色人とハカセ

「うわ~これが人間の家かあ~」

「二人暮らしだからちょっと持て余してるけど・・・大体みんなこんな感じだよ」

アオもキイロも人間の家に初めて入るらしく、興味津々にあかりの家の中を探索していた。


あれから。アジトのなくなった二人をとりあえず自分の家に連れて帰った。学校には体調不良と説明して、早退扱いにしてもらっていた。


帰り道に画材屋で青色と黄色の塗料を買って、二人のエネルギーは回復した。アオは火事やミドリとの戦闘で服がだいぶ汚れたため、あかりの家の洗濯機で洗い、服はあかりのジャージを貸してあげた。


「・・・てゆうか二人とも、叔父さんに実験台?にされる前は人間だったんでしょ?家・・とか、家族は?」

「「わからない」」

「・・・・え?」


「研究所から前の記憶がないんだよね~。気が付いたらハカセと一緒に暮らしてたんだ~。だから、家族とか家とか、それまで自分が何してたのか、他の色人も皆わかんないって言ってた~」

「・・・叔父さんは教えてくれなかったの?」

「実験が終わったら教えるって~その前に死んじゃったけど~」


「・・・そう。これ、叔父さんの写真」

あかりは自室の勉強机の引き出しから一枚の写真を取り出し、二人に見せた。大分昔に親戚一同で撮った写真だ。


「・・・右から二番目、ハカセだ」

「うんうん、ハカセだね~」

「・・・うん、合ってる」


もしかすると自分の叔父と〝ハカセ〟は違う人物なのかも、と淡い希望を抱いていたが、複数人写っている集合写真の中で二人が指さした人物は、間違いなく叔父だった。


(やっぱり、叔父さんは〝ハカセ〟だったんだ。・・・でも、何でこんな事・・・?)


色んな疑問が湧いてくるし、今でも信じられない。でも、この二人が嘘ついているようにも思えない。今のあかりはもう、この二人を信じるしかなかった。


「・・・これ。最後に、ハカセが俺たちに渡したもの」

アオはあかりに、汚れたボールペンとメモの切れ端を差し出した。

「え、なにこれ、血がついてる」

「ハカセの血だ」


いぶかしながらもくしゃくしゃにされたメモを開くと、走り書きで〝藤吉あかり〟と書かれていた。


「・・・これは」

「撃たれたハカセが死ぬ間際に書いて俺に渡してきた。コイツを探せと言って」

「字に見覚えある~?」


「・・・字は、わかんないけど・・・そのボールペン・・・」


ボールペンには〝澤上薬局〟と表記されていた。


「それ・・・叔父さんが働いてた薬局の名前・・・」

「薬局?ハカセは薬屋さんで働いてたの?」

「うん。でも、今はなくなってて、ネットで調べたら経営してた会社が倒産したみたい。だから、あなたたちの研究してる時は、仕事は辞めてたと思う・・。職場が残ってたら、一緒に働いてた人達に叔父さんのこと聞くこともできたんだけど・・・」

「・・・・・・・」


「とりあえず、あなたたちの事は信じる。未だに混乱することばかりだけど・・・・」


「あかりちゃん、この人誰~?ハカセそっくり~」

キイロは、写真の中で叔父の横に立っている男性を指さしていた。


「私のお父さん。ハカセのお兄さんだよ。・・・・もう亡くなってるけど」

「そうなんだ~。?ビョーキ~?」

「・・・えっと、その・・・・自殺で亡くなった。引かれるから、あんまり人に言ってないけど」

「・・・え、ええ~!?」

「・・・・いつ?」


「・・一年とちょっと前・・・お盆の時に・・」

「・・・お盆て何だ?」

「えっと・・・毎年ある、先祖を供養する期間、みたいな」

「それはいつ?」

「・・・年によって違うけど、去年は八月の十三~十五日。お父さんが亡くなったのは最終日の十五日の夜だった・・」

「そ、そうなんだ~!!な、何で死んだの~?」


「・・・わからない。遺書とかもなかったし、前日まで元気だった。だから職場の人も驚いてた。私は友達の家に泊りに行ってて、お母さんが仕事から帰ってきたら家で亡くなってて・・・。その時のショックが原因で、お母さんは心病んじゃって。今は回復してきて少しずつ働けるようにはなったけど、でもまだお金はないから私もバイトしてる」

