放課後の彼女

「レンくんっ」


 背中を叩かれて起きた。

 隣には堤さんが立っていた。


「どうしたの? 疲れた顔して」

「うん。ちょっと」

「ん~? 悩み事?」


 放課後になって、安城さんが迎えに来るまでの間、ボクは教室で眠ってしまっていた。


 ボクと違って、お姉ちゃんはバスで通っているらしく、帰りは別々だ。

 実はバスでの行き来をお姉ちゃんに提案されたけど、シズカおばさんが一蹴。


 色々と危惧して、お姉ちゃんと別々に登下校させることにしたんだろう。


 安城さん曰く、「給料が上がるので、いいですよ」とのこと。

 気にしてないなら、こっちとしても助かる。


 考え事をしていると、堤さんが顔を覗き込んできた。

 クリクリとした丸い目が、じ~っと見つめてきて、照れくさくなったボクは顔を逸らす。


「な、なに?」

「んー、レンくんってさ」


 頬杖を突いて、何気ない調子で言う。


「女の子みたいだよねぇ」

「そうかな?」

「中学の時、モテたでしょ」

「全然」


 隅っこで、独りぼっちでしたなんて言えるわけがない。


「可愛いのに。みんな見る目ないね。あはは」


 堤さんとの時間は好きだ。

 気が休まるし、話してると楽しい。


「ね、ね。チャットのID教えてよ。ウチら、まだ交換してないじゃん」

「あー、うん」


 スマホは持ってるけど、チャットは使ったことがない。

 知ったかぶるのは止めて、正直に話した。


「実は、その、……チャットって、使った事がなくて」

「何時代の人よぉ」

「ご、ごめん」

「いいよん。教えたげる。まず、アプリ入ってるか確認して」


 ボクのスマホを覗き込んで、堤さんがアプリのインストールから教えてくれた。


 アプリ名さえ教えてくれたら、インストールはできるけど、一生懸命に教えてくれるので、何も言わなかった。

 自然と顔の距離が近くなってくる。


 ふわりと、シャンプーの香りが鼻孔びこうをくすぐる。


「――で、ID名を決めて~。ぇ? お~い。聞いてる?」

「あ、うん」


 教えられた通りにID名を決めて、使う準備を進めていく。

 ふと、視線を感じて顔を上げる。


「なに?」


 堤さんが、またじ~っとボクを見ていた。


「やっぱ、可愛いね。レンくんって」


 反応に困るけど、悪い気はしない。

 クラスの女子とこうやって、仲良くなれることが本当に嬉しかった。

 青春という概念をボクは知らなかったので、それをようやく体感できたことを実感している。


 ボクが思わず笑うと、堤さんは「いひっ」と笑った。

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