第3話 銀河最強
ふぃぃーいい湯だったなぁ、色々とスペースを削った『テッペン』号だが、お湯に浸かれる風呂場は残した。
「やっぱシャワーじゃ物足りねぇしなぁ、ふんふんふーん」
風呂施設を出て通路を歩いていく、ご機嫌な俺だ。
そうして俺は一つの部屋に入る。
そこは端っこに調理設備のある俺ら船員の食堂兼リビングの様な部屋だ。
まぁ会議室も兼ねる、と言ってもソファーとテーブルがあるだけの狭い部屋なんだが……。
前の俺の船なら部屋なんて一杯あったんだが……今は無駄なスペースを全て削って防御や推進力を上げる設備を増やした設計になっている。
俺は全部推進力を上げる設備で良かったんだがなぁ……サイに止められちゃったんだよな。
ドサッっとソファーに座る俺の対面には、相棒であるサイと【銀河SAISOKU商会】の従業員であるリリーが二人寄り添う様に並んで座って、何か空間投影モニターを見てあれこれ会話をしている。
新しい仕事でも探してるんかね。
今はとある恒星系に荷物を運んで居る最中だが、銀河ネットを使えば遠く離れた場所の仕事の情報もいち早く確認出来ちまう。
リリーが言うには仕事の話は現地で生の情報を得る方が安全らしいけどな。
給仕ロボに風呂あがりのアイスコーヒーを頼みながら、対面に座る二人に話し掛ける。
「随分熱心だがいい仕事でも見つかったのか? もうこないだみたいな輸送品は嫌だぜ?」
俺の呼びかけに気付き、話合いを止めてこちらを見た二人は。
『あれは酷い仕事でしたね……』
「まさか輸送コンテナに隙間が出来て中身が溢れ出すとは思いませんよね~」
そうなんだよな、ちょっと前に受けた仕事の輸送品の中身がうちの格納庫にドバーっと……。
「俺はよく判らんかったんだが、赤字にはならんかったんだよな?」
荷物を駄目にしたわりに二人はあんまり焦ってなかったんで、細かい事は聞かなかったんだが、しいていえば後始末が大変だったなぁ……。
『あれは契約違反ですから違約金の請求をして終わりです、そもそも契約内容と中身が違かったうえに、使われていたコンテナが銀河規格の耐久値に満たない物だったんですガオ様』
「非生物を運ぶ契約のはずなのに、不活性状態の生きた虫がわんさか積まれているとは……うぇぇ録画映像を見た時の事を思い出してしまいました……」
コンテナに出来た隙間のせいで目を覚ました虫が、ワラワラと格納庫中をすごい勢いで動き回るのは確かに酷い光景だった。
「格納庫の浄化措置の訓練だったとでも思うしかねぇな……てか格納庫の掃除の時にお前ら一切手伝わなかったよな……」
『私は見た目こそメカメカしいアンドロイドですが中身は女の子ですから、虫が苦手でも仕方ないと思うんですガオ様!』
「異常を知らせるアラートが出て、格納庫の映像を見た瞬間に、サイさんすごい悲鳴をあげてから即座に格納庫の浄化措置を始めましたもんね、あれって契約通りの品だったらすっごい額の違約金を私達が払う所だったんですよ?」
俺に話が来た時は、すでに格納庫内が焼却措置をされていて、黒い粉になった虫と崩れたコンテナしか無かったからな、虫の映像は後で録画で見せてくれたけど。
『中身が生きて居る時点で契約違反ですから、たとえあれが彼ら鳥獣人種に取ってご馳走でも知った事ではありません』
「……あれの値段聞いたらびっくりしましたよね……特殊な惑星でしか生殖しない虫とか、宇宙は広いなと思いました」
「まぁあれの話は置いておいて、それで次はどんな仕事を見つけたんだ? そろそろ最速でぶっちぎって飛べる依頼とかだと嬉しいんだが」
大急ぎの案件だと経費無視して飛べるかもだしな、ワクワク。
『ああいえ……』
「えーと……仕事の話じゃなくてですね」
ありゃ、なんだよ仕事じゃないのか……ちえ……給仕ロボが持ってきたアイスコーヒーを飲む、ふぅ……やっぱ船で飲むこれは一味違うよな。
「それじゃぁ何を見てたんだ? 面白い銀河ドラマでも見つけたか?」
何か面白い番組があったら俺も見よう。
っと俺の前に空間投影モニターが出現した、サイがやったみたいだな。
そこには一人の少女が映し出されていて、金髪でツインテールで青い目で、着ている服は……辺境から流れて来た様式だな、確か……ゴスロリ? とかそんなんだった気が?
ふむ、俺の好みじゃねぇが、まぁ世間一般で言う人種の可愛い娘って感じだな。
新しいドラマの主人公とかだろうか? これが主人公なら俺は見なくてもいいかなぁ……。
『いかがですか? ガオ様』
んー? いかがですかと言われてもなぁ。
「ドラマの内容は知らんが俺は見なくていいかな、もっとこう血が滾る様な内容のがいいな、この見た目の子が主人公だと恋愛物とかだろ? レース物とかテッペン目指す様なのなら見るけどよ」
おれは思った事をそのまま返事として返していく。
「ガー様、それはサイさんの義体候補ですよ、ドラマじゃありません……」
へ? 義体? この甘ったるそうな見た目がサイの義体候補?
「まじか?」
「おおまじです、サイさんの要望を聞きながら二人して設計したのですけど……ガオ様には響かないみたいですね、そもそもなんでドラマだと思ったのか謎です」
そりゃ……なんでだろう? サイがちゃんと説明しなかったからじゃね?
俺はそう思いリリーからサイに視線を移すと……。
「どうしたんだサイ、元気ないな、そりゃ義体の設計は出来ても借金があるから作れるのは先になっちまうのかもだけどよ、安心しろ俺が絶対に新しい体を手に入れてやるからな!」
『……ありがとうございますガオ様……それで、さきほどの義体はガオ様の趣味では無いという事で合っていますか?』
「わ……ストレートに聞くんですね、サイさんすごい」
ん? んー?
「そうだなぁ、可愛いとは思うが、好みとは違うかもしれん」
『そうですか……ちなみにガオ様の女性の好みをお聞きしても?』
「そういえば取り巻きの女性で誰が一番とかは無かったですよねガー様は」
あーあの頃はな……なんかこう侍らすのが当たり前という意識はあったが、人として好きにはなれん奴等だったというか……うーむ、自分でやってたのに正直意味が判らん。
まぁ昔の事はいいか、えーと。
「そうだな、まずは俺と似合う背の高さは欲しいな」
やっぱり隣に並ぶならバランスは良い方がいいよな。
『そうなると175センチ前後でしょうか、これくらいっと、他には?』
「私160くらいしか無いんですが……」
背の次は体系か?
「やっぱこうスタイルの良さは欲しいな、胸なんかはほどほどでいいんだが、スラっとした足は最高だよな、敵を蹴っ飛ばす時にも映える」
『スタイルが良いっと……こんな感じでしょうか、他には?』
「背が低い時点でスラっとした足は無理っぽい……胸もぺったんこですし……」
背と体形ときたら種族か?
「やっぱ同種族がいいかもな、飯の好みとか種族差が出るしよぉ」
『狼獣人ですか? 確かに先程のデータは人種でやってしまいました、それならこんな感じで、髪や目の色で好みはありますか?』
「きた! ガー様ガー様! 私は狼獣人ですよ! しかも希少種!」
髪や目か? んーあんまりこだわりはねぇけども。
「うーんそこらは特にこだわりはねぇかなぁ、あーでも髪の毛の長さはサラサラっとしたロングが好きかもな、リリーって希少種だったのか、確かにその白い毛や赤い目は綺麗だもんな」
『なんでも良いならお互いにかぶらない色が……長さも……こんな感じかな、服とか格好はどうです?』
「きたぁ! ガー様が私を綺麗って!? 今は肩くらいの髪ですが腰まで伸ばしますから待ってて下さい! ふふふきれい……私をきれいって……ふふふ」
服かぁ……んーいや、あーでもなあ……これはちょっと、うーん。
「服は似合っていればイインジャナイカ?」
『ガオ様ウソをついていますね?』
「ガー様アウトです、心のままに言うべきです」
「なんで判るんだよ! いやこれはその……うーむ……」
好みの服っていうか……。
『言葉に出して言うのが難しいのであれば、ガオ様の情報アーカイブの中にある物で示して下さい』
「あーなるほど、ガー様の持つプライベート用のデータにそれが、って! サイさん攻めますね……そのデータって男の人のエッチな……いやまぁ、ガー様、観念して出しちゃいましょ!」
ってお前ら俺がエロいデータの中での服装で迷ってるんだと思ってないか?
そういうのは別の話だろうに……ったく、とりあえず俺が購入した辺境惑星の漫画データを呼び出して二人に見せる。
『ははぁ? ああ……そういう……ではちょっとそれに関して調べてきます』
「あらサイさんってば銀河ネットに潜っちゃった……ガー様ってば漫画に出て来るキャラの恰好が好きなんて別に言い淀む事なくないですか?」
「そうかぁ? 自分の好きな作品を見せるのって恥ずかしいだろ?」
「……あ……そうですね、確かに私の趣味の本はガー様に見せられないかもです……」
なんだ? リリーの趣味はやべー内容なのだろうか?
……。
……。
『情報収集を一旦停止して帰還しました、まさかガオ様が軍服が好きだとは思いませんでした』
軍服? いや、この作品は辺境惑星の大昔の学校を元にしたもんだったはずなんだが……。
「ガー様にそんな趣味が……私も着た方が?」
「いや待てリリー、俺が見せたのはな」
『完成しましたガオ様! これでどうでしょうか?』
そう言ってサイは俺の前に空間投影モニターを出して来た、そこにはスラっと背の高い狼獣人が微笑を浮かべて立っており、金髪ロングでサラサラの髪の毛を腰まで伸ばし、胸はそこそこ足は……見えないな。
黒いひだのあるロングスカートから金髪尻尾が飛び出ていて、白を基調とした上着には黒い大きなエリが特徴的だ。
そして胸元には赤い大きなリボン、うん、俺が見せた漫画のヒロインキャラの服装に似ていて、眩しいくらいに美人だ。
「いいな……まぶいぜ」
漫画キャラの褒め言葉を真似してみる俺、翻訳を通すと、眩しいくらいの美人、となる。
『この服装は現地でセーラー服と呼ばれており、海軍の服装を元にした物だそうで、ガオ様の好みに合致していますか?』
「ほぇーこれが軍服なんですか? 思ってたのとは随分違いますね……」
「ああ、まぶい美人だな、まるで漫画のヒロインみたいで銀河最強かもしれん」
『そうですか!? ……ではこれを私の義体とします、いつか作れる日を楽しみにしていて下さいガオ様!』
ん? いやまて。
「サイはさっきのゴスロリだったか? あの姿に成りたいんだろう? 自分の好みの恰好でいいんだぜ? あれも可愛かったじゃんか」
『ええ、私は可愛くありたいのです……ガオ様にとって一番可愛く! ……なのでガオ様の好みを突き詰めたこっちで良いのです』
「うーんサイさん乙女ですよねぇ……こんなサイさんを長年男人格だと思っていた人が居るそうですよ?」
うぐ!? いやだって見た目メカメカしているし思い込みもあったしよぉ……。
映像だとショートカットでイケメンっぽかったしさ、仕方ないと思うんだが。
「ゴホンッ、ま、まぁサイの好きにするのが一番だな」
話を蒸し返されたら嫌なので、俺はサイの意見を肯定すると自室に戻る事にした。
ではな二人共! ソファーから立ち上がり逃げる様に出ていく俺だった。
……。
「逃げた」
『逃げちゃいましたね』
これは戦略的撤退とか言うらしいぞ! さらばだ!
……。
……。
side 残された二人
部屋に残された二人は、空間投影されたモニターに二つの画像を出して会話を再開する。
画像の片方はツインテール甘ゴスロリ少女で、もう片方はロング髪ロングスカートのセーラー服美人だ。
「でも本当にこれでいいんですか? サイさんはこっちの背の低い甘々した感じが好きなんですよね?」
『それを見てもガオ様はまったく反応しませんでしたから……対してこちらの画像を見た時には心拍数も上がりましたし、私はガオ様の望む姿でありたいのです』
「確かに明らかに興味のあるなしが明確でしたよね……いっそのことうちの従業員服をこのセーラー服を元にしたデザインにしてしまいませんか?」
『リリーは似合うでしょうけど、私のこのメカメカしいアンドロイドの姿では……でもそうですね、ガオ様の為にリリー用の服は用意しましょう、情報を調べた限り色々なバージョンもあるみたいなので一通り作ってみましょうか』
「……あーえーと……今はまだこの地味な服のままでいいです、サイさんがその義体を手に入れたら二人して存分にガー様を楽しませましょう!」
『……リリー……貴方は……ありがとう……』
「ガー様大好き同盟の同士ですからね、頑張って稼ぎましょうサイさん、そういえばさっき進行ルート上で手頃な海賊の情報を手に入れたんです、賞金がかかってないかとか調べましょうか?」
『……ええ! 貴方の為にも頑張って義体を手に入れてみせますよリリー!』
銀河SAISOKU物語 戸川 八雲 @yakumo77
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