第8話 モテ期到来

 数日が経過した。


 あれからつなちゃんと会うことはなく、少しだけ毎日メッセージのやり取りをする程度だ。

 つなちゃんにとって俺は精気を補充するための道具であり、あくまで都合のいい人間に過ぎないはずだが、毎日優しい。

 起きたら『おはよう』が届いて、寝る前は『おやすみ』と送ってくれる。

 そしていつも嫌な事がなかったか聞いてくれる。

 もはやサキュバスというより、天使な気がする。


 そんな事もあって、俺は比較的楽しく日常を送ることができていた。

 ……学校でどんな扱いを受けても。


「いたっ」

「あ、悪い。手が滑った」


 体育の時間。

 一人だけ壁とバレーボールの練習をしていると、後頭部にボールをぶつけられた。

 振り返ったそこにいたのは、陽キャ二人組。

 この前トイレで脅してきた藤咲と、あの日一部始終を盗み見ていたもう一人の山野だ。


 彼らは俺の方に寄ってくると耳打ちする。


「最近月菜とはどんな感じ?」

「……話してない」

「えー、振られたから話しかけるのチキってるん? だっせー、それでも男かよ」

「……」

「あ? なんかイラつくなぁお前の顔」


 藤咲に睨みつけられ、俺はどうすることもできずにただ視線を返した。

 しかしそれが気に障ったらしく、突き飛ばされる。


「痛いから暴力はやめてくれよ」

「はぁ? 誰に指図してんの? ゴミ陰キャの癖に」


 もう一人、山野の方が俺を見下ろして鼻で笑う。

 この人は高身長で顔もイケメンなのに、どうしてこんなに残念なんだろうか。

 神様は不公平だ。

 この顔を俺にくれたらよかったのに。

 いや、もうこいつのイメージが染みついてしまって、この顔も大してカッコよく見えないけど。


 なんていじめられながら体育の授業をこなした。

 最近、ずっとこんな感じだ。



 ◇



「はぁ……」


 放課後、男子達に絡まれるのを嫌ってトイレの個室に籠り、下校時間をずらした。

 ここ数日毎日こうやって巻いている。

 面倒臭いが仕方のない事だ。


 しかしまぁ、男子のいじめも酷くなってきた。

 まだ男子が見ているところでしか行われていないため、女子からの反応が普通なのが救いだが、それでも辛いものがある。


 ここでつなちゃんが言っていた通り、モテモテ高校生活~的な展開がきたら胸熱なんだけどな。

 実際女子から普段よりは優しくしてもらえているが、それだけ。

 モテモテとは程遠い。

 ハーフだから効果は薄いと言っていたし、そのせいなんだろう。


 ため息を吐きながら廊下を歩いていると、一人の女子生徒に遭遇した。

 確か隣のクラスの子だ。

 野球部のマネージャーだった気がする。


 その子は焦っていた。

 どこかに資料を運んでいたようだが、盛大に床にまき散らしてしまっている。

 それを拾おうとして困っていた。


 見て見ぬふりするほど薄情な人間でもないため、俺はそれを手伝う。


「ありがと……!」

「大丈夫だよ。ってかどこに持っていくんだ? 一人じゃ大変だろ? 手伝うよ」

「本当に!? マジ助かるよぉ~。今から体育教官室まで運ばなきゃいけなくってさ」

「わかった。半分持つから」

「……うん」


 俺はそこからその女子を手伝った。



 ◇



「今日は本当にありがと」

「全然大丈夫だよ。それより部活は平気なの?」

「うん。今日はオフで、ただ頼み事されてただけだから」

「そっか」


 用が終わった後、俺は女の子とそのまま一緒に下校していた。


「自己紹介まだだったね。うちは丘野千陽おかのちよ

「あ、俺は櫻田瑛大」

「櫻田って、どこかで聞いたような名前」


 首を傾げる彼女に、俺は内心苦笑した。

 恐らく、同じクラスの野球部の男子が何か悪口を言っているのだろう。

 あることないこと言われているに違いない。


 と、そんな俺に丘野さんは言ってくる。


「連絡先交換したい!」

「え?」

「いやほら、変な意味じゃないよ? ただ入学直後で友達少ないし、これからも瑛大君と仲良くしたいな~って思って」

「そ、そっか。じゃあよろしく」

「うん! やった」


 嬉しそうに笑う丘野さんは超絶可愛い。

 野球部のマネージャーなんてたくさんの男友達がいるだろうに、こんなに喜んでもらえて俺も幸せだ。

 なにより、こんな感じで女子から友達になりたいって言われたの初めてだしな……。

 初めて?


 俺はそこで冷静になった。

 そしてじっと丘野さんの顔を見つめる。


「……な、何? 顔に何かついてる?」

「いや」

「ぶ、不細工かな?」

「いやいや、めちゃくちゃ可愛いと思うけど」

「っ!? もー何言ってんの!?」


 顔を真っ赤にして言ってくる丘野さんに、俺は確信を得た。

 これ、サキュバスの効果だ。

 最近キスしていなかったが、効果は持続していたらしい。


 モテ期が来たのだ。


「あのさ」

「どうかした?」

「今度良かったら遊びに行かない? 二人で……さ」

「わかった」

「ほんとに!? また今度連絡するね!」


 ニコニコしながら手を振る丘野さんと、俺は別れた。

 どうやら俺の高校生活は、まだ終わっていなかったらしい。

 胸熱展開が、訪れた!



 ◇


【あとがき】


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 よかったら是非読んでみてください!


『うちの双子ちゃんは二大美少女の"貧乳は短気"論争に終止符を打つ救世主になるのか』

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