第3話 ワンコがフリフリ ・・・
どうやら私の母は犬と話ができるらしい。
ベランダで飼われている近所のとあるワンコ。
スマートな柴犬という感じだが、いつも高い所から通行人を見下げながらキャンコラ吠えついてしょうがない。
しかし、母が通るときだけは、黙る。
何か言いたそうに、じっと母が通り過ぎるのを見下ろしているだけなのだ。
母は、ワンコを見上げて声をかける。
「いい天気やね」
もちろん、声に出さずに。
犬に挨拶なんて、変に思われる。
・・・ちょっとぉ、もうこの服脱ぎたいねんけど。
いっつも散歩のたんびに着せられんのよぉ。
自前の毛皮あんのに、重ね着いらんっちゅうねん。
せいぜい、逃げまくるぐらいか。
けど、ヨークシャーテリアの哀しさよ、一応のカワイコフリフリはしとかんと今後に差しつかえるしなあ、狭いリビングじゃあ逃げ場もないし。
あーもう、はよ帰りたい。
そらな、素体で行かしてくれんねやったら、何ぼでも喜んで行くで。
あっと・・・リード引っ張られた。
・・・何や、近所のおばはんと立ち話かいな。
・・・・
人間の言うことはようわからんけど、いっつも誰かと出おたら止められるんや。
・・・・
まだか? はよしてぇなあ・・・
試しにリード引っ張ってみたろ、
わ、引き戻された。
やっぱ、あかんか。
・・・・
やっと終わったか。
はいはい、行きますよ。
・・・・
わ、後ろから誰か来た。
ああ、たまに見る親子連れか。
どーでもえーけど、二人ともおばはんやな。
「また犬と話する」
私は、歩きながら何度もこっちを振り返り、母を見ようとするワンコを見ながら母に言った。
「散歩してるの? いいねえ」
母は面白がって、ワンコに向かって言った。声に出して。
ワンコは尚も振り返る。
別に私たちと知り合いでもない飼い主は、無愛想にリードを引っ張った。
ズズズ・・・
ワンコは2、3歩、立ち止まったままリードに引きずられた。
そして、そのまま向き直ると、ヒラヒラフリルのピンクのドレスと頭のリボンをフリフリしながら、ひょこひょこと進んで行った。
もう、振り返らなかった。
・・・あかんわ、こいつ、わかってへんわ。
─── END ───
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