第2話 所有物は追憶の彼方へ ・・・

ここはとあるショッピングモールの落とし物係。

今日も買い物客が失念、あるいは放置した残留品が大量に届く。

それを記録し、落とし主が現れれば返還し、

残されたものは法定期間だけ保管するのが仕事。


そんな残留物の中に、一冊の文庫本があった。

中をめくる。

別に読みたいわけではない。記名もしくは落とし主につながる情報の記載はないか調べるためである。

・・・文庫本に個人情報書き込むヤツもないか。

タイトルからミステリー小説らしい。


PCに必要事項を入力し、保管場所に置く。

落とし主は問い合わせてくるだろうか?


いや・・・

経験上、そういう読みかけの文庫本なんて、取りにきたためしがない。

雑多な拾得物の中に埋もれ、保管期限の三ヶ月が過ぎると、ゴミとなって廃棄処分にされる。

落とし主は探すのをあきらめるのか・・・?


一冊の文庫本・・・。

やがて落とし主はその本を持っていたことさえ忘れるのか、

それとも、新しく買い直すのか。

もちろん、雑多な中の一つとして、係の記憶からは次の日には消えてしまう。

まして中を読みもしない本など、気に留めようもない。


今日も保管期限切れ物品の処分のため、倉庫へと向かう。

一度も袖を通されることなく値札のついたまま、お店の紙袋に包まれたままの衣類や、傘、雑貨、おもちゃ、おしめ、トイレットペーパー・・・

ありとあらゆるものがここには眠っている。

そして発見された日からわずか三ヶ月間、命を長らえたあと、永遠の眠りにつく。


毎日の生活から出るゴミや、

都市や工場などから出る産業廃棄物、

それに加えて、人々から置いてきぼりを食らい、手もとに帰ることもできなかったものたちにとっての、思いもかけない一方的なゴミ化の宣告が積み重なる。


なぜ、人は落とし物や忘れ物をするのだろう・・・?

その物と結ぶえにしが薄かったからか。

謎は深まるばかりである。

そして、時に自分もその謎に取り込まれる。


                           ─── END ───

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