#9 人生のトラブル(2)
ソクラテスには尊い格言が二つある。
「悪に苦しむよりも、悪事を行うことを避けることが大切だ」
「悪いことをした時は、罰せられないより罰せられる方がよい」
一般的に「利己主義は間違い」で、「幸福を妨げる」かのように言われているが、これは完全に正しいわけではない。
残念ながら、多くの人が愚かな利己主義者で、自分自身も他の誰も幸せにならない行動方針を追求している。
ゲーテは次のように語っている。
「すべての人が、まず自分から始めて、自分自身の幸福を作るんだ。そこから全世界の幸福が、最終的に間違いなくついてくるはずだ」
これはあまりにも広く言われすぎているが、言うのは簡単で、もちろん例外も指摘されるかもしれない。
しかし、もしすべての人が過剰を避け、自分の健康に気を配るならば——、自分自身を明るく強く保ち、家族を円満にし、家庭生活を苦しめるささいなトラブルの原因を作らないようにして、自分のことに気を配り、素のままで物腰の豊かな自分を保つとしたらどうだろう。
中国の格言を借りると「自分の戸口の前の雪を掃き、隣家のタイルの霜を気にしない」だが、それは最も高貴な行動ではないかもしれない。それでも、「自分の戸口の前の雪を掃く」ことは、家族や友人知人にとってどれだけ良いことか。
しかし、残念ながら——、
「居住可能な世界を見渡してみると、自分の善を知っている人や、善を知っていても追求している人がいかに少ないかわかる」[6]
間違ったことをしても、自分の幸せの足しにはならないということを、人々が認識できるようになればすばらしい。
実際、子供の場合、私たちはこのことを認識している。甘やかされた子供は幸せではない。最初に過ちを犯したときに罰を受けて、その後の人生でより大きな苦しみから救われた方がはるかに良かっただろう。
すべての人に守護天使がついているというのは美しい考えだ。
良心は常に私たちを注視しており、いつでも危険を知らせる準備ができているからだ。
私たちはしばしば不平を言いたい気持ちになるが、それは最も恩知らずなことだ。
「苦痛に満ちながら、この知的な生命体は、
永遠を通り抜けて彷徨う思考を、誰が失うだろうか。
むしろ滅び、飲み込まれ、
創造されなかった思考の広い子宮の中で、失われる」[7]
おそらく、私たちは「より良い別の世界に備えて、現世に送られたのだ」と言われるだろう。では、将来の幸福のための準備にすぎない世界に、なぜ文句を言わなければならないのか。
私たちは、こうすべきだ。
「神の使いがあなたに下されたものが、
軽いものでも重いものでも、それぞれの苦しみを数えなさい。
立ち上がって、礼をもって、それを迎えなさい。
その影が、あなたの敷居を通り過ぎる前に、
天の足から先に愛する許可を切望しなさい。
あなたが持っているすべてのものを、それの前に置きなさい。
情熱の雲があなたの額を奪うことも、歓待を損なうことも許されない。
死すべき世界の激動の波に、魂の穏やかな静寂を消す力はありません。
悲嘆とは、喜びと同じように、荘厳で穏やかで落ち着いています。
また、強めたり、清めたり、高めたり、自由を作り、
小さなトラブルを消し去る強い力となり、
偉大なことや深遠なことを、最後まで続ける考えを称賛するために」[8]
人生のトラブルとは、ある人にとっては「シロアムの水」みたいなものだ。
美徳を発揮するためには、先に苦難が欠かせない。
(※)シロアム(Siloam):新約聖書に登場する池。イエス・キリストがここで盲人を癒した。
プルタルコスは「私たちはもっと満足できるだろう」と言い、次のように語っている。
「病気の人は健康を、戦争中の人は平和を、大都市では無名の人やよそ者が評価や友人を求めていることを時々思い出して、一度手に入れたものを奪われることがどれほどつらいことかを思い起こしてみよう。そうすれば、これらの祝福それぞれが、失われたときにだけ偉大で価値があり、持っているときには何の価値もないとは思わなくなるだろう……。家庭と自分の状態や、自分より貧しい人に目を向け、(ほとんどの人がするように)自分より恵まれている人と比較しないことが、心の充足に大いに役立つのである……。しかし、キア人(Chians)やガラティア人(Galatians)やビテュニア人など(Bithynians)、同胞の中で自分が持っている栄光や権力の分け前に満足できずに、元老院の靴を履いていないこと、靴を履いていてもローマの法務官(プラエトル)ではないこと、法務官になっても執政官(コンスル)ではないこと、執政官になっても第一位ではないことなどで涙を流す人がいるはずだ……。そんなときは、自分よりも偉大な人を探して、豪華なかごに乗っている人を称賛しながら、目を伏せてかごを担ぐ人を見よ」
そして——、
「ディオゲネスが、祝宴のために派手に着飾っている見知らぬスパルタ人に『善良な人は毎日が饗宴だと考えないのか』と言った言葉に、私はとても感心している。すべてのことに真剣に取り組むことが人生だとしたら、それは心の安らぎと喜びに満ちているべきだ。そのことを、正しく理解するならば、後悔も不満もなく現状を受け入れ、感謝の念をもって過去を思い出し、疑いを恐れずに希望を持って明るく未来に立ち向かうことできるだろう」
【原作の脚注】
[1] King Alfred’s translations of the Consolations of Boethius.
[2] Wordsworth.
[3] Plutarch.
[4] Lovelace.
[5] Bacon.
[6] Dryden.
[7] Milton.
[8] Aubrey de Vere.
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