第25話 動物園デート

 動物園に着いた。

 家族で行った経験も大してなければ、友達と行くのなんて初めてだったから、正直ドキドキしていたけど、案外すんなり入れた。


 隣では千陽ちゃんが手を額に当てて日差しを防ぐ。


「なんか思ったより暑いねー」

「そうだね。昼が近くなったきたからかな」

「タオル持ってきててよかった~」


 俺達は二人ともリュックサックで来ていた。

 高校生だし、そもそもお洒落なバッグなんてそんなに持っていない。

 一応タオルとか、最低限の荷物は用意している。


「何から見に行く?」

「やっぱ最初は目立つ奴が良いな」

「ゾウとかキリンは大きいから目立つよね」

「そうだね。それ見に行こうか」


 俺達は入り口でもらったパンフレットを見ながら、とりあえずゾウを見に行こうと歩いた。


「うち、おっきい動物好きだな」

「派手だし、見てて楽しいよね」

「そうそう! 元気貰えるんだよ」


 それこそゾウなんてパワフルだもんな。

 大きい動物はこういう場所に来ないと見れないし、レアな感じもする。

 俺も好きだ。

 だけど、なんだかな。


「わー、おっきい」

「……」


 ダメだ、なんか俺の心、汚れてるかも。

 純粋にゾウを見て感心している千陽ちゃんの声が、俺には卑猥に聞こえてしまった。

 複雑な心境である。


「なんだかゾウって凄く優しい目してるよね」

「そうだね」

「ちょっと瑛大君みたい」

「え? 俺ってゾウに似てるの?」


 驚いて聞くと千陽ちゃんは焦ったように首を振る。


「ご、ごめんごめん! 全然悪口じゃないよっ! どっちかって言うと褒め言葉だから! 瑛大君って凄く優しい目してるし、見てると落ち着く」

「そ、そうなんだ。初めて言われたな……」


 ゾウに似ているなんて言われるのは初めてだ。

 じっと見ていると、なんとなくゾウも俺を見ているような気がした。

 確かに、落ち着くな。

 こんなに大きくて見下ろされているのに、不思議と怖くはならない。


 その後、俺達は色んな動物を見て回った。


 水中にいるのに意外と迫力満点だったカバや、ゾウとは反対に目が合うと脳から危険信号が出てくるトラ、そしてめちゃくちゃ首が長いキリン。

 久々の動物園だったけど、二人して子供みたいに興奮して騒いだ。


「どの子もマジ可愛い!」

「そうだね」


 千陽ちゃんは満足しているみたいだ。

 まだ入園して一時間も経っていないのに、既にこの充実感。

 流石テーマパークである。


 そして、多分こんなに楽しいのは環境のおかげだけじゃない。

 一緒に居るのが千陽ちゃんだからだ。


 千陽ちゃんはニコニコしながら俺の手を引っ張る。

 いつの間にか自然に手も繋いでいたし、なんだか不思議だ。

 昨日まで同じ学校の同級生だったのが、急に距離が近くなった気もする。


「瑛大君って、何の動物が好きなの?」


 不意に聞かれて、俺は咄嗟に変な事を口走った。


「サキュバス……」

「え?」

「あ、いや。はは、何言ってんだろ」


 無意識に意味の分からない事を言ってしまった。

 恥ずかしくて顔が熱くなってくる。

 そもそもあれは動物ではないし。


 と、千陽ちゃんはクスクス笑った。


「瑛大君って、意外にえっちなの好きなの?」

「え!? そ、そんなことないよ!」

「大丈夫だよ別に。男の子だもん」


 あらぬ勘違いをされてしまった。

 すぐに訂正しようとするけど、これ以上サキュバスについて語るのもぼろが出そうだからやめる。

 なんでサキュバスとか言ったんだ俺……。


「ってかなんかごめん、気付いたら手握ってた」

「あはは、そうだね」

「このままいてもいい?」

「……うん」


 照れながら聞いてくる千陽ちゃんに、俺はぎこちなく頷いた。

 今日の千陽ちゃんはいつにも増して可愛い。

 私服姿で俺と二人きりという事もあって、なんというかこの子を俺が独占してるって感じがする。

 こんなの初めてだ。


「次は何を見に行きたい?」

「うちはちっちゃくて可愛い子が見たいかな」

「じゃあウサギとか見に行ってみる?」

「あ、それ大賛成」


 俺達はそのまま手を繋いで、歩き出した。

 なんだかんだ思ったより、デートになっている。

 幸せ過ぎて、本当に俺の人生なのかわからなくなってきた。

 俺なんかがこんな幸せを味わって良いのだろうか。

 いつか今の幸せが倍になって不幸になったりしたらどうしよう。


「見て見て、馬がいるっ!」

「先に馬見てから行こっか」

「うん!」


 まぁいいや。

 とりあえず今楽しいから、これでいいんだ。


 俺は日頃のストレスを忘れて、千陽ちゃんとの動物園デートを楽しんだ。

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