第4話 バフ効果
つなちゃんと別れた後、俺は帰路に着いた。
思えば濃い一日だったな。
大好きだった叶衣さんに告白して振られて、そのまま陽キャ男子二人に色々言われたかと思えば、公園でハーフサキュバスの女子大生に出会った。
その後にはファーストキスまでさせてもらっている。
唇にはまだつなちゃんのぷるっとした感触が残っていた。
「だけど、忘れちゃいけない。明日からは要注意しないと……」
問題は男子連中だ。
二人の口ぶり的に、明日から虐められかねない。
俺だけならまだしも、叶衣さんにまで迷惑をかけるのは最悪だし、できる限り回避しなくては。
そのためには少しでも仲良くなりたいんだけど。
「つなちゃんの毒で男子には嫌われやすくなってるのが問題だ……」
毒のせいで嫌な方に転ばないことに賭けよう。
まぁつなちゃんの話を聞いた感じ、メリットの方が多そうだったし。
女の子にモテモテになったら、どんなに嬉しいだろう。
その流れで叶衣さんに告白されたりして……。
楽しみになってきた。
なんて、楽観的な事を考えながら家に帰ると、既に同居人が帰宅していた。
「おかえり瑛ちゃん」
「ただいま。ねーちゃん早いね」
「授業面倒で抜けてきた~。今日体調良くないから」
テーブルに突っ伏してぐったりしながら言う姉。
確かに体調は悪そうである。
「じゃあ今日は俺が夕飯作るよ」
「ほんと~? 瑛ちゃん優しいね。大好き」
「はいはい」
うちは姉と俺の二人で暮らしている。
というのも、姉の大学と俺の高校が近く、実家からはかなり離れているため、春から一緒に暮らしているのだ。
姉も今年大学一年生でこの春から新生活だった。
「ってかねーちゃん、入学早々欠席とか大丈夫なの?」
「大丈夫。友達もいるし、万が一の時は教えてもらうー」
「そっか」
今日は大学サボりをよく見る気がする。
つなちゃんも大学をサボっていたらしいし、そういう日なんだろうか。
それにしても、ハーフサキュバスの女子大生か……。
「ね、ねーちゃん」
「なに?」
「サキュバスって知ってる?」
「えー?」
俺の問いに姉はニヤニヤ笑いながら俺を見てくる。
「なにそれ。瑛ちゃんどんな本読んでるの?」
「あ、いや。別に俺の趣味とかじゃなくて! ただその、存在は知ってるのかな~と思って」
「サキュバスってえっちなやつでしょ? よくファンタジー作品とかに出てくる」
「そうそう」
「どれがどうかしたの?」
聞かれて、俺は躊躇いつつも続けた。
「サキュバスって実在すると思う……?」
質問を聞いた瞬間、姉は一瞬真顔になった後に盛大に吹き出した。
あり得ないくらい笑った。
「なにそれ! いるわけないじゃん!」
「だ、だよね~」
「あんなのフィクションに決まってるよ。瑛ちゃんほんとにどうしたの? なんか変な趣味できたの?」
「い、いや? とりあえずなんとなくだよ。嫌だなぁ、俺だってサキュバスなんて信じてないから」
まぁ、当然の反応だった。
そりゃそうか。
サキュバスなんて、実在するとは思わないよね。
つなちゃん自身も基本的には隠している様子だったし。
……あれ?
じゃあなんで俺には正体を明かしたんだろう。
まぁいいか。
難しい事を考えるのはやめよう。
なんだか姉と話していたらさっきの出来事も夢なんじゃないかって思い始めてきた。
そうそう、きっと揶揄われていただけだ。
モテ期なんてそう簡単には訪れない。
無駄な期待はやめておくのが吉だぞ、俺。
◇
その日の夜。
お風呂に入った後、リビングでゆっくりしていると、隣で寝転がってスマホを見ていた姉がふと俺の方を向いた。
「ど、どうしたんだよ」
「いや、なんか瑛ちゃんの顔つきが変わったような気がして」
「えぇ?」
「なんか凛々しくなったかも」
「そんなわけないでしょ。変わんないって」
むしろ今は後ろ向きなはずだ。
好きな子に振られて関係ない奴にもバレてしまっているし。
明日からの高校生活は不安しかない。
しかし、そんな俺に姉は首を傾げる。
「おかしいな。瑛ちゃんの横顔がイケメンに見えてきた」
「ねーちゃん、それ普段はイケメンじゃないって事の裏返しなんだけど」
「いやいや、普段は可愛い系じゃん?」
「なにそれ」
なんだよ可愛い系って。
都合のいい褒め言葉とはまさしくこれだ。
まぁいいや、褒められるだけマシ。
と、そんな事を考えながらため息を吐いて、俺は手に持っていたスマホを落とした。
「瑛ちゃん?」
「……」
違う。
姉の勘違いじゃないかもしれない。
俺の顔が凛々しく見えたというのは、事実かもしれない。
そう言えばつなちゃんが言っていたじゃないか。
女子にモテやすくなるって。
姉は、一応女の子だ。
「ねーちゃん、今の俺カッコいい?」
「うん」
「……」
肉親だから流石に恋愛感情ではないんだろうけど、いつもとは違うところを褒められて確信する。
俺は今、つなちゃんの――サキュバスのバフ効果でモテやすくなっているようだ。
ニコニコ笑う姉の顔を見ながら、俺は苦笑と共に背中に冷たいものを感じた。
あれは、夢じゃない。
つなちゃんは、本当にサキュバスだったんだ。
◇
【あとがき】
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