おねえちゃんの協定

 忘れないと。

 女の子の、大事なところ。


 同じ言葉を脳内で繰り返す。

 頭がボーっとする中、ボクはお姉ちゃん達に運ばれ、ベッドで寝ていた。


 二人とも、それぞれボクの手を握り、安心させてくれる。


「キスマーク送ってきてますね」

「泥棒猫!」


 二人が何やら話していた。

 普通に会話するくらいには、仲良くなってくれたのだろうか。


「しかし、……困りましたね」

「ええ。この娘をどうにかしないと」

「メス豚の事はもちろんですが。それよりも、致命的な事が一つ」

「……なによ」

「このままでは、お互いに恋路を達成できませんね」

「えっ!? ば、バカ言わないで。あたしがレンを好きなのではなくて、あたしを好きなの! だから、思いに応えてあげてるの」


 片方の手が強く握られる。


「あら。嫌いなんですか?」

「……好きよ」

「お子様ですね」

「あなたね!」


 片方の手がさらに強く握られる。

 もう片方の手には、爪が立てられていた。


「単刀直入に言いますね。ラン達は、レン様と一夜を共に過ごすことはできないでしょう。


 息を呑む音が聞こえた。


「……どうしてよ」

「分かりませんか?」

「高校生にもなれば、親の目を盗んで乳繰り合うのは普通でしょうに。で、ピルや避妊具の事まで、学校で習う時代よ。時代遅れの世間様なんて、初めから相手にしてないわ」


 安城さんが盛大にため息を吐いた。


「レン様は、繊細なんです」

「そうかしら?」

「乳牛の汚い穴を見て、鼻血を噴き出すほどですよ? 女性に対して免疫がなさすぎます」

「……そろそろ、本気で殴るわよ」

「裸になる度に、鼻血を噴き出していては先に進めません」

「じゃあ、どうするつもり?」

「こうしましょう」


 安城さんは提案する。


「レン様が18になるまで、。ランだけではなく、ケイ様も」

「どうして、18歳なのよ」

「二年間で、レン様に耐性をつけさせます。ようは、調教です」


 意識が朦朧もうろうとしているのに、寒気がしてきた。


「実践的な性教育と言ってもいいでしょう。教育は、家庭で行うものですから。学校で行うものではありません」

「へえ。面白そうじゃない」


 嫌な予感がする。

 というか、お姉ちゃんの悪だくみが、手もみで伝わってくる。


「でも、一つ気になる事があるわ」

「何でしょう?」

求めてきた場合は?」


 しばらくの間、沈黙があった。


 遅れて、安城さんは答える。


「全面的に許可します。あ、でも、う~ん」

「煮え切らないわね」

「……三回勝負にしませんか?」

「勝負?」

「いえ、こちらの話です。そうですね。三回。三回、レン様から求めてきた場合は、愛に応えましょう。ランは恨みますが、ケイ様は恨みっこなしでお願いします」

「……あなたね。あたしの胸を睨みながら言ってる時点で、すでに恨んでるじゃない」

「気のせいです。それより、三回に達するまでは、絶対に我慢してください」

「望むところよ」


 おかしな話になってきた。

 調子が戻ってきたのに、目を開けられない。


「……セックスはダメ。うん、うん。てことは……」


 お姉ちゃんが何かを考えていた。


「レン様に、ですので。目的を忘れないように」


 釘を刺されたお姉ちゃんは、「あなたこそ」と食って掛かった。

 ボクは背筋が寒くなるやら落ち着かないやらで、ため息をグッと堪えた。

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