第5話 地獄の教室
翌日の学校は案の定地獄だった。
教室に入るや否や、突き刺さる男子連中からの視線。
どれも嘲笑や侮蔑だ。
その中心にはニヤニヤと悪意の塊みたいな笑みを向けてくる例の陽キャ二人がいる。
「はぁ」
彼らが言っていた通り、どうやら今日から本当にネタにされていじられ続けるらしい。
いや、いじられるだけなら良いんだけど。
なんとなく周囲を見渡すけど、返ってくるのはただ馬鹿にしてるってだけではなさそうな雰囲気である。
しかも何がヤバいって、今日が入学して間もないという事だ。
今クラスカーストの底辺にされてしまうと、今後の三年間すべてが地獄になる。
それだけはどうにか避けたいのに……。
不穏な空気を感じ取りつつ、俺は授業の支度をした。
この教室は地獄だ。
◇
「櫻田く~ん」
「いたっ」
休憩時間、トイレに行くと肩に腕をかけられた。
昨日俺の告白を見ていた陽キャの一人、藤咲である。
そいつは俺の肩に回した腕に力を入れながら絡んでくる。
「ちゃんと学校来たんだな」
「一々失恋くらいで休んでられないから」
「えっら。だけど、来ちゃって大丈夫なん? もうクラスの男子みんなにバレちゃってるからさ」
お前がバラしたんだろ、とは言わない。
ほぼ首を絞められているような状況で俺は藤咲をタップするだけだ。
藤咲は力を込めた腕を解いてくれない。
「男子みんなキレてるぜ?」
「ど、どういうこと?」
「叶衣月菜は知っての通りあの見た目からモテるんだよ。それにお前みたいなきしょい陰キャが勘違いして告白したとか、普通に激おこ案件なんだわ」
「……」
「身の程弁えろよ」
ドンッと突き飛ばされて壁に背中をぶつけた。
反動で後頭部も打つ。
痛い。
「ははっ。だから虐められちゃうかもね?」
「……叶衣さんは知ってるの?」
「はぁ?」
「お前たち男子が俺の事を標的にいじめてるって、知ってるの?」
「さぁ、知らねーんじゃね? 男子のグルで決まったことだし。あ、お前以外のクラスの男子全員がいるグループね」
「そ、そんなのあったんだ」
「お前みたいなゴミがいたらしらけるんだよ」
胸ぐらをつかまれてガンを飛ばされる。
逃げるのはダサいから嫌だったため、俺も正面から見つめ返した。
とかなんとかやっていると、トイレに同じクラスの男子が入ってきた。
何度か話したことがある人だ。
知り合いだし、助けてくれると思って俺は少し安堵する。
だけれども、そんな俺の顔を見た藤咲はニヤッと笑った。
「おい佐野」
「ん?」
「こいつとお前仲良かったっけ?」
俺を指して言う藤咲。
トイレに入ってきた佐野は俺の顔を見た後、首を傾げた。
「誰こいつ」
「ふははっ! 同じクラスのやつにそれはねーだろ!」
「いや、話したこともないから」
俺は目を見開いた。
つい昨日も会話した、入学後間もない交友関係の中では割と仲が良い人だったのに。
こいつもそっち側なのか。
胸ぐらから手を放してもらう。
「もっとこれからいじめ倒してやるからな~」
捨て台詞を吐いた後、藤咲は消えていった。
◇
絶対におかしい。
ありえないほど嫌われている。
俺は教室に戻った後、話し相手すらいないため一人で考えた。
いくら告白失敗がバレて拡散されたとしても、ここまで嫌われる理由が付かない。
正直今にも逃げ出したいレベルの境遇だけど、異常過ぎて逆に冷静になっていた。
なんでこんなに嫌われているのだろうか。
まさか、つなちゃんのキスの効果?
あのキスには女子からモテるというバフ効果と同時に、男子から嫌われるというデバフ効果もあると聞いていた。
それが効いているのだろうか。
元から陰キャだとは思われていたみたいだし、高くない好感度にデバフ効果が相乗しているとか?
だからなんだって感じだ。
そんな事を思っていると、どこかに行っていた隣の席の叶衣さんが戻ってきた。
チラッと見ると、何故か目が合う。
叶衣さんは難しそうな顔で俺見つめていた。
怖くなったため、俺はすぐに目を逸らした。
きっと嫌われているんだ。
そりゃあんな迷惑そうな振られ方をしたし、頭ではわかっていた。
これから叶衣さんには話しかけないようにしよう。
俺となんか口をききたくないだろうし、何より周りの目もある。
さらに反感を買うのはごめんだ。
そして叶衣さんに迷惑をかけるのも避けたい。
何故かじっと見つめられているような気がしたが、俺は無視してスマホを開く。
と、ちょうどメッセージが入っていた。
『今日も会いたい』
昨日連絡先を交換していたつなちゃんからのメッセージを見て、俺はこぶしを握る。
とりあえず乗り切れば、楽しい事が待っている。
先の事はまた後で考えよう。
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