日陰で戯れる

肉食

 当初の目的は、お互いを知るだった。

 恥ずかしながら、その目的をいまさら思い出したボクは、とりあえず観察を行っていた。


「あと、もうちょいで体育祭か」

「リレーの段取りは良い感じじゃん」


 クラスがわいわい盛り上がる中、ボクは愛想笑いを浮かべて、輪の外側でみんなを眺めている。


 その中で、カリンさんはやはり輝いていた。

 ボクからすれば、光を浴びている人間が、わざわざ日陰へ遊びに来たというだけのこと。

 眩しくて、普段のカリンさんを見ていると、情けない自分と比較してしまい、劣等感に支配されてしまう。


「堤。今、部活休みだろ」


 男子がカリンさんに話しかけていた。

 今、部活は体育祭間近ということで、休みだっていうのをカリンさんから聞いた気がする。


 チャットで話していて、近いうちに、また遊びに行こうと話した。


「今日の放課後さ。カラオケ行かね?」

「ごめ~ん。パスで。また今度ね」

「ちぇっ」


 などと、話していた。

 その時、輪の中からカリンさんが、ボクの方に視線を送る。


「えへへ」


 舌を出して、イタズラっぽく笑った。


 気を遣ってくれたんだ。

 そうだよ。

 カリンさんは、やっぱり優しいし、明るくて、素敵な子だ。


 あの時、階段の踊り場で胸がざわついたのは、気のせいなんだ。


 ボクは笑みを返し、頷いた。


 ――カリンさんは、一瞬だけボクを見て指を噛んだ。


 たったそれだけなのだが、妙に色っぽいというか。

 舐め回すような視線に変わり、獲物を狙う肉食獣に化けた気がした。


「っ!?」


 カリンさんの視線が当たった所が、チリチリと肌を刺激してくる。

 見られているだけで、胸の中どころではなく、体全体が目に支配されたような錯覚を起こす。


「部活対抗リレーまであるでしょ? ダルいよね。つか、リレーばっかよ?」


 他の女子に話しかけられ、カリンさんは花開くような笑顔で頷いた。


 非情に申し訳ないが、ボクは股間を押さえるだけで精いっぱいだった。

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