元・同居人

「・・・・・ミドリ!!!」


背後から、高い声で名前を呼ばれた。反射的に振り返ると、ミドリの視界は再び遮られた。


「・・・・!?」


また何かの仕掛けだろうか?

違う。


黄色い。


蹲ったミドリの背後には、キイロとあかりが立っていた。そして、キイロの手には黄色の塗料がべったり付着していた。

キイロがミドリの背後から大量の黄色い塗料をミドリの全身に投げつけ、消火した。


「す、、凄い~!!僕の攻撃、初めて当たった~!!」

喜びを隠せないキイロは、あかりと共にアオの元へ駆け寄った。


「・・・ア、アオ・・・くん、だ、大丈夫・・・!?」


「・・・クソッ・・・」

ミドリはキイロから浴びせられた塗料に苦戦していた。火は消えたが、目を拭っても、また塗料が目に垂れてくる。


「アオ、今のうちに逃げよう~!!」

キイロはアオのツルを解き、肩を貸して立ち上がらせた。


「僕の攻撃見た~?初めて当たったよ~!褒めて、褒めて~!後ででいいから、絶対褒めてね~!!」

「バカ!!何でコイツ連れてきた?ミドリはコイツ狙ってんだぞ!」

「・・・あ・・・あ~そうか~。で、でもあかりちゃんがアオが危ないって~でもあかりちゃんも見張らないといけないし~」

「俺のことはいいからっ。とりあえずコイツつれてどこか逃げろ!!」

「え、で、でも~」


「ハハハハハ」


言い合いするアオ達を見て、ミドリは笑い声を上げた。


「・・・・?」


アオは顔をかしげてミドリを見た。


「随分お気楽デスネ、アオ。何故、私がアナタ達の居場所を突き止めたと思いマス?」

「・・・・・?」


「そこの女が・・・・私に教えてくれたんデスヨ」

「・・・・・・・・!」

アオは驚いた顔であかりを見た。


ミドリは胸元から写真を取り出して見せた。今朝、あかりの下駄箱に入っていた母の写真だ。


「母親を狙うと言ったら簡単に白状シマシタヨ」


「・・・・・・・・!」


アオの視線に耐え切れず、あかりは何も言わずに俯いた。


あかりは、確かにアオ達のアジトの場所をミドリに教えていた。しかし途中で思い直し、授業を抜け出して、学校の外で見張っていたキイロに事情を話し、アジトへ向かってきたのだった。


「・・・・・・・」


アオは何も言わない。顔を上げるのが怖い。アオはかろうじて一命を取り留めた状態で、服は全身黒こげで、体は傷だらけだ。死んでいてもおかしくない。


(や・・・やばい。絶対怒ってる!・・・・殺される!!)

あかりは混乱し、その場で土下座した。


「ご・・・ごめんなさい!!お、お母さんまで狙われると思ったら、怖くて・・・」

「・・・・・・・・・」

「ど・・・どうか命だけは」


アオは何も言わない。ただそれが恐ろしくて、あかりは震える声で懇願した。


「ハハハ!アジトの場所まで暴露しといて、命乞いデスカ?アジトの場所を教えたらどうなるか、想像ついたデショウ?いいデスカ、アオ。このように人間とは利己的で「黙れ」


アオはミドリを睨みつけ、ミドリは萎縮した。


「おい、その意味不明な体勢やめて、さっさと逃げろ」

「・・・・え?」

あかりは顔を上げたが、アオはミドリを威嚇したまま、あかりの方は見ていなかった。


「お前は何も間違ったことはしていない。お前が守るべきものは自分の家族だ。俺たちじゃない。だから、謝る必要はない」

「・・・・・え?」

アオの言葉に、あかりは混乱した。


「随分優しいのデスネ。アオ」

「そうじゃない。そもそもコイツはハカセに巻き込まれただけで、俺たちとは無関係の人間だ。それなのに自分の家族を犠牲にしてまで俺たちの味方するはずだなんて期待する方がおかしい」

