小麦マーメイド

不器用なおねえちゃん

 朝、起きるとさっそくお姉ちゃん達の様子が変だった。


「ほら、脱いで。ばんざーい」


 お姉ちゃんが服を脱がし、シャツを着せてくる。


「ず、ズボンはいいってば」

「いいから、足上げなさいよ」

「えぇ……」

「ほら!」


 仕方なく、言われた通りにする。

 ズボンに両足を通し、チャックを閉めた時だった。


 間に、アソコが挟まり、跳び上がった。


「いた!」

「ご、ごめん」


 珍しく、お姉ちゃんが謝る。

 慌てた様子でチャックを下ろし、挟んだ膨らみを優しく撫でまわす。


「ふーっ、ふーっ」


 お姉ちゃんの手の平は、たぶんクリームなどを塗っていて、手入れが行き届いている。そのため、非常にスベスベとした。


「……痛い?」

「痛いけど、大丈夫」


 不安げなお姉ちゃんの顔をはっきりと見たのは、初めてかもしれない。

 こんなに弱弱しい表情をされると、普段のギャップとのギャップのせいで、無性にドキドキしてしまう。


「え、腫れてるわよ!」

「それは、その……」

「ふーっ、ふーっ!」


 どうして、息を吹きかけるんだろう。

 手は止めてくれず、いけないと分かっていながら、劣情を催してしまう。


「朝の生理現象だから。うん。大丈夫」

「……あぁ。そ、そう」


 お姉ちゃんはやっと気づいたようだ。

 でも、お世話は止めてくれない。


 膨らみを摘まみ、奥に押し込むと、今度は引っかからないようチャックを閉めてくれた。


「これで、よし。さ、朝食にするわよ」

「お姉ちゃん」

「なによ」

「どうして、こんな事するの?」


 お姉ちゃんが髪を払い、こう言った。


「甘えさせてあげてるの。好きでしょう?」


 ようするに、母代わりのつもりだった。


 *


 学校に行く途中、安城さんが頭を撫でながら聞いてくる。


「レン様は、ズボンとスカート。どちらがお好みですか?」

「どっちも良いと思うけど。どうして?」

「イメチェンをしようかと」


 安城さんが微笑む。

 何かしら、服装で悩んでいるのかもしれない。

 でも、ボクはファッションとか疎いので、どう答えようか迷う。


 堤さんの事が頭に浮かんだボクは、「スカ……」と口を開いた。


「スカートですね。かしこまりました」


 食い気味に納得をする。

 何を察したのか、安城さんは微笑みが消えていた。

 表情を殺したと言っていい。

 眉間には小さな皺が寄っていて、「スカートは嫌だったのかな」と、焦ってしまう。


「あ、ズボンでも、全然……」

「スカートですね。了解です」


 聞いてくれなかった。

 何だろう。

 ソワソワしていると、スマホが鳴った。


 取り出して確認すると、堤さんだ。


「おはよう。今日騎馬戦の練習付き合ってあげるよ。いいえ。お断りします。やめてください」

「ちょ、ちょちょ!」


 途中まで読み上げた安城さんは、強引にスマホを奪い、勝手に返信を打つ。

 焦ったボクはスマホを奪い返そうとする。


「運転中ですよ?」

「だ、だったら、返してよ」

「……レン様はここにいてください」


 安城さんから脇の下に顔を固定される。

 そのまま、何事もなかったかのように、運転を続けていた。


「よし、よし」


 あやすように、鼻を指でぷにぷに押される。

 不覚にも、母にからかわれている気分になり、力が抜けてしまう。


「あ、でも、スマホ返して」

「どうぞ」


 すでにチャットは送られ、既読済みだった。


「ああああ!」


 慌てて、謝罪と弁解を打ち込むハメになった。

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