい。


そして、ヒモという存在を知った。


多様な価値観はあれど、未だにこの国では男が働いて女子供を養う、といった考えが根強いらしい。

しかし、ヒモというのは敢えてその価値観に反し、女性が働いて男を養うという関係性だ。


ヒモをバカにする人間も多数いるそうだが、人間の世界に家族も友人もいないミドリをバカにできる人間はいない。誰にもバカにされず、働かずに人間の生活を送る。最高だ。


しかし、当然ながらヒモというのは誰でもなれるものではない。自分の面倒を見てくれる女性を探さなければならない。ネットなどで集めた情報によると、働き者で稼ぐ能力があり、心優しく、世話好きの女性がヒモに捕まりやすいらしい。


ミドリが観察していたあかりの特徴、そしてキイロからの話を聞いて確信した。


彼女は、ミドリの養い主になる人物だと。


そして、人間になった暁には、彼女のヒモとなり、働かずに生きていく事を決心した。


「・・・・・・?」


(今、何て言ったんだろう・・・・?)


風の音で、ミドリの声がよく聞こえなかったあかりは首を傾げた。

しかし、どうやら守ってくれるらしいことはわかった。


チャイロが両手を地面につけ、地面が変形を始めた。ミドリはあかりを脇に抱え、ツルを上に伸ばして、木の枝に引っ掛けて木に登ろうとした。


チャイロはすぐに近くの木に手をかけ、枝をのばしてツルをきろうとしたが硬化したツルは切れず、ミドリは数枚の葉を口に咥えて硬化し、チャイロに投げつけた。


「「ミドリ!」」


ツルを使って木の間を移動していると、向こうの方からアオとキイロの声がした。下を向くと、アオとキイロが駆けつけていた。


「アオ・・キイロくん」


「この娘を連れてはやく逃げなサイ」


辺りを警戒しながらミドリは地面に降り立ち、あかりを二人へ引き渡した。


「ミドリ、お前」

「アイツは私が始末しマス」

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