必ず、大切にしてみせます
私たちは今、二人隣り合って馬車に揺られている。
向かいの席に座ると鎖の長さがギリギリになってしまって、呪いの首輪が付いたラゼルディア騎士団長の首が引っ張られてしまうから、彼の隣を失敬しているのだけれど……。
き、緊張する……!!
さっきまで横抱きのまま抱き抱えられていたけれど、慣れられるもんじゃない!!
私の右隣が光り輝いてる……!!
私なんぞがこんな素敵な方の隣にいて良いんだろうか……。
あ、でもそういえば、前にラゼルディア騎士団長には王女との婚約の話が出てきているとかなんとか聞いたことがある。この状況、かなりまずいんじゃ……?
「あ、あの、こうなった以上仕方ないとは思うんですが、ラゼルディア騎士団長、婚約の話とか──」
「ないです」
それとなく聞いてみると、若干言葉を被せ気味に否定されてしまった。男色の噂があるほど女性っ気がないことは知っていたけれど……、あの婚約云々の話はデマだったのね。よかった。
……ん? よかった?
不意に浮き上がった自分の心の声に首を傾げていると、今度はラゼルディア騎士団長が私に向かって口を開く。
「あなたこそ、確か10年前から婚約していたはずですが……お相手は大丈夫ですか?」
「あ……えっと……、解消、されました。今朝」
「……は?」
私の言葉にあっけに取られたようにぽかんとした表情を浮かべるラゼルディア騎士団長。どうやら彼の方にまでは噂話は広まっていなかったようだ。
ていうか、なんで10年前から、なんて詳しいこと知ってるのかしら?
まぁいいわ。これからしばらくお世話になるんだし、話しておきましょう。
私は今朝の出来事を全てラゼルディア騎士団長に話した。
卒業パーティ前に婚約者が、結婚後に私たちが使う予定の夫婦の部屋で、私の友人だったはずの浮気相手と全裸で絡みあっていたところに遭遇してしまったこと。
そのまま婚約破棄を宣言され、父母立会いの話し合いの末、相手有責の婚約解消をすることで解決したこと。
だけど卒業パーティに来てみれば、いつの間にか私が【真実の愛】の間に入り込んだ悪女みたいになっていたこと。
嫌気がさしてパーティから抜け出した直後、あの呪いの首輪を拾い、ラゼルディア騎士団長に会ったということ。
話し終えてゆっくりと顔を上げあらためてラゼルディア騎士団長のお顔を見ると、彼はそのとんでもなく美しいお顔を歪め眉間に皺を携えて、虚空を睨みつけていた。
「あのクズが……!!」
低く呟くラゼルディア騎士団長。怒りの声ですら美声だ。
「あ、いえ、失礼。つい。あまりにもあなたに対して不誠実な話で……」
すぐに我に返って申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べる。その落差がなんだかとても面白く感じて、私はふふっと笑った。
私のために怒ってくれたのよね、きっと。
こんな、二度しか話したことのないただの伯爵家の娘にもお心を移してくださるなんて、やっぱりラゼルディア騎士団長は素敵な方だわ。
「ラゼルディア騎士団長、こういうことになってしまって、騎士団長にはとっても申し訳ないのですけれど……、私は、奴のことや、周りから投げかけられた言葉を考えずにいられて助かったりしてますから、大丈夫ですよ」
あのまま一人でいたら、きっとずるずる考えてしまっていただろうから。
なんでもないように振る舞うフリは限界だった。だから逃げ出したんだもの、会場から。
私がそう言って笑みを向けると、ラゼルディア騎士団長は一瞬だけハッとしたように息をのんだ。
「っ……!! 必ず……、必ず大切にします」
そう言って私をその深いサファイア色の瞳で強く見つめたラゼルディア騎士団長に、私の鼓動がドクンと跳ねる。
ぷ、プロポーズみたい……!!
天然って恐ろしいわ……。
これからこの呪われた首輪の魔法が解けるまで、私たちは一緒に生活をする。
……私の心臓、もつかしら?
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