転入1-3


翌朝、雀の囀りで目が覚める。目の前の天井がいつもと違うことに違和感を覚えたけれど、ああそうかと一人納得した。昨日から寄宿して今日から学校に通うんだった。


「ごきげんよう、由紀。よく眠れて?」

「ごきげんよう、お姉様。ぐっすりでした」


この挨拶には慣れないし、髪を梳くお姉さまの後ろ姿に今もなおドギマギしてしまう。いけないな、早く慣れないと、と思いベッドから起き上がる。顔を洗い歯を磨いて、ノリの効いた制服に袖を通す。それだけのことなのに、お姉様と同じ服を着ていると思うと自然と背筋が伸びた。


「朝ごはんは何になさるの?」

「トーストとスープのセットにしようかと。お姉様は?」

「そうね、私は焼き鮭のプレートにしようかしら」


昨日と同じ食堂でそう話す私とお姉様。周りの目はまだ好奇に晒されたままで、少しばかり居心地が悪い。でも、そんなこと言ってお姉様を困らせてはいけないよね。

 昨日と同じ場所にトレイを置いて、食事を始める。狐色に染まったぱんはサクッと音を立てて香ばしい小麦の香りを感じる。真っ赤な苺のジャムを塗って再び口へ運べば、程よい砂糖の甘さと苺の甘酸っぱさが口に広がる。今日のスープはどうやらミネストローネで、トマトの甘さがじんわりと下に広がりほっと息をつく味だ。今日もご飯が美味しい。


「あなた」

「はい?」

「いつも美味しそうにご飯を食べるわね。ほら、口端にジャムがついていてよ」

「す、すみませんお姉様」


ナプキンで口元を拭ってくれるお姉様は、今日も笑わない。と言うか、この人に表情というものが備わっているのかどうかが疑問だ。少しばかりぬるくなったミネストローネを口に運び、ちらりとお姉様の方を覗き見る。

 長く目の形に沿って生えたまつ毛が頬に影を落とし、焼き鮭を口へ運ぶ仕草はまさに絵画のようであった。思わずその所作に見惚れてしまう。


「如何なさって?」

「あっいや、なんでもないです」

「そう?何かわからないことがあったら聞いてちょうだい。その為の私なのだから」

「は、はい」


 淡々と伝えるお姉様の言葉とは裏腹に、少しばかりこの学園生活が不安になってきてしまう。だって、お姉さまは随分とな様だしその同室となれば昨日といい今日といい好奇の目に晒されてしまうのだ。一時的ならまだいいかも知れないが、ここは学校。四六時中その目に晒されることすら考えてしまうと背筋がゾッとしてしまう。


「さあ、学校へ参りましょうか」

「へ、あ……はい」

「お昼には必要な教室を案内するから、時間を空けておいてくださる?」

「わかりました」

「まずは職員室へ案内するわね」

「はい」


 針金の様に細い手足を器用に動かして食堂を出るお姉様の後をついていく。今日から学園の生活を思うと不安の方が少しばかり大きいが、期待だって少なからずある。それを胸に、学園へと足を運んだ。

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