色人・シロ

駅前の人通りの多い広場。路上で歌を歌っている人もいれば、露店もある。普段から若者が多いこのエリアは、昼も夜も多くの人でにぎわっていた。


「え~ナニコレ!めっちゃ綺麗!!」


若い女性2人は、露店に並ぶ精巧な白い石細工に目を奪われていた。


「凄く綺麗だけど、、値段書いてないよ?」

「そ、そうだね・・・きっと高い・・・ですよね?」

「百円」

「「え!?」」


商品の前に座っていた男性が笑顔で答えた。彼のひざ元には黒い猫が丸まっている。


「え・・・これ一つで百円?」

「あ、二個で百円でもいいですよ」

「え、え・・・?」

戸惑う女性二人に笑顔を絶やさずに答える。


「おい、シロ」


背後からの声に青年が振り向くと、アオ、キイロ、あかりが立っていた。

「やあ。アオ」

「調子はどうだ?」

「相変わらずだよ。・・・後ろの子は、もしかして」

「ああ。ハカセの姪だ。やっと見つけた」


シロ、と呼ばれた男性は猫を抱きながら立ち上がり、あかりを見つめた。


「・・・・・・」


やせ型で、黒髪の短髪。緩い素材のシャツにダボダボのカーキーのカーゴパンツを履いていた。顔立ちは穏やかで、好青年といった雰囲気だ。


「はじめまして。シロです」

シロはニコニコしながらあかりに手を差し出した。


「・・・あ、はい」

あかりは躊躇しながらも手を握り返した。


「こんな短期間で見つけるなんて。さすがだね。アオ、キイロ」

「俺らだけじゃねーけどな」

「ミドリに見つかっちゃったし~」

「あらら・・・」


(この人が・・・シロ?)

色人最強と聞いていたが。雰囲気はどこにでもいる若い男性にしか見えなかった。今まで会った色人はそれぞれ髪と瞳の色が担当の色だったが、シロは何故か黒髪で、瞳の色も黒色だった。


「あ・・・髪色?染めてるんですよ。白色だとさすがに目立つから。あと目はカラーコンタクト?いれています。人間の世界には便利なものがたくさんあるんですね」


あかりの不審な視線に気づいたのjか、シロはあかりの疑問に答えた。


「にゃあ~」

シロの腕の中で寝ていた猫が目を覚まし、あくびをしていた。


「ああ、ごめん。黒色。起こしちゃったね」

「黒色?」

「この子の名前。黒いから黒色。黒の色人もいるからややこしいかな~とか思ったけど、色以外のことはあまり知らないし」


どうやら雑種らしい。地域猫のようで、耳は避妊済みのカットがされていた。


「可愛い」

あかりが撫でると、黒色は気持ちよさそうに喉をゴロゴロ鳴らした。


「珍しい。黒色は僕以外になつかないのに」

「友達の実家が猫の保護施設やってて、昔、少しお手伝いしたことあるから。動物好きだし」

「そうなんですね」


「最近どうだ?他の色人から接触とか・・」

「特にないよ。いつも通り」


「シロ・・さんは、いつもここで商売してるの?」

「はい。僕は食べるのには困らないけど、この子の餌代を稼ぎたいから」

「え?猫の餌代のため?」

「はい。盗みはしたくないし。お金を稼ぐのはもっといい方法があるのかもしれないけど、とりあえずこれしか思いつかなくって」


あかりはしゃがみこみ、シロの商品をまじまじと見た。シロの商品はどれも精巧で美しく、艶やかだった。

「このクオリティで百円は安すぎるよ。逆に怪しいというか・・・」

「うーん。どれくらいの値段になるかよくわからないんですよね。その辺の石に白の塗料塗って作ってるだけだし」


シロはポケットから白い小石を取り出し、手のひらで強く握った。


二、三秒ほど握って手をひらくと、小石はリアルな薔薇の形へ姿を変えていた。


「わあ・・・綺麗」

「アオ達から聞いてるかもしれませんが、具現化っていうのかな?僕は細かい変形が得意なんです」

「アオたちはこれは作れないの?」

「・・・・・」


アオは拾った小石に青の塗料を塗りこみ、握った。一秒も経たずに手を開いたが、歪な形の白い石になっていた。


「下手くそ・・・」

「うっさい」

あかりに呆れられ、アオはムッとした表情を見せた。


「ははは。でも変形のスピードはアオに負けますよ。僕の変形は細かい代わりに少し時間使うから」


「えっと・・・シロさんも、人間になる方法を探してるの?」

「僕ですか?僕は人間になるつもりはありませんよ」

「え?どうして?」


「今のままで十分幸せだからです」

「・・・・・・・・」


「ハカセのもとにいたときは人間になりたかったけど。こうして町に出て、野良だった黒色と出会って、共に生きて・・・これ以上望むことはありません。元々、争いとかは苦手なんで」

「でも、命狙われてて、いつ殺されるかもわからないのに」

「それは自分の運命だと思って受け入れます。できれば黒色の後に死にたいけど」

そう言って、シロは黒色を愛おしそうに抱きしめた。


「ごめんね、アオ、キイロ。味方になれなくて」

「それはお前の自由だ。別にお互い害もない」


「そうゆうことです。あかりさんは他の色人に狙われて大変だと思うけど、頑張ってくださいね!!」

「は・・・はい。あ、そろそろバイトの時間が・・・」

「一応、定期的に顔出すけど。お前も何かあったら知らせろよ」

「わかってる」

「にゃー」


こうしてあかり達はシロの元を後にした。


去っていくあかり達を見送り、シロは黒色を抱き寄せた。


「・・・俺にはお前がいれば十分だよ、黒色」

「にゃー」

「・・・・愛してるよ。黒色・・・」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「俺の服、どうすればいい?」


あかりのバイト先に向かう途中、アオはあかりに問いかけた。


「ああ、家出たときまだ乾いてなかったから、乾いたら返すね。それまでは、私のジャージ貸すから」

「・・・いいのか?」

「昔のジャージだし。返すのはいつでもいいから」

「あかりちゃんは優しいね~」

「私のせいでこんな事なったし・・・」

「・・・だからそれは、」

「あと、昔、お父さんに言われたの」

「・・・・・・?」


「〝可哀想な人には優しくしてあげなさい〟って。私もこんな事に巻き込まれて大変だけど、君たちはもっと辛い思いしてきたんだよね・・」

「・・・・・・・・・」


バイト先に到着し、あかりは二人に改めて頭を下げた。

「今日は本当にごめんなさい。ありがとう。これからは、あなたたちが人間に戻れるように、私にできることは何でも協力するから」

「・・・・・おう」

「これからよろしくね~、あかりちゃん」


あかりと別れ、アオとキイロはアジトに向かって歩き出した。

「おい、キイロ」

「なに~?」

「・・・今日、助けにきてくれて助かった。・・・・あと、怒鳴って悪かったな」

「・・・・・!ア、アオ~・・・」

「抱きつくな!気持ち悪い!」

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