第2話 サキュバスとの出会い
「カラオケ……?」
「うん。カラオケ嫌い?」
「いや、好きですけど」
さっきの公園からお姉さんに連れてこられた場所は、カラオケだった。
時間も時間だし、てっきりご飯を食べながら軽く話し相手にでもなってくれるのかと思っていたから、意外な場所に驚いた。
まぁ歌うのはストレス発散になるからいいんだけど。
しかし問題はお姉さんだ。
俺の隣にぴったりくっついて座っている。
座る場所はもっと広くあるのに。
触れ合う方の柔らかさや、そんな彼女から香るシャンプーや柔軟剤の匂いが甘くて、くらくらしそう。
五感全てで今隣にいるのが女性なんだと意識させられた。
「ち、近いですね」
「あは、照れてる?」
「そ、そんな事はないです」
「あれー? 絶対嘘だよね? 顔真っ赤なのに」
「……」
言いながらぎゅっと俺の手を握ってきたお姉さんから、もっと甘い香りがする。
髪や服、至る場所から学校じゃ嗅ぎなれない匂い。
我ながらキモいとは思うけど、意識してしまう。
と、お姉さんは俺から離れた。
普通の距離感を取ると、そのまま自己紹介を始める。
「私、
「つな、さん?」
「そう。平仮名でつな。つなちゃんでいいよ」
「……可愛い名前ですね」
「ありがとう。私大学生なんだ~。今日はたまたま人探ししてて、そしたら丁度いいところに君を見つけたんだ。えっと」
「
流石に公園のブランコに乗りに来たわけではなかったらしい。
あくまで疲れて寄った場所で、たまたま出会ったという偶然。
つなちゃんはふっと考えるような仕草を見せた後、すぐに「よし」っと言って俺に向き直った。
「私サキュバスなの」
「……はぁ?」
「サキュバスってわかる? フィクションに出てくる淫魔っていうのかな? 男性の精気を吸って生きる悪魔みたいな奴」
「存在は知ってますけど」
俺はじっとつなちゃんを見る。
普通の美人大学生だ。
いや、普通とはかけ離れて綺麗な容姿だけど、要するに人間にしか見えなかった。
「正確にはハーフサキュバスなの。半分は人間」
「そ、そうなんですね」
「尻尾とかも生えてるんだよ。隠してるだけで」
ロングスカートの中にそんなものがあるのかと、興味が湧いた。
だけどめくるわけにもいかないため、俺は佇まいを直す。
っていうか、俺は何を真面目に考えているのだろう。
サキュバスなんて本当にいるはずがない。
揶揄われているだけだ。
速くなっている鼓動の音なんて、絶対気のせいに違いない。
純粋だと言われることが多い人生だったけど、流石にそんなフィクション染みたジョークを信じるほど間抜けじゃない。
「あれ、信じてない?」
「証拠がないので」
「弱ったなぁ。初めて会った男の子にお尻見せるのかぁ。まぁでも、信用してもらいたいし、脱ぐね」
「えぇ!? いやいやいや! 信じますから!」
その場でベルトを外し始めたつなちゃんを俺は止める。
何考えてるんだこの人!?
いくら信じて欲しいからって、会って数十分の知らない男子高生にお尻を見せようとするの!?
それもこんな美人が……。
「まぁいいや。話続けるね」
「あ、はい」
「私ハーフサキュバスだからさ、生きるためには男の人の精気が必要なんだよ。でも彼氏とかいないし、困ってて。で、色々考えてたらそこら辺の男の人を捕まえようって考えに思い至ったの」
「だ、大胆ですね」
「でも私、年下が好きでさ。あとガサツな人とか苦手だから、なんか理想に会う人見つけらんなくて。今日は大学サボって探し回ってたのに結局見つけられなくて、丁度公園のベンチで休もうとした時に――瑛大君を見つけた」
つなちゃんはとろっとした目で俺を見る。
じっと、熱い視線だ。
え……? えぇ!?
「む、むむむ無理ですッ! 俺童貞だし!」
「あはは、可愛い。あんまりいないよ? 自ら宣言する童貞君」
「ちょ、ほんとに!」
「何焦ってんのか知らないけど、別に瑛大君を襲う気はないよ。私も童貞君とはえっちしたくないし~」
「……」
プイっと顔を背けて言うつなちゃんに、自分から断っておきながらちょっと悲しくなった。
先程叶衣さんに振られてついた傷も若干開いた気がする。
「あ、ごめん。失恋で落ち込んでるんだっけ。相手の子は大人な感じだったんでしょ? 切ないよね~」
「可愛い子なので、俺なんかとは釣り合ってなかったんですよ」
「……」
それこそあの二人に言われた通りだ。
陰キャの癖に勘違いした俺が悪い。
身の程知らずって奴だ。
なんて思っていると。
「つ、つなちゃん?」
「慰めてあげるって言ったでしょ?」
「……ありがとう」
「ううん」
つなちゃんは優しく抱きしめてくれた。
あまり意識しないようにしていたけど、豊満な胸が押し付けられて俺はぼーっとする。
これ、どのくらいあるんだろ。
Eカップとか? それともFカップとかあるんだろうか。
しかし、すぐに俺は目に入った
「ごめんっ。やば、ちょっと興奮してきちゃったから……」
つなちゃんの背後にはそれがあった。
さっき、俺が認めようとしなかったそれが。
尻尾が、生えていた。
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