安城さんの仕事風景

 小うるさい草刈り機の音が鳴り響く。


「集めた葉っぱ、どこに置けばいいですか?」

「隅の方に寄せておいてください」


 家の周辺に生えた草を機械で刈り取り、その葉っぱを六つ子という草を集める農具で、隅に集めていく。


 こうやって作業をするときは、黒いワンピースではなく、いつものシャツにズボンの姿だった。


 正直、安城さんには、エッチなイメージしかなかった。

 けど、仕事している風景を見ると、本当に仕事ができる人なんだな、と実感してしまう。


 家の周りが終わって、一段落すると機械のエンジンを切って、ダルそうに肩からベルトを下ろした。


「大変ですね」

「何がでしょう?」

「草刈りとか。この後、家の掃除もやるみたいだし」


 安城さんのルーティンを考えると、実はボクと会っていない時には、動きっぱなしであることが多い。


 草は時期があるだろうけど、掃除は毎日やっている。

 食事を作るのだって、毎日。


 ボクだったら、すぐに音を上げてしまいそうだった。


「あー、……接客の仕事よりはマシですよ?」

「そうなの?」

「はい。接客は、ダルいです。あ、失礼。嫌悪感しか湧きません」


 ダルいから、バージョンアップした言葉が出てきた。


「そういえば、安城さんって、この仕事をやる前は何をしていたの?」

「バーで働いてました。あとは、……風俗を少し。あ、でも、本番はないですよ。口です」

「……そう、なんだ」


 口の前で輪っかを作り、舌を出す安城さん。


「やらなくていいなら、ランは何もしません。今となっては、レン様を愛しますが。ランはそういう人間です」


 額の汗をタオルで拭い、麦わら帽子を被りなおす。

 見上げていると、柔らかい風が吹いて、汗の臭いがほのかに運ばれてくる。


 本当に黙っていると、綺麗なお姉さんだった。

 風俗の仕事をやっていたとか。そういう話なんて気にならない。

 それくらい、田舎風景が様になる美貌である。


「あと、数日で体育祭ですね」

「うん」

「応援してますよ」


 安城さんは太陽の光を遮り、柔らかい笑みを浮かべた。

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