仕返し

 チャットで堤さんと連絡を取り合っていた頃だった。


 バタンっ。


 もの凄い音が風呂場の方から聞こえた。


「え、何だろう」


 怒っている、というのは扉の閉め方でわかった。

 ベッドから起き上がり、扉に近づく。

 同時に、廊下の方から力強く床を踏みしめる足音が聞こえた。


 ドンドンドン。


 激しいノックの音。


 怖くなったボクは、そっと扉を開けて、隙間から向かいの部屋を覗く。

 目に飛び込んできたのは、大きなお尻だった。

 白くて、肉付きの良い尻は、隠すものが何もなく、丸見え。


 視線を持ち上げると、全裸のお姉ちゃんがいた。

 腰に手を当て、部屋から出てきた安城さんに声を張り上げる。


「どういう神経してんのよ!」


 扉の向こうからは、激しい音楽の音が聞こえてくる。

 ロックだろうか。

 ドラムのリズムが特徴的なので、大体の予想がつく。


 部屋から出てきた安城さんは、薄いパジャマを着ていた。

 お腹が出る短いキャミに、黒いシースルーの上着。

 下は薄い短パンという格好だった。


「何でしょう?」

「音楽止めなさい。うるさくて話ができないわ」


 ボーカルは女の人で、洋楽。

 ノリの良い曲なので、何て曲なんだろうと、つい気になってしまう。


「お断りします」

「くっ、……この」


 気だるげな態度で、キッパリと断るのだ。


「用がないなら、もういいですか?」

「待ちなさい」


 閉めようとした扉を蹴り、乱暴に割り込む。


「あの、びしょ濡れのまま入ってこないでください」

「誰のせいだと思ってるの?」

「さあ」

「あなた、浴槽に何を入れたの?」

「ブロックアイスですが」

「~~~~~~~ッッ!」


 声にならない怒鳴り声を上げて、お姉ちゃんが掴みかかった。

 まずい。

 また、喧嘩だ。


 勇気を振り絞って、ボクは部屋を飛び出した。


「お、お姉ちゃん! ……あ」


 安城さんの部屋は、意外な趣味だった。


 品のある小さな館の一室とは思えない内装。

 プレイヤーから流れる音楽は、大きなステレオから漏れており、重低音が内臓に響いてくる。


 今まで聞こえてこなかったのは、防音のためだろう。

 安城さんの部屋だけでなく、他の部屋にも防音加工は施されているはず。


 何より驚いたのは、壁のがいっぱい貼られていた。


 他には、どこで撮ったのか。

 堤さんの写真まで貼られていて、ボクのと違い、が刺さっていた。


 その部屋の中で、二人は床に倒れている。

 お姉ちゃんが上から押さえつける体勢で、力負けした安城さんは、悔しげにムッとしていた。


「れ、レン!」


 お姉ちゃんは、ボクの方に尻を突き出す体勢だ。

 当然、お尻の穴まで見えているし、大事な所だって丸見え。


 ボクは数秒ほど、開いた口が塞がらず、薄暗い部屋でも分かるくらい、顔が真っ赤になったお姉ちゃんと見つめ合う。


「部屋に、も、戻りなさいよ」

「え、う、……うん」

「早く!」

「でも、……喧嘩、喧嘩は、ダメだと……」


 もう、自分でも何を言っているのか、分からない。

 初めて、女の人のアソコを見てしまった。

 その衝撃は計り知れないものだった。


「クスッ」


 押さえつけられた手が解放され、安城さんは上体を起こす。

 何のつもりか、お姉ちゃんに前から抱き着く体勢となり、大きなお尻を鷲掴みにした。


「レン様。汚い尻をどうぞ。ご堪能ください」


 クスクスと笑い、両側に開いていく。


「うぅ、……くぅ」


 言葉にはできないが、ボクは目が釘付けになった。

 股間を押さえて、その場に座り込んでしまう。


「お、お姉ちゃん」

「ちょ、見ないで! 何するのよ!」


 ベチンっ。


 ボクと違い、本気のビンタだった。


「レン。命令よ。今すぐ忘れなさい!」


 染み一つない、綺麗な果実だった。

 つぼみを開くと、そこには果肉があった。

 虫食いのない果肉は、見えない所にまで手入れが行き届いており、素直に美しいと感じる。


「レン?」


 ボクは、初めて女を見た。


「っはぁ、はぁ、……あれ?」


 床に、血が滴る。

 頭がボーっとしていた。


「ちょっと、鼻血出てるじゃない!」


 頭に血が上り過ぎた。


「安城。ティッシュ!」

「どうぞ」


 適当な量を摘まんで、お姉ちゃんがティッシュを鼻に押し当ててくる。

 しかし、ボクの目の前には、またもや別の果実がぶら下がっていた。

 白くて大きい果実には、雨に打たれたように水滴が付着していた。

 肌は光沢を帯びて、濃い桃色の突起物が目に飛び込んでくる。


「お姉ちゃ……、ごめ……」

「え?」


 ボクは頭が真っ白になった。

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