第26話 ずっと友達

 お昼は園内のレストランで食べた。

 特別美味しいわけでも、何か園内の動物と関係があるわけでもないご飯だけど、やっぱり人と食べると美味しく感じる。

 基本的に高校の昼休みは一人だし。


「なんかもう結構回っちゃったね~」

「そうだね。俺達、途中走り回ってたし」

「そうそう! 瑛大君体力あるよね」

「はは、千陽ちゃんこそ」

「うちは部活やってるからさっ」


 高校生という事もあって、元気が有り余っていた俺達は大はしゃぎで園内を楽しんだ。

 日差しの暑さは気になったけど、俺と違って千陽ちゃんは野球部のマネージャーだし、その辺強そうだ。

 逞しくて羨ましい。


 二人でオムライスやナポリタンを食べながら会話を続ける。


「瑛大君門限とかある?」

「ないよ。千陽ちゃんは?」

「うちも平気。……ってことは、遅くまで一緒に居れるね」

「うん」


 そもそもうちの保護者は親ではなく姉だし、周りの家庭よりも緩いと思う。

 今まで友達と遊びに行く経験がなかったから実感はなかったけど、こうして遊びに来た時に門限に悩まされないのは好都合。

 なんて考えていると、家を出る前の姉の顔を思い出した。


『瑛ちゃん、デート楽しんでね』

『で、デートって……』

『デートじゃん。弓川先輩も応援してたよ』

『そ、そっか』


 すっかり姉と仲良くなっているつなちゃん。

 弓川という苗字で言われると一瞬反応できないけど、あの人も一応大学生だからな。

 サキュバスというイメージの方が強すぎて変な感じだ。


「瑛大君、結構明るく笑うよね」

「え?」

「ごめん。なんか前までとイメージ違って」


 言われて自分の頬を触ってみる。

 そういえば、千陽ちゃんと初めて絡んだ日も俺は最悪な気分だった。

 同級生に馬鹿にされ、虐められて辛かった時だから。

 だけど、あれから千陽ちゃんに元気を分けてもらったりして、毎日が少しずつ楽しくなってきた。

 叶衣さんへの勘違いが晴れたり、また話せるようになったり、あとはつなちゃんとの事もそうだけど、明るさを取り戻せたという面では千陽ちゃんのおかげだと思う。


「千陽ちゃんのおかげだよ。一緒に遊べて、すごく楽しいんだ。俺、高校に入ってからこんなの初めてでさ」

「もー、なにそれ。大げさだよー」

「ははは、そうかな」


 千陽ちゃんにとって大げさでも、俺には違う。

 恥ずかしいからこんなタイミングでは言えないけど、心から言いたい。

 好きになってくれてありがとう、と。


「これ食べ終わったらもう一回ゾウを見に行かない?」

「いいね。うち、その後でサル見に行きたい」

「あ、ゾウの横にいたのに見てなかったな。行こっか」

「うん!」



 ◇



 夕方になって、俺達はおみやげショップに足を運んでいた。

 もうそろそろ帰るため、最後に買い物だ。


「部活には買わなくていいや。変な詮索されてもウザいし」

「俺はねーちゃんと……その友達くらいかな」


 つなちゃんという名前を出すとおかしな空気になりそうだったため、そういう言い回しをした。

 と、そんな俺の顔をまじまじ見る千陽ちゃん。


「月菜ちゃんにはいいの?」

「え」

「別にうちに気を遣わなくていいよ?」


 少し寂しそうに笑いながら言う千陽ちゃんに、俺は真っ直ぐ視線を返した。


「気なんて遣ってないよ。ってか、急に渡されても困惑するだろうし」

「まぁ他の子とのデートで買ったおみやげとか困るか」


 デートと言われて、つい思考が止まった。


「で、デート?」

「うちはデートだと思ってたけど。そもそも告白しちゃったから気持ちバレてるし。瑛大君は少しもそういうつもりなかったんだ」

「い、いや! そんな事は!」


 俺もデートだと思っていた。

 正直友達とのお出かけという感覚の方が強かったけど、全く意識していなかったわけじゃない。

 女の子の二人きりで動物園なんて、シチュエーションからしてデートと考えるのが普通だ。


「まぁなんでもいいよ。うちもデートとか抜きにして、普通に友達として瑛大君と遊びたかったって気持ちあるし」

「ごめん。俺も正直デートって意識してたから」

「そ、そっか」

「うん」


 言っていて顔から火が出そうだ。

 そしてそれは千陽ちゃんも全く同じらしく、似たような顔をしながら恥ずかしそうに笑いかけてきていた。

 やっぱりめちゃくちゃ可愛い。


「……えへへ、でもそっか。ちゃんとうちの告白、考えてくれてたんだ」

「……勿論」


 仮にどんな答えを出したとしても、俺が想いに向き合おうとしたのは事実だ。

 千陽ちゃんはそれが嬉しかったらしく、にこりと笑った。


「お揃いのキーホルダー買いたい」

「いいよ」

「ずっと友達でいようね」

「勿論」


 彼女の言葉のニュアンスに少し引っかかりつつ、俺も頷いた。

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