6 二人の部下がつきました
翌日、いつもの朝礼を終えた後。
婦長様に肩を叩かれて、食堂の片隅に連れていかれる。
「貴女に直下の部下を二人付けます」
そう言われて紹介されたのは、赤髪と黒髪のメイドさん。
昨日、婦長様の後ろで長斧と二丁拳銃を持っていた子たちだ。
「若いですがとても有能です。好きに使いなさい」
好きに使えって言われても、就職二週間で部下をもらっても正直、困る。
そもそもメイドの仕事はまだ手に余るほど抱えてないし、護衛のほうもいままで単独でどうにかしてきた面が強かったから……。
戸惑っていると、クリっとした赤茶の瞳が可愛らしい赤髪のメイドさんが元気に挨拶してくれる。
「はっじめましてっ! 自分、キュケルって言いまーすっ! ベルナ姐さんって呼んでもいいっすかっ?!」
ふわっとした赤髪が、ぴょんと跳ねた瞬間に揺れる。護衛班とは思えないぐらい明るくて可愛い子だ。
でも『姐さん』なんて呼ばれるほど偉い人間じゃないよ、私。
勢いに気圧されながら苦笑する。
「姐さんなんて柄じゃないから、普通にベルナでいいわよ?」
「それはダメっす。年上っすし、尊敬してるんで」
え、NG出るの? 選択肢なくない?
戸惑いが大きくなるけど、キュケルさんの陽気な雰囲気と押しの強さについ笑みがこぼれる。
「じゃあ、こっちはキュケルさん、でいいかしら?」
「そんな堅っ苦しい呼び方やめてくださいよーっ! 親友なんかはキュウって呼んだりしますんで、そっちでシクヨロですッ!」
「わかった、キュウちゃんね」
「はいっ!」
無邪気な笑顔に自然と癒される。
対して、黒髪の子なんだけど……ずっとこっちを睨んでる。
よく観れば白磁の肌が陶器みたいにきれいな別嬪さん。切れ長の目にキレイな黒髪ストレートヘア。身長はキュウちゃんと同じぐらい。
な、なんで睨まれてるんだろう……?
「ほら、マルティッもちゃんと挨拶するっすっ!」
「……。マルティーヤです。マルティとでも」
鈴が鳴るような綺麗な声だけど、不機嫌、というには明らか過ぎる私への敵意がはっきりわかる。
この2週間のうちに何かしちゃったかな? 一緒の部署で仕事したことあったっけ?
記憶を探りながら挨拶する。
「よろしく、マルティちゃん」
「マルティ、と。愛らしい語尾をつけられるのは、好きじゃありません」
「わ、わかったわ、マルティ」
記憶を一通り探っても、彼女と接するのはこれが初めてのはずだ。
もしかしたら、いきなりこんなど素人の部下っていうのは先輩メイドとして愉快なものではないのかもしれない。
そう考えて、先に謝っておく。
「あの、さっそくこんな事言うのもなんなんだけど……正直、他人に仕事を振るっていうの、あんまり得意じゃないの。メイドの仕事も覚えたばっかりだし、あなた達に聞くことの方が多いかも。ごめんなさい」
マルティはよく分からない表情のままそっぽを向くけど、キュウはテンション変わらずあっさり答えてくれた。
「いいっすよーっ、オレら、姐さんの下につけるってだけで光栄っすしっ! なんでも頼っちゃってくださいっ! あ、じゃあまず、婦長様に言われた庭掃除からちゃっちゃとやっちゃいましょーかっ! お互いの自己紹介でもしながらっ!」
キュウはそんな私をフォローしつつ、率先して仕事を割り振ってくれた。
なんていい子なんだろう。婦長様が有能っていうわけだ。
マルティはその間も無言で、ときどき探るような目を向けてきてる。
彼女とは、はたしてこれから上手くやっていけるだろうか……?
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