第24話 待ち合わせ

 土曜日の午前、俺はコンビニ前で人を待つ。

 服装は高校進学時に姉が選んでくれた、お洒落っぽい服だ。

 よく母親が買ってきた服を着る男子について話題に上がるが、果たして姉が選んだ服もタブーなのだろうか。

 母親と違って年齢も近いし、俺よりおしゃれ意識も高い。

 おかしな格好はしていないと思うけど……。


 若干不安に思いつつ、何度も自分の服を見下ろした。

 そんな事をしていると。


「瑛大君!」

「千陽ちゃん、おはよう」

「うん、おはよう」


 待ち合わせていた千陽ちゃんがやってきた。

 いつもの制服と違って私服姿は新鮮だ。

 膝くらいまでの丈のスカートから零れ落ちる足が眩しい。

 野球部のマネージャーという事もあって、少しスポーティーに見える。


「変じゃないかな?」

「めっちゃ可愛い。いいと思う」

「え、えー? 嬉しいんだけど」

「あ、その。ははは」


 つい思ったまま素直に褒めたのはあまり良くなかったのかもしれない。

 顔を真っ赤にしてもじもじし始めた千陽ちゃんに、俺も恥ずかしくなってくる。

 や、ヤバい。

 今日の千陽ちゃん超かわいい。


「瑛大君の服も可愛くていいね。服のセンス好きかも」

「ま、マジ?」

「大マジだよ。色とか形とか、なんかお洒落な大学生の男子みたい。たまにスタバとかで見るよ」

「そっか」


 俺は心の中で姉に向かって感謝を叫んだ。

 ねーちゃん本当にありがとう!


「じゃ、じゃあ行こっか」

「そうだねっ。マジ楽しみ」

「俺も」


 動物園なんて久しぶりだ。

 しかも一緒に行くのは大好きな千陽ちゃん。

 昨日はなかなか寝れなかった。


 二人でバスを待ちながら話をする。


「高校入って誰かと二人で遊ぶの初めてだ」

「そうなの?」

「うん。まぁ部活もあるし、放課後むさくるしい男子と一緒に居るから、女子とも遊ぶ機会ないんだよね」

「なるほど」


 俺は部活というものに所属したことがないからあんまりわからないけど、忙しそうだし、人と時間が合わなくなりそうではある。

 特に男子部活だし。


「野球部の男子と遊んだりしないの?」

「どういう意味?」

「え」

「うち、瑛大君以外の男子と二人で遊んだりしないけど」

「……そ、そっか」


 告白されたから当然と言えば当然かもしれないけど、嬉しかった。

 一気にドキドキしてくる。

 あれ、千陽ちゃんってこんなに可愛かったっけ。

 いつもと顔や表情も違って見えた。


「それに、普通に今まで人生で一度も男子と遊んだことないかも」

「そうなんだ」

「自分でも意外なんだよね。なんでそんなに男子と接点のなかった自分が、野球部のマネージャーしようと思ったのかなって」

「確かにそうだね」

「なんかさ、正直カッコいい先輩いないかなーとか思ってたんだけど、まさか全然違う所でカッコいい人見つけるとは思わなかった。あはは」


 それってもしかしなくても、俺の事だよね?

 なんだか気恥ずかしくなって髪を触ってしまう。


「そういえば飲み物とか買わなくて良かったの? コンビニ目の前にあるけど」

「うちは大丈夫。トイレ行きたくなっちゃうし」

「バスの中で漏らしたら大変だもんね」

「そうだよ。うち結構トイレ近いから気をつけなきゃ」


 苦笑しながら言う千陽ちゃん。

 漏らした事でもあるのかというような過剰な心配が可愛い。

 いや、もしかすると本当に漏らした経験があるのかな。

 ……いやいや、まさかな。

 仮に何か起きたら全力でサポートしてあげよう。


「千陽ちゃんってマネージャーしてるけど、自分はスポーツするの?」

「中学の時はソフトボールやってた。野球部マネはその延長って感じ」

「なるほど。見たかったな」

「じゃあ今度バッティングセンターとか行く? あとは無難に公園に行ってキャッチボールとか。瑛大君も運動得意そうだし」

「そんなことないけどな。部活経験もないし」

「でもこの前のサッカー上手だったよ? あの後女子の間で結構盛り上がってたんだから。うちはちょっと嫌だったけど」


 女子の間で盛り上がったのは、百二十パーセントつなちゃんのキスの効果だよな。

 まぁなんでもいいか。


「とりあえず今日は動物園を楽しもう」

「うん!」


 デートはまだ始まったばかりだ。

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