8 そのころ元夫の実家では……

「なんで?! 今までは子供の面倒見ててくれたじゃん!!」

「そんな余裕はないのよっ! あなた母親なんだから、しっかりしなさい!!」


 姉と母親の、ここ最近続いているいつもの言い合い。

 それを横目で見つつ、セドリックは冷えた惣菜を無理やり喉に詰め込んだ。


「友達と大通りのカフェに行く予定だったのに……お母さんは私が友達いなくなってもいいんだ? そういう母親なんだ? サイッテー!!」

「そうじゃないでしょ?! ああもう、なんでこんなワガママ娘に育ったの……?!」


 セドリックは触らぬ神に祟りなし、とばかりに逃げるように食卓を立つと、母親の金切り声が飛んでくる。


「セドちゃんっ! お皿はお台所に持って行ってちゃんと洗ってって何度頼めばいいの?!」


 ベルナはそんなこと一度も言わなかったけどな……と思いつつ、これ以上キンキン声を聞きたくなかったので、大人しく食べ終わった皿を流しに置いて石鹼をつける。

 父親はこのところ、顔を見ていない。

 この空気に堪えかねて、部屋に引きこもっているのだ。


「エルミー、遊んでばっかりいないで少しは家のことを手伝いなさい!!」

「わたし、働いてるもーん! 家のことはお母さんとベルナさんの仕事でしょ?!」

「そのベルナさんがいなくなったから困ってるんじゃない!!」

「じゃあ、追い出さなきゃ良かったじゃん! セドリックと離婚までさせてさ!」

「それはセドちゃんが勝手に決めた事よ!!」


 さすがにむっとして、セドリックは言い返す。


「母さんが言ったんだろ……」

「じゃあなに?! あの子が背負った借金を肩代わりしろっていうの?!」


 だめだこりゃ、とセドリックは諦めた。

 言っていることが矛盾だらけなのに気がついていない。

 こうなった母親には言葉は通じないのはよく知っていた。


(ベルナ……)


 彼は知らない。

 ベルナが、すでに彼の浮気を知っていることを。


(また、お前の料理が食べたいよ……)


 だから、思う。

 彼女はきっと、まだセドリックを愛していて。

 この家に戻ってきたがっている、と。


(早く、借金返して帰って来いよ……)


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