第23話 お弁当
昼休み、俺は早々に昼食を終えて図書室へ向かった。
男子から嫌われている事もあり、やはり教室は居心地が悪い。
特に読書が好きなわけでもないけど、なんとなく静かな空間を求めて俺は図書室に行くことにした。
「あ」
中に入ると、丁度ノートを持った叶衣さんに遭遇した。
彼女は俺を見て驚き、そのまま持っていた荷物を落とす。
「ご、ごめん」
驚かせたことに謝りつつ、俺はノートを拾おうと屈んで気付いた。
「これ、課題の解答……?」
落ちたノートのページが開いて中が見えたのだが、それは先程の授業で与えられた課題の答案だった。
早速取り組んでいたとは、仕事が早い。
流石叶衣さんだ。
見た目は若干ギャルっぽい陽キャな叶衣さんだけど、実は真面目な優等生であることを知っている。
そんなギャップにも惹かれていた。
と、中身に気付いた俺に叶衣さんはノートを拾い上げる。
「櫻田君、昨日休んだからこの問題解くの大変でしょ」
「ま、まぁ」
「学校なんかサボるからそうなるの。馬鹿みたい」
軽く怒られ、俺は苦笑した。
全くもってその通りなため、否定するところもない。
しかし、叶衣さんはそのまま俺にノートを渡してきた。
「……はい」
「え?」
「だから、解くの困るでしょ? 見ていいよ」
「ま、マジ?」
「ん。あ、でも、最初から答え見ちゃダメだから。難しいときに参考にする程度にしなきゃ、先生にバレてまた怒られるかもしれないし」
「それは確かに」
もう怒られるのは嫌だな。
本格的に保護者を呼び出されて怒鳴られそうだ。
当たり前だけど、無断で学校から抜け出すのはかなり問題行為だったし。
「櫻田君のために早く終わらせたんだから感謝して」
「え、俺のため?」
「知らない仲でもないし。隣の先の人がフォローしてあげなきゃダメでしょ」
若干素っ気なく言う叶衣さんが優しすぎて、俺は目を丸く見開いた。
「なに?」
「いや、本当にありがとう。いつかお礼するよ」
「……じゃあ話し相手にでもなって。今日友達が休んでるからお弁当食べる人いないの」
「お、俺でよければ全然いいよ」
「ってか櫻田君ご飯は?」
「もう食べた」
「はやっ」
男子と女子じゃ食事スピードが違うのだろうか。
そもそも、俺の場合駄弁る友達もいないから食べる速度が上がるのは必然だけど。
なにはともあれ、ひょんなことから叶衣さんと一緒に過ごすことになった。
◇
「こんなところ初めてきた……」
「穴場だよ。たまに一人で来てたの」
叶衣さんに連れてこられたのは最上階のスペースだった。
窓から中庭の景色も見えるし、人も来なくて良い場所だ。
「なんで人少ないんだろう」
「上まで上がってくるのがダルいからってのと、この辺りは上級生が勉強してるから騒げないのよ」
「なるほど」
「あたしらは大声出さないし、好都合」
そんな事を言いつつ弁当箱を開ける叶衣さん。
中身は彩り豊かな可愛い弁当だった。
「美味しそう」
「あたしが作ったんだけど」
「凄い! 叶衣さんって料理もできたんだね」
「ありがと。……何かいる?」
「え」
まさかの声掛けに俺は声が漏れる。
叶衣さんは弁当箱を見せながら、じっと見つめてくるだけだ。
もらっちゃって、良いんだよな……?
「じゃ、じゃあ卵焼き」
「うん。どうぞ」
「あ、ありがとう」
箸が一善しかないため、必然的にあーんしてもらう俺。
好きだった人に手料理を食べさせてもらうという理解が追い付かない状況に、俺は混乱しつつも卵焼きを食べる。
味はめちゃくちゃ美味かった。
「めっちゃ美味い!」
「っ! ……そっか。よかった」
叶衣さんもそう言ってすぐに弁当を食べ始める。
俺が使った箸で。
紛うことなき間接キスである。
一瞬突っ込みそうになったけど、叶衣さんは気にして無さそうだから躊躇った。
なんだかキモい奴みたいだし。
「最近クラスの男子に嫌がらせされてないの?」
「……どうだろ。でも、叶衣さんが普通に接してくれるし、前ほど辛くはないかな」
叶衣さんも優しくしてくれるし、俺には千陽ちゃんも、そしてつなちゃんもいる。
あとなんだかんだ、自分のせいでもあるしな。
女の子に心配されて少し恥ずかしくなってくる。
「あたし、あいつらの事絶対許さないから。櫻田君に何をしたのかはあんまり知らないけど、みんなにそれとなく聞いたら、あたしが裏で男子にビッチ呼ばわりされてるのはわかったし」
「叶衣さんは、そんな子じゃないもんね」
「あと普通にうちのクラスの男子、キモい奴多過ぎ」
不快そうに顔を歪ませる叶衣さんに、俺は笑った。
と、その顔を見て叶衣さんも笑う。
「あはは、ってか櫻田君って意外にスポーツできるんだね。昨日びっくりした」
「運動神経は結構良いんだよ」
「ちょっと、カッコよかった」
「……そ、そっか」
つなちゃんのキスの効果もあるとは言え、ナチュラルに叶衣さんから褒められ、俺は天にも昇る気持ちになった。
なんだか、嬉しいな。
ちゃんと自分を見てくれる人がいるって、幸せな事だ。
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