【ご主人様】はやめてぇぇ!!
天然がもたらしたプロポーズまがいの言葉に私が心の中で悶えていると「あぁ、ついたようです」と、ラゼルディア騎士団長が窓の外を見て言った。
私もつられて彼の視線の先を見る──と、そこにはなんと我が家の何倍も大きなお屋敷と庭がドンッと構えているではないか……!!
「テトが先に魔法伝達で、屋敷の者たちには事情を説明しています。うちは極端に使用人が少ないのですが、彼らはとても口が硬いので、外部に漏れることはありません。安心してくつろいでください」
表情を変えることなくそう言って私の手を取ると、ラゼルディア騎士団長は私をエスコートするように馬車から下ろした。
流れるようなその動作に、再び私の心が跳ね上がる。
「おかえりないませ」
真っ白の大きな玄関扉を開けると、ホールで執事然りといった風貌の老紳士が、くしゃりと目尻に皺を寄せて微笑み迎えてくれた。
「ただいま。彼女が連絡したフェリシア・グラスバート伯爵令嬢だ。よろしく頼む」
「ふぇ、フェリシア・グラスバートです。これからしばらくご厄介になります。よろしくお願いします」
緊張した面持ちで私が挨拶すると、老紳士は目尻の皺をさらに深くして胸に手を当てお辞儀をした。
「執事のメレルです。ロイ様の補佐もさせていただいております。こちらこそ、よろしくお願いいたします、お嬢様」
すごいわ。完璧なお辞儀、完璧な挨拶、そしてこのどっしりと構えた落ち着いた雰囲気。
どれをとっても一流の執事だわ……!!
さすがラゼルディア公爵家……!!
「そしてこっちが侍女のグレタです」
ラゼルディア騎士団長がメレルさんの隣で微笑む40代くらいの女性に目を向ける。
「グレタと申します。よろしくお願いいたします、フェリシア様」
ふんわりと微笑んで挨拶をしてくれたグレタさんに、私もにっこりと微笑んで一礼し「よろしくお願いします」と言葉を返す。
グレタさんも優しそうな方でよかった。
他に出迎えの使用人は見当たらないけれど、時間も時間だし、もう休んでいるのかしら?
「さぁさ、もう夜も遅いですし、どうぞ部屋でおくつろぎください」
穏やかに微笑むメレルさんとグレタさんに案内されるままに、私はラゼルディア騎士団長と目の前の大きな屋敷の中へと入っていった。
「──こちらです」
案内されたお部屋はとても広々としていて、真ん中の大きな天蓋付きのベッドが一台、ドンッと存在感を示している。
この大きさのベッド、どう見ても一人用じゃないわよね?
「あの……ここって──」
私がラゼルディア騎士団長を見上げると、彼は罰が悪そうに私から視線を逸らして「あぁ……ふ、夫婦の……寝室、です」と答えた。
「ふ!?」
夫婦……!!
「一応、公爵夫妻の寝室として作っていますが、ご存知の通り私は独り身なので、ずっと昔から使用している自室を使っていました。が……その……この状態なので……。……ご容赦ください」
頬を赤く染めながらも申し訳なさそうに言うラゼルディア騎士団長に、私はなけなしの気丈さを取り持つと「お、お気遣いなく」と返した。
そうよね、離れることができないんだし、一緒のベッドで寝ることに……なるのよね。……眠れるのかしら?
「あの、フェリシア様。見えない鎖で繋がれているとテト様からお聞きしているのですが、ドレスのお着替えは……いかがなさいましょう?」
聞きづらそうにグレタさんが尋ねる。
「ぁ……」
首輪と手首のベルトを鎖で繋がれた私たち。
衣類は通り抜けると聞いているけれど、ラゼルディア騎士団長の近くでの着替えで恥ずかしさMAXな様を第三者に見られながらとか無理。恥ずか死ぬ。
「えっと、なんとか……してみるので、大丈夫ですよ」
私が着替えの手伝いをやんわりと断ると、「ですよねぇ」と苦笑いをこぼすグレタさん。私の羞恥心、わかっていただけたようで何よりだわ。
「では、何かありましたら、遠慮なく呼びつけてくださいませ。ロイ様、しっかりなさってくださいね? く・れ・ぐ・れ・も!! 【ご主人様】に粗相の無いように!!」
そうメレルさんがラゼルディア騎士団長に向かって念を押してから、お二人は部屋を後にした。
どうでもいいけど【ご主人様】はやめてぇぇっ!!
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