吐き出す温もり

 暖房をつけた部屋でボクは布団に包まっていた。

 隣には服を脱いだ安城さんが寝そべっている。


「先ほどは、カッとなってしまい、申し訳ありませんでした」


 全身を使って抱きしめられ、ボクは温もりに顔を埋める。

 柔らかい胸に顔を埋めると、安城さんの匂いがした。


「安城さん、……ボク」

「レン様は何も悪くありませんよ」


 さっきのが、まるで夢のようだった。

 打って変わって、いつもの安城さんに戻り、心から安堵あんどする。


「何かしてほしい事はありますか?」

「……寒い」

「エアコンの温度を上げますね」


 暖房のスイッチを弄り、再び安城さんに頭を抱きしめられる。

 柔らかい胸の肉に包まれて、頭を撫でられる。


「よし、よし」


 安城さんは、以前より優しくなった。

 甘えれば、甘えるほど喜び、全部応えてくれる。


 さっき話された内容のほとんどが思い出せなかった。

 それくらい、ボクは安心していた。


「……まだ、怒ってる?」

「怒っていませんよ」

「ほんと?」

「ええ」


 耳には息を吹きかけられ、手でふたをされる。

 すると、温かさが染み込んできた。


 怖い思いをした分、とろけるような優しさの安城さんに寄り添ってしまう。


 きっと、今のボクはおかしいんだろうけど。

 安城さんが喜んでくれるから、もっと甘えたくなった。


「まだ、寒い」

「分かりました。では、ランが温めます」


 首筋に顔を近づけ、「はぁ」と息が掛けられた。

 息の掛かった場所は、手で擦られて、熱を取り戻していく。


 次は胸に息を掛けられた。


「はぁ……」

「うっ」

「ふふっ。くすぐったいですか?」

「う、うん」

「では。……はぁぁ……」


 手でメガホンを作り、心臓の位置に息を吐く。

 それから円を描くようにして、温めてくれる。


 そんな調子で、体の色々なところを温めてくれた。


 上半身を温め終えると、次は顔が布団の中に入っていく。


「あ、安城さん。そこは……」

「はぁぁ……っ」


 敏感な所に当たり、体が跳ねる。

 布団の中に入ったので、姿は見えない。

 でも、恥ずかしかった。


「大事なところですので。温めないと」


 喋ると、細かい吐息が敏感な所に当たる。


「も、もう、いいよ」


 すると、手を握られた。

 怖い握り方じゃない。


 指と指を絡ませるようにして、握られていく。


「はぁ……っ。あら」

「う、……安城さん」

「ふふ。あはは。レン様は本当に、可愛らしい」


 その後は、ずっと敏感な場所に温かい吐息が当たった。

 恥ずかしかったけど、丁寧に温めてくれたおかげで、凍えた体が緩んでくれた。


 同時に、ボクは安城さんのとりこになりそうで、怖かった。

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