魔法の首輪、解除法は✖️✖️です


「くっ……だめか……」

 ラゼルディア騎士団長が二人の間に垂れ下がった鎖を手に取り、力任せに引っ張るも、鎖はびくともしない。

 天下のラゼルディア騎士団長の力でも壊れないだなんて、細いくせになんて頑丈な鎖なの?


「これは……魔法による呪いの一種、か?」

「魔法、ですか?」

「はい。──グラスバート伯爵令嬢、失礼」

 そう言うや否や、彼は突然私を横抱きにして抱き上げた──!!


「へ!?」

 私の顔のすぐそばにラゼルディア騎士団長の美しきご尊顔……!!

 わ、私、今、ラゼルディア騎士団長に……!?

 憧れの人からの突然の行動にキャパオーバーした私の頭は、もはやパニック状態。


「このまま、城内の宮廷魔術師の元へ向かいます。申し訳ありませんが、少しの間、耐えてください」

 言うや否や、私を抱えたまま、ラゼルディア騎士団長は素早くホールを横切り渡り廊下を抜け、細い階段を上り宮廷魔術師の部屋へと向かった。



 ──ガンッ!!

「テト!!」

 階段を上がってすぐの絵画の裏に出現した隠し階段を昇り、薄暗い廊下の突き当たり。

 私を抱きかかえたまま、ラゼルディア騎士団長が宮廷魔術師の部屋の扉を蹴り開けた──!!。

 意外とワイルドね……ラゼルディア騎士団長。


 それにしても……。

 汚っ!! 何この部屋!!

 あちこちに古びた用紙が散らばって、壁にはさまざまな魔法陣が描かれている。

 机の上にはスナック菓子の袋が散乱し、この部屋の主の生活が伺える。


「あれ、ロイじゃん、どうしたの? って……ブフッ!! 何その鎖と首輪!! ワンコ!? 女性っ気がないと思ったら、そういう趣味があったの!? 大型犬プレイやばっ!!」

 こちらを見るなり目に涙を滲ませながら大爆笑し始めたこの方は、テト・ラッタ・トゥ様。

 この国1番の魔術師で、宮廷魔術師をされている偉いお方だ。

 そしてこの汚部屋の主人でもある。


 一つにまとめられた燃えるような赤い髪に、ぱっちりとしたヤンチャなお目目がとてもキュートな23歳。

 ラゼルディア騎士団長と同い年にも関わらず彼の方が年下に見えるのは、そのテンションと人懐こい人柄のせいでもあるんだろう。

 ラゼルディア騎士団長はクールで大人なイメージだし。

 実際お会いするのは初めてだけれど、噂通り茶目っ気のあるお方なのね。


「笑い事ではない。彼女が拾った首輪を落とし物として受け取った直後、これが光を放ち、私と彼女が繋がってしまった。魔法がかけられていたことは明らかだ。お前の専門だろう。早くこれをどうにかしてくれ」


 少しだけ眉を顰めならも、至って冷静に事の経緯を簡潔に説明したラゼルディア騎士団長に、テト様は興味深そうに近寄ると、まじまじとラゼルディア騎士団長の首にはめられた首輪と鎖、それに私の手首のベルトへと順に視線を移していった。


「ふぅむ……。うん、確かに魔道具のようだね。それにこの魔力……身に覚えがある」

 少し考えてそう言うと、テト様は右手で宙に光の円を描き、その光る円の中へと自分の片手を突っ込んだ。

 そして何かを掴むと勢いよく引っ張り上げる──!!


「わぁぁぁっ!!」

 ドシンッ──!!


