第6話 サキュバスの家

「あ~瑛大君!」

「こ、こんにちは」

「可愛い。待っててくれたの?」

「はい」


 学校が終わった後、俺はつなちゃんと待ち合わせ場所に指定されていた隣街の駅までやってきていた。

 数十分待っているとつなちゃんが手を振ってくる。

 今日も今日とて超可愛い。

 美人過ぎて眩しいくらいだ。

 俺だけじゃなくて、周りを歩く人の視線も軽く集めているのがわかる。

 流石つなちゃん。

 やっぱり人並外れた魅力が、この人にはある。


「ごめんね。授業遅い時間まで入ってたから」

「い、いえいえ。ちゃんと出席してて偉いです」

「あはは。よしよししてくれてもいいよ?」

「お、俺が?」

「あれ。瑛大君はされるの専門系?」

「そ、そういうことでもないですけど」


 こんな人の頭を撫でるのなんて、恐縮過ぎる。

 なんて話していると、つなちゃんは俺の隣に立って通りを指差しながら言った。


「じゃあ行こっか」

「どこに?」

「私の家だよ~」

「え」


 特に深い意味がありそうでもない、軽い発言だった。

 だけれども、俺はその言葉について、含まれた意味やこれから想定される事を考えて込んでしまう。

 家? つなちゃんの? それも女子大生の?

 そしてなにより、ハーフサキュバスの家って?

 一体何をするつもりなんだろう。

 まさか……カラオケじゃできなかったような事?

 それってもう……。


 つなちゃんは歩きながら隣の俺の顔を覗き込む。

 そしてニヤッと笑った。


「えっち」



 ◇



「お、おじゃまします……」

「どうぞ~。ごめんね。ごちゃごちゃしてるけど」


 つなちゃんの家はなんだか暗かった。

 カーテンが閉め切られているせいかわからないけど、普通の一般家庭よりどこかダークな雰囲気があるというか。

 照明もつけてないため、辺りの電子機器の淡い光だけが光源となっている。

 なんだか、思った女子大生の部屋とは、違う。


 きょろきょろしているとつなちゃんはベッドに腰をかけて笑いかけてきた。

 シーツの擦れる音が、物凄くえっちに聞こえる。

 ヤバい、なんか俺、変だ。

 ぼーっとする。


「ごめんね~。今日は下着干してないや」

「べ、別にそんなの探してないです!」

「あれ。女子大生の家だよ? それも巨乳女子大生」


 ぎゅっと胸を強調してくるつなちゃん。

 つい凝視してしまい、慌てて目を逸らす。


 部屋に通してもらった後、ずっと肩を縮こまらせていた俺はそのまま促されるがまま、彼女の横に座らせてもらう。

 柔らかいベッドだ。

 なんだか濃くて甘い香りがする。


 お互いベッドに座った後、じっと見つめ合って緊張したため、俺は頑張って話を振った。


「ってかなんで家なんですか」

「今日は見せたいものがあって。で、場所取るのって意外にお金かかるからさ。じゃあ私の家でいっか~って思って」

「見せたいもの?」

「そう、私の体」


 つなちゃんは今日もロングスカートを履いていた。

 上は青いシャツで、胸の大きさが良くわかる。

 というか、シャツの下につけているであろう下着の形も少しわかった。


「ほら、私サキュバスだからさ。一応尻尾を生で見せてあげようと思って」

「な、生!?」

「うん。だから家に呼んだの。流石に外じゃ脱げないからね」

「脱ぐんですか!?」

「そりゃ脱がなきゃ見せられないじゃん。……あとこれはお詫びでもあるんだよ」


 つなちゃんは少し真面目なトーンで続けた。


「やっぱりキスする前に唾液の事を言っておくべきだった」

「……」

「今日嫌な事なかった?」

「ありました」

「ごめんほんとに」

「いや、つなちゃんのせいじゃないですよ。元から嫌われてたっぽいですし」


 確かにキスのデバフ効果のせいもあるだろうけど、それだけじゃ説明がつかない。

 俺は今日あったことを全部つなちゃんに報告した。


「うーん。多分嫉妬の効果が出始めてるね」

「嫉妬?」

「今の君、基本的にどの女子もときめくくらいカッコいいオーラが出てるの。で、多分教室とかの女子に良いなって思われ始めてたと思うんだよ」

「ま、マジですか」

「で、それをなんとなく感じ取った男子が嫉妬しちゃったのかな」


 女子とは会話すらしていないんだけど。

 いや、待てよ。

 おかしなことはあった気がする。


 いつもは真顔でプリントを配布してくれる女子が超笑顔だったり、女子の落とし物を届けた際に引くほど感謝されたりしたこととか。

 確かに、今までの人生ではない好反応だった。

 あれもモテ効果だったのか。


「でも関係ないです。元から俺の事虐めるつもりだったらしいので」

「そっか……。じゃあ私が慰めてあげないとね。ん」

「……」


 つなちゃんはそのまま俺の唇を奪った。

 今日もプルプルで瑞々しい唇だ。

 せっかくまともになっていた俺の理性が、また一気にぼーっと滲む。


「頑張ったね」

「……はい」

「でも大丈夫。これからもっといいことあるよ。サキュバスのキスを受けた男の人は、基本的に総じて幸せな人生を送れるんだから」


 暗い部屋の中、俺はつなちゃんに抱きしめられた。

 柔らかくて温かい体だ。

 なんとなく背中に腕を回すと、つなちゃんは嬉しそうに笑った。


「なんか年下の子が癖になりそう」


 幸せだ。

 今日あった嫌な事が全部吹き飛ぶ。

 虐めと言っても男子からだけだし、まだそこまで派手でもない。

 つなちゃんにキスしてもらってハグしてもらえたら、お釣りがくるレベルだ。

 今日一日、頑張ってよかった……。


 俺はそのまましばらくつなちゃんに頭を撫でられた。

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