第6話 完璧な作戦です!!

「続いて、新入生代表の挨拶です」


 あぁ~、ついにこの時が来てしまったのです。

 あの爽やか猛獣の後だと、期待値が大幅に上がってしまっています。

 鬱陶しい猛獣さんなのです。


「頑張ってね」


 頑張ってね……じゃないです。

 ふざけないでください、しばきますよ。

 そう思いながら、両手を胸の前でガッツポーズをする。

 可愛らしいです、国宝級の可愛さです。

 

 ほら、その証拠に私の顔をじっと見ているではありませんか。

 

「頑張ります」


 そう言って私は歩き出します。

 壇上に行く前に深呼吸をします。

 そして、私は作戦を実行します。

 

「それでは、新入生挨代表挨拶……真田明美さん」


 左足と左手を同時に、次に右足と右手を同時に……難しいです。

 しかし、これは大事な事……緊張しているような雰囲気を出しておけば、多少失敗したとしても何とかなります。

 

 沈黙が重苦しいです。

 何とか壇上に着くと、握りしめていた紙を開く。

 紙には何も書いていません。

 もう頭に入っています。


「し、しんにゃうせいとうじ、さにゃだあひぇみ」


 舌を嚙まずに言えました。

 私凄い!!


 しかし、男子生徒とは対称的に女子の視線が痛いです。

 今既に応援している子はいい子なので仲良くしてあげます。

 しばらくして残りの女子も私のが演技ではないと思ったのか、心配そうな顔で見てきます。

 なんだかんだいい人です。

 完全に皆、私の虜です。

 楽勝です。

 チョロすぎます。

 

 私は少しずつ、落ち着きを取り戻したように、一度深呼吸をします。

 皆「頑張れ」「いけるぞ」と応援してくれています。

 ここが噛み技の潮時です。

 

 そうして、新入生挨拶を終えます。

 皆、歓声を上げながら私を讃えています。

 さて、もう普通に戻るとします。

 そうして私は中に戻ると会長と目が合いました。


「くだらない演技だ」

 

 やっぱりこの人は嫌いです。

 私の計画を邪魔するこの学校の魔王です。

 討伐しなければなりません。

 とはいっても、脅威は一年凌げばあの獣が会長になるのでそれまでは油断できそうにありません。


「何のことでしょうか?」

「なんにせよ、よく頑張った」


 何様でしょうか、不愉快です。

 ですが、私はそれを顔に出さずに、嬉しそうな顔で彼に笑顔を向けます。


「会長……ありがとうございます」


 そう言って私は置かれている席に座る。

 

「明美ちゃん、お疲れ様」


 下の名前で呼んできました。

 不愉快です。


「ありがとうございます、副会長さん」

「怜雄でいいよ、皆そう呼んでるし」


 そんなことすれば、女子から標的にされるのにこれだから女っ垂らしは……不愉快です。

 私は笑顔で返し、入学式が終わるまでこの苦痛を受け続けるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る