 声をあげて釣り上げられたのは、茶色い髪の10歳程の少年。

「ウィスベリル。君、これに見覚えは?」

 テト様が僅かに低い声で尋ねると、ウィスベリルと呼ばれた少年は私たちに視線を移し、びくりと肩を跳ねさせた。


「あ、あぁーっ!! こ、これ、僕がさっきどこかで落とした……!! 師匠に見せようとしていた試作品の魔道具です!!」

「試作品!?」

 思わず声をあげてしまう私を未だ抱きかかえたまま、ラゼルディア騎士団長が「解除法は?」と静かに尋ねる。

 するとウィスベリル様はまた肩をびくりと跳ね上がらせ、言いにくそうにゆっくりと口を開いた。


「そ、それが……解除法は……あるにはあるんですが……」

「はっきり言いなさい、ウィス」

 目は笑っていないけれどにこやかにテト様が続きを急かす。


「は、はい!! えっと……その、く、口付けで……」

 モゴモゴと小さな声ながらも、その言葉は私にも、そしてラゼルディア騎士団長にもはっきりと届いてしまった。


「く──!!」

「口付けぇぇぇぇぇええ!?」

 ラゼルディア騎士団長が言葉を失い、室内には私の声が響き渡った。


 口付けって……。

 き、キスよね?

 私と、ラゼルディア騎士団長が……?

 む、むり!!

 そんな、憧れのラゼルディア騎士団長と……き、キスなんて……!!

 しかも私たち、ちゃんと話をしたの今日で二度目よ!?

 一度目すらラゼルディア騎士団長が覚えているとは限らないし、そんな相手と……き、キス、ですって……!?


 チラリと未だ私を抱き抱え続けるらゼルディア騎士団長を見上げると、彼も私の事を見ていたようで、ほのかに顔を赤く染めた彼と視線がぶつかり合い、互いに視線を逸らす


「わ、私はともかく、彼女に申し訳ない。他に手は?」

 私はともかくって……え、ラゼルディア騎士団長は良いんですか!?

 相手私ですよ!?

「他は……今のところないです……」

「っ……テト、お前宮廷魔術師だろう。死ぬ気でどうにかしろ」


 無茶振り!!

 でも、いつも丁寧な口調のラゼルディア騎士団長がこんなに砕けて素を見せる相手だなんて、仲が良いのね。……ちょっと羨ましい。

 さっき衝撃的なシーンを見せられて婚約解消になったばかりなのに、私もゲンキンなものだ。


「まぁまぁ。解除方法調べてみるから、それまで二人はとりあえず一緒に暮らしててよ。騎士団の方には、こちらの都合でしばらく休むからって伝えておくからさ。幸いその首輪とベルトと鎖は、当事者と魔力の高い僕らにしか見えないように魔法がかかっているみたいだし、人前に行かないといけない場合でも、何でもないようにそっと寄り添ってればまずバレないだろうし」


 え……。

 二人で……暮らす!?

 私は再びラゼルディア騎士団長を見上げると、彼は少しだけ眉を顰めてじっくりと考えた後に、腕の中の私を見下ろして口を開いた。


「……仕方ない。グラスバート伯爵令嬢。この状態ですし、すみませんが、しばらくの間私の屋敷で私と共に生活していただけませんか? 伯爵家の方へは、これからテトと私で説明させていただくので……」

「えぇ!?」

 私が、ラゼルディア騎士団長と!?

 あぁでもこの状態じゃ離れられないし、仕方ない、のよね。


「わ、わかりました。えっと……よろしく、お願いします、ラゼルディア騎士団長……」

 小さく頭を下げると、ラゼルディア騎士団長はごくりと喉を鳴らしてから、「……っ、はい、こちらこそ……」と僅かに視線を逸らした。

 なぜ逸らす!?

 わ、私何か変なこと言っちゃったのかしら!?


 ラゼルディア騎士団長の様子にオロオロと慌てるもどうしたら良いかわからない状況の私を見て、心底楽しそうな笑い声が耳をついた。


「ははっ、初々しくていいねぇ!! 大型犬で大変だろうけど、ロイの飼育、頑張ってね【ご主人様】」

「テト……」


 婚約破棄されたその日、私はとっても美声でとても美形な大型犬を飼うことになりました──。


──後書き──


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