第22話 反省

 翌日、学校をサボって無断で早退した件について、滅茶苦茶怒られた。

 当然だけど、結構真面目に怒られて震えた。

 学校からは勿論、姉からも。

 事情を話すこともできないし、甘んじて受け入れざるを得ない。

 久々に姉に怒られて、正直凹んだ。


 そして学校でも職員室に呼び出されて大目玉をくらった。

 別室で反省文も書かされたし、最悪。

 自分のせいとは言え虚しい。


「ふぅ……」


 反省文と説教の地獄から解放された俺は、昼前になってようやく自分の教室に戻れた。

 隣の席にはいつも通り叶衣さんがいる。


「……櫻田君、昨日何してたの?」

「ちょ、ちょっと学校怠くなっちゃってさ」

「え、やば。そんな不良系だったっけ?」

「ま、まぁね」


 別の女子に告白されたなんてこの子には絶対に言えないし、俺は曖昧に誤魔化す。

 叶衣さんは驚いたような顔をしつつ、すぐにプリントの束を渡してくれた。


「これ昨日の分」

「あ、ありがとう」

「ノートもあれだったら見せてあげる。次はないけど」

「優しいね」

「別に、櫻田君の事、嫌いじゃないし」

「え?」


 突然の言葉に目を見開く俺。

 今のは聞き間違え……ではないよな。

 そもそも最近は結構話すようになっていたし、あまり嫌われているという気もしなかった。

 付き合うのが無理=嫌いって、そんな単純じゃないか。


 と、そこで俺は千陽ちゃんの事を考える。


 昨日告白されてから、連絡も取っていない。

 遊びに行くのは目前なのに、このままでは約束通りにデートするのかも怪しい雰囲気になっている。

 早く話をしなければいけない。


「あ、どこ行くの?」

「ちょっと、用があって」

「ふーん」


 俺は立ち上がり、千陽ちゃんのいるクラスを目指した。


 しかし廊下に出ると、すぐに行く手を阻まれた。


「ちょっとツラ貸せよ、不良陰キャ」

「……」


 立ちはだかるのは藤咲と山野だ。

 俺に殴られた藤咲は勿論、昨日の体育で恥をかいた山野も目が据わっている。

 今にもぶん殴らなきゃ気が済まないって顔だ。

 なるほど。

 面倒だけど、こいつらと話をつけないと先に進めそうにない。


「この前殴ったのは悪かった。謝る」

「謝って済むと思ってんじゃねーぞ」

「うっ」

「おい藤咲、ここじゃ人目につくって」

「チッ、ガチイラつくんだよ。こいつのこの不細工な顔見てると」


 廊下でみぞおちを蹴られ、俺は腹を抑えた。

 ここまで思いっきり暴力を振るわれたのは初めてかもしれない。

 だけど、文句は言わない。

 俺もこの前手を出したし、何か言い返す権利があるのかどうかもわからない。

 とりあえず、早く退いてもらいたいだけだ。


「……もう、いいかな?」

「これで気が済むわけねーだろ。お前、放課後マジで殺すからな」

「それも困るな……」


 俺は週末にデートを控えているんだ。

 その直前にボコボコにされるのは良くない。

 いや、どんなタイミングでも殴られたくないけどさ。


 どうしよう。

 もう一度どちらかを殴るのが良いだろうか。

 でも、多分警戒されてるし、上手くいく気がしない。

 そもそも暴力で解決ってのは好きじゃない。

 この二人とやってることが同じだし。


 だけど、やられっ放しも困る。

 不快だし、あまり千陽ちゃんたちに不甲斐ない姿を見せ続けるのも不本意だ。

 仕方ない。


「ていうか二人とも、大ウソつきだね」

「は?」

「叶衣さんに聞いたよ。二人が言ってた叶衣さんの話、全部作り話だって。同級生の女子に偏見だけでそんな作り話広めて、どういうつもりなんだ」

「お前、月菜に言ったのか……?」

「そんなのどうでもいいだろ。あと、誰が言ってたかは喋ってないし」

「お、おう。それはよかった……」

「でも、多分気付いてるよ。謝りに行ったら?」


 あんまり弱みに付け込みたくはなかった。

 なんだか小賢しい気分になるし。

 だけど、この二人がいつまでも暴力的な姿勢を取るなら、俺も手段を択ばない。

 ダサいとか言ってられるか。

 やられっ放しの方がダサい。


「ごめん、もういいかな」

「あ……」

「一応もう一回言っておくけど、この前殴ったのは本当に反省してる。藤咲ごめん」

「……」

「じゃあ」


 何の反論もしてこない二人の間を通り、俺は前に進む。

 と、丁度そこで千陽ちゃんに出くわした。

 彼女も予想外だったらしく、ハンカチで手を拭きながらフリーズする。


「瑛大、君……」

「千陽ちゃん、こんにちは」

「う、うん。もう昼だもんね」

「あのさ……」


 昨日、千陽ちゃんに真っ先に何を伝えるべきか、帰った後も一人で考えた。

 そしてやっぱり、まずはこれを言うべきだと決めてきたんだ。

 俺は深呼吸をした後、できるだけ笑顔を意識して、千陽ちゃんみたいな明るい口調で言ってみた。


「週末、楽しみだね」

「っ!? ……うん。超楽しみっ」

「よかった」


 一瞬驚きつつも、すぐに泣きそうな顔で言ってくれた千陽ちゃんに胸を撫で下ろした。

 内心俺も心臓バックバクだったから、本当に安心した。

 よかった、普通に遊びに行ってくれるらしい。


「瑛大君、昨日早退したんでしょ?」

「あー、うん。なんかサボりたくなっちゃって」

「ウケるんだけど。じゃあ次はうちも誘ってよ。一緒に抜けだそ?」

「あはは。反省文めっちゃ書かされるけど大丈夫?」

「うわ、それはマジヤダ」

「でしょ?」


 普段通り会話をしながら、俺達は人目も憚らずに笑う。

 とりあえず一件落着だ。


 告白の返事は、週末にすればいい。

 本当に、よかった。

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