「・・・・・・・・・」

「コイツが俺を裏切るかどうかなんて関係ないしどうでもいい。俺たちの争いで無駄な犠牲者を出したくないだけだ」


「・・・・・・・・・」


四人の間に沈黙が流れた。


「・・・何故デス?アナタだって、人間になりたいのデショウ?」

「逆に聞くが、お前は何でハカセの言うことをそこまで信じられる?俺たちのことずっとだまして研究所に閉じ込めてたじゃねーか」


「・・・・他にどうしようもないデショウ!!」

ミドリはツルを握りしめた。


ツルはアオ達に向かって伸びだしたが、アオは手に持っていた花びらでツルを切り、ミドリに向かって突進した。

「な・・・・!?」

アオはその勢いのままミドリの両手を抑え、押し倒した。


「お前の硬質化能力が一番高いが、スピードは俺の方が早い。だったら硬質化する前に切ってしまえばいい。攻撃のタイミングさえ見計らっておけば、そう難しくない」

「クソ・・・!」


「いいかミドリ。俺はお前を殺さない。お前がアイツを狙いたきゃ狙えばいい。そのたびに追い払ってやる」


「色人としては、確かにお前の方が能力は高い」


「でもな、もしアイツを犠牲にしてお前が人間になったら・・・・俺はいつでもお前を殺すことができる。そのことだけは覚えておけ」

「・・・・・・」


そう言ってアオは右手を振りかざした。攻撃されると思ったミドリは身構えたが、アオは何もせずに右手を下ろした。


「・・・・・・・?」


そんな青の行動に首を傾げたミドリを、アオはまっすぐな瞳で見下ろしていた。


「・・ただ、お前の言ったこと、一つだけ同意できる」

「・・・・・・・」


「俺たちは元々友達でも仲間でもない、ただの元同居人だ」


「・・・・・・・・・・・・・」


アオは一呼吸おいて、続けた。


「・・・・でも、それでも・・・」


「・・・それでも俺は、お前に、〝ヒトゴロシ〟になんか、なってほしくないよ・・・」


「・・・・・・・・・」


しばらく、沈黙が流れた。


遠くの方から消防車のサイレン音が聞こえてきた。


「何この音~?」

「・・・消防車のサイレン音。私が呼んでおいた・・」


「・・・・・・うっ!」

サイレン音に一瞬気を取られたアオは、ミドリにいきなり殴られた。

ミドリは立ち上がり、サイレンの音がする方向とは逆の方向へと走り出した。


「待て・・・・・・!」

アオはとっさにミドリの足をつかんだが、そのまま蹴り上げられ、ミドリはそのまま走り去っていった。


「アオ~!」

キイロは半泣きでアオに駆け寄った。


「とりあえず・・この場を離れるぞ」

「う、うん!ぼ、僕の肩につかまって~」


キイロの肩につかまりながら歩くアオの前には、あかりが立っていた。

あかりはセーラー服の赤いスカーフを外し、アオに駆け寄り、頬についた黒ズミを拭った。


「・・・・ごめんなさい・・」

「だからそれは、」

「・・・あなたたちのこと、ちゃんと信用する」

「あかりちゃん~・・・」


「だから、あなたたちが知ってること、私に全部教えて。色人のこととか、叔父さんとのこととか・・・」


次の瞬間、焼けているアジトから飛んできた火の粉が、あかりの方へ飛んできた。

「あ、あかりちゃん・・・!」

「・・・・・・!」


あかりはとっさに、持っていたスカーフで火の粉を払おうとした。が。


火の粉は空中で真っ二つに切断され、地面へ落ちていった。


「え・・・・・?」


あかりが持っていた赤のスカーフは、細長い剣のように形を変え、白くなっていた。


「・・・・え、え?」


今、確かにあかりは、色人の能力を使った。


混乱するあかりの後ろから、アオは冷静に声をかけた。


「・・・・そうだな。話そう。あんたの能力についても」



『はい、終わった。あと、この錠剤も飲んで』

『え?これ薬?凄い色・・・・』

『水なしでそのまま飲める錠剤だから。即効性があって、よく効くんだ』

『は~い・・・・』


(赤い錠剤なんてあるんだ。珍しいなー・・・・)


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