「そ、そうなんだ~」

「だから、お母さんの前ではお父さんの話はしないようにしてる。もちろん、叔父さんの話も。お父さんと叔父さんは顔もよく似てたし、叔父さんも自分の顔みると辛いだろうからって、お父さん亡くなってからはお母さんと全く会ってない。本当は、お母さんに叔父さんのこと、色々聞きたいんだけど・・・」


「・・・・本当に自殺だったのか?」


アオは、あかりをまっすぐ見て問いかけてきた。


「ア、アオ~」

「何それ、叔父さんが殺したってこと?」

「そうは言ってない。でも、変じゃないか?自殺は物凄く辛い人間がするものだろ?今まで元気だったのに、いきなり死ぬなんて」

「に、人間はそうゆうこともあるの。あんたも、人生経験積めばきっとわかるわよ。それより、聞きたいことたくさんあるから・・・」


あらためて、三人はリビングのテーブルに向かい合って座り、話を始めた。


「・・・・で、まずあんたが聞きたいことは?」

「・・・わからないことは山ほどあるけど、まず色人の能力について、詳しく知りたい」


先ほど、火の粉を払うときに確かにあかりは色人の能力を使った。あかりの制服のスカーフの色は赤だ。つまり、あかりは赤の色人の可能性が高い。


(そういえば、あの時叔父さんからもらった錠剤も、赤だった・・・・)


やはり、自分では気づかない間に叔父によって色人にされてしまっていたのだろうか・・・・。


しかし。

画材屋で赤い塗料を触っても何も変化はなかったし、冷蔵庫に入っていたミニトマトを舐めても色に変化はなかった。


それに、叔父に薬を打たれたのも半年も前だ。その間、あかりの体に変化はなかった。


(それなのに、何で急に・・・?まさか、この子達と会ったことが原因で・・・?)


「俺たちの能力については、この前話したけど」

あかりの不安をよそに、アオは冷静に話を続けた。


「・・・・それぞれ決まった色を操ることができて、その色を舐めることで、エネルギーを回復できることまでは聞いたけど、えっと、自分の色ならなんでもいいの?」

「そう。天然物でも人工物でも関係ない。固形でも、液体でも。元々その色じゃないものでも、自分の色の塗料を塗れば変形させることができるけど・・・ただし、それは塗料が完全に乾いて付着した状態なら、だ。」


アオはテーブルに置いてあったみかんを手に取り、ポーチから青い絵具を取り出し、フタを開けて、みかんに青の塗料を塗りつけた。


アオが塗料に触れると、塗料だけが浮き出した。


「完全に付着してない状態で変形させようとしても、こうやって塗料がはがれるだけだ。あと、塗料が乾いて付着していても、変形できるのは塗料が付着してる部分だけだ」

「ふうん・・・・いつもは花びら持ち歩いてるんだよね?」

「山降りてから青いものは一通り調べたけど・・・多分花びらが一番効率がいい。花は自分達で栽培して増やせるし、軽いから大量に持ち運べるし、その辺に簡単に捨てられるし」

「一応塗料もポーチに入れてるけど、チューブから出すのに時間かかるし、使った後汚れちゃうもんね~」


「あと、生き物も変形させることはできない。・・・例えばインコとか、蝶とか」

「髪を青とか黄色く染めてる人も、多分無理だと思う~」


「ただ、落ちた羽とか切れた髪とか、肉体から完全に離脱していれば変形させることはできる。あと死体でも。おそらくだが、生きてる生物のエネルギーが俺たちの力を無効化させるんじゃないかとハカセが言ってた。あと、自分の髪とか血液も吸収や変形させることはできなかった」

「・・・・でも、色って言ってもたくさんあるでしょ?例えば・・・緑っぽい青とか、人によって違う色に見えたりとか」


「そう。俺が一番相性がいい色はブルーストーン。こいつはレモンイエロー。その色みより濃く、もしくは薄くなれば変形させるときにエネルギーを使うし、補給の効率も下がる。一応色の濃度を測定する機器も持ち歩いてるけど、いちいち測ってる時間もないし・・・まあ、大多数の人間が青だと判断する色のものは大体使えるって認識でいい。あと、あくまでその物体自体が発している色みによって決まるから、光の加減とか、人によってどう見えるとかは関係ない」


「・・・・・・じゃあ、私にも相性の良い色みはあるってこと?」

「多分。でもそれは俺たちにはわからない」

「私にも色人の能力があるらしいけど・・・でも、今は赤を触っても何もない」

「・・・それは、俺たちにもわからん」

「僕たちみたいにハカセと訓練してないからかな~?」


「・・その、訓練て、どうゆうことしてたの?」

「大量の塗料用意して、それぞれどの色が一番相性いいかとか、片っ端から調べてデータを取ってた。あと、色を変形させるスピードとか硬度測ったりとか」

「僕がいつもビリだったんだよね~へへ~」


「・・・どれくらいやってたの?」

「・・・わからない。気づいたら山奥でハカセに訓練させられてたから、それが日常になってた・・・」

「ずっと山奥にいたの?」

「そう。ハカセが死ぬまでずっと、山奥でハカセと色人だけで生活してた」

「え、人間は叔父さんだけ?」


「あと、〝サクマ〟っていう奴もいた」

「サクマ?」

「その人が食料とか、研究で使うものとか調達してくれてたんだよね~。あと、ハカセがどうしても用事あるときは、その人が僕たち監視してた~」

「その、サクマ・・・さんは、今どうしてるの?」

「わからない。俺たちが襲われる数日前から、連絡とれなくなったらしい」


「じゃあ、そのサクマさんも謎の組織に殺されたかもってこと・・・?」

「その可能性はある」

「サクマさんは、叔父さんとどうゆう関係なの?」

「わからない。でも、サクマはハカセにいつも敬語だったし、頭が上がらない感じだった」

「人間でいう、センパイとコーハイってやつなのかな~?でも、いつも下向いててなんか暗かったし、ほとんど話したこともなかったんだよね~」


「・・・てゆうか、逃げようとは思わなかったの?アナタたちの能力があれば、逃げ出すことは簡単にできたでしょう?」

「色人はそれぞれ首に小型の発信機を埋め込まれてた。だから、逃げることはできなかった。ハカセに嘘もつかれてたし」

「嘘?」


「最初はハカセもある組織に脅されて僕たちの研究してるって言ってたんだ~。だから俺を殺して逃げても組織がまた狙ってくるから意味ないぞって~。結局、それは嘘で、ハカセが単独で研究してただけって死ぬときに白状されたけど~」

「でも、俺たちを研究することになった経緯、目的までは教えてくれなかった。答える前に死んだから。だから、俺たちが研究内容について知ってることはほとんどない」

「そう・・・・・」


「まあ、仮に襲われる前にハカセから逃げたところで、俺たちは〝外〟の世界を知らないし、頼れる人間もいない。いつか必ず人間に戻すと約束してくれてたから・・・・逆らえなかった。ハカセも、俺たちを警戒してたけど」

「色んな訓練や実験はしてたけど、ケガするような危険なことはしなかったしね~」


「あ、あと色人って全部で何人いるの?」

「俺たちをいれて全部で六人。青、黄色、緑、白、黒、茶色」


「・・・その全員が私を狙ってるの?」

「全員とは限らない。独自で別の方法を調べてるかも・・・できれば全員と合流したいけど」

「ミドリもさっきのであきらめてくれたらいいんだけどね~」

「・・・・意見が合わない奴を味方に引き連れてもしょうがない。追い払いながら調べるしかない。あいつの硬質能力は厄介だけど・・・」


「そのことも気になってたんだけど、色人にはそれぞれ特性があるの?」

「そうだな。俺は変形のスピードが一番早くて、さっきのミドリは硬質能力が高い・・・」

「キイロくんは?」


あかりが問いかけると、キイロは気まずそうに頬をかいた。


「あ~・・僕は物を柔らかくすることはできるんだけど~・・・今のところ、役に立ったことはないかな~・・・スピードも硬質力も他の色人より劣ってたし~」

「でもその能力はお前にしかない。俺も他の色人も、硬質はできるけど、物体を軟化させることはできない」

「ア、アオ~」

「くっつくな、気持ち悪い」

「がーーーーん」


「えっと・・・色人の中でも優劣はあるの?誰が一番強いとか・・・」

「一番能力が高いのはおそらくシロだ。俺たちは色を変形させたり、補給すると物体は色が抜けて白くなり、無効化する。でも、シロは色が抜けても白色だから、ずっと能力を使うことができる」

「じゃあ、一番の要注意人物は白の色人?」

「いや、アイツは大丈夫だ」


「・・・何でわかるの?今、どこにいるかもわからないんでしょ?」

「いや、知ってる。会っておくか?」


「・・・・・・え?」


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