#10 仕事と休息(1)

労働を経て休息へ、戦闘を経て勝利へ

——トマス・ア・ケンピス



***



 もちろん、人生のトラブルの中に労働は含まれていない。


 労働とは、適度であればそれ自体が豊かな幸福の源だ。

 よく働いていれば一時間があっという間に過ぎ去り、怠けていれば一瞬が重くのしかかる。仕事に就いていると、心配事や人生の小さな悩みが消えていく。忙しい人は、考え込んだり思い悩んだりする暇はない。


「労働から、魂(スピリット)の光を勝ち取り、

 忙しい昼から、穏やかな夜へ。

 豊かさとは、まさに富の欠乏から、

 天の至宝である平和と健康を手に入れる」[1]


 この話は、特に農業や作業場での労働者に当てはまる。謙虚な立場だとしても、名誉に惑わされなければ、義務を果たす満足と健康という計り知れない祝福を得られる。

 これから人生に踏み出す人に対して、エマーソンは「彼らとともに生き、彼らの若々しい眉に『人生の月桂冠』を編んでいる天使は、労苦と真実の相互信仰である」と呼びかけている。


 古代人は次のような真実を語っていた。


「労働とは、神々が価値のあるものすべてに設定した対価である」


 忘れがちだが、私たちは誰もがを認めている。ブルースの蜘蛛の伝説に至るまで、自然界はいつも私たちにこの教訓を思い出させる。



(※)ロバート・ザ・ブルースと蜘蛛(Bruce’s spider):スコットランド独立をかけてイングランドと戦っていたロバート一世が、ある島の洞窟に逃げ込んだ時のこと。蜘蛛が何度も失敗しながら巣を張る姿に感動して、自分を鼓舞したという有名な逸話。




 ハードな執筆作業は、読みやすさを作ると言われる。

 プラトンは『国家(Republic)』の最初のページを十三回書き直し、カルロ・マラッティは満足できるまで『アンティノウス(Antinoues)』の頭部を三百回スケッチしたと言われている。


 錆びるよりは磨り減る方がいい。


「心にも棚の上にも、ほこりは溜まる」[2]


 とはいえ、労働は人間にとって良いことではあるが、過剰になりかねないし、残念ながらしばしば過剰になりがちだ。多くの人が疲れ果てて自問している。


「ああ、なぜ人生はすべて労働ばかりなのか?」[3]


 ソロモンは「すべての物事に時間がある。働く時間と遊ぶ時間だ」と語っている。

 私たちは合理的な変化のために、よりよく働かなければならないし、仕事の報酬のひとつは、余暇を確保することにある。





 意志あるところに道は開ける(there’s a will there’s a way)とは良い言葉だ。

 とはいえ、何かを望むのは良いことだが、望むことが仕事の代わりになってはいけない。


 どんな分野であれ、すべての人間は自分自身を頼りにしなければならない。

 他人が助けてくれることもあるが、自分自身でやらなければいけない。

 他の誰も、私たちの代わりにことはできないのだから。


 自分の長所を生かすには、精神の暗い灯火(ランタン)を自分で使うことを学ばなければならないが、この灯火は、それを持つ者以外には見ることができない。


 誠実な仕事は、決して捨てられない。

 もし、想像上の宝物が見つからなかったとしても、少なくとも現実のブドウ畑を豊かにすることはできる。


 自然は、人間に「働きなさい」と語っている。


「有給でも無休でも、あらゆる時間に働くように。あなたの仕事がこまやかでも荒っぽくても、穀物を植えようと叙事詩を書こうと、それが誠実な仕事で、自分の意志で認めて行われるのであれば、思考と感覚に報酬を得ることができる。たとえ何度敗北しても、あなたは勝利に向かって生まれてきたのだ。よくやったことの報酬は、それをそのものにある」[4]


 また、どんなに根気のいる仕事も、どんなに大きな成功も、人生のご褒美を使い果たすことはできない。


 最も研究熱心で、最も成功した人たちは、「まだ始まっていないやるべきことがたくさんある。見えない希望がたくさんある。勝ち取るべきものや為すべきことがたくさんある[5]」ことを認識している